世界に復讐を誓った少年

やま

13.実験(腕輪)

「……ふぅ、久し振りの外だ」


 ダルクスに生と死の狭間と世界を繋ぐ穴を作ってもらいやって来たのは、メストア王国のどこかの村の近くの森。いきなり町なんかに行っても数に負けるだし、まだ、攻める時じゃない。


 それに、今回の目的は腕輪の性能の確認と吸魂のネックレスに魂を入れるのが目的だ。あんまり派手にやり過ぎても、後々に手間が増えるだけだしな。狭間の世界にいれば見つからないだろうけど、それでも用心に越した事はない。


「おおっ! 久し振りの外だ! この香り、懐かしいぞ!」


 ……こいつが面倒な事をしなければだが。


「リーシャ、わかっていると思うけど、目的は僕の力を試す事だから。羽目外し過ぎないように」


「わかっているさ、マスター。私も普段と戦時の区別ぐらいはつけている。それに、この近くの村から感じる魔力では、マスターだけで十分だ。私が出る幕はない」


 まあ、わかっているならいいや。僕は地面に手をつき魔力を流す。この森に眠る死体を探す……やっぱり魔物が住んでいる森は死体もあるね。


 見つけたのはウルフの骨が5体、ゴブリンの死体が12体、レイスが8体か。まあまあの数だ。他にもまだあったけど、村程度ではこのぐらいでいいはずだ。


「おお、修行の成果が出ているな、マスター。毎日訓練用のスケルトンを作っているだけある」


「この程度はな。だけど、これでもまだまだ足りない。道のりは険しいよ」


「なに、どんな壁が立ち塞がろうとも、マスターの剣である私が全てを貫いてやろう」


 そう言いながら胸を張るリーシャ。こういう風に堂々としているところはかっこいいと思う。あんまり褒めると調子に乗るだろうから言わないけど。


「そうかい。それなら頼りにさせて貰うよリーシャ。さて、お前たち。この近くに村があるはずだ。そこへと向かえ。人間は殺さずに動きを封じるだけでいい」


 僕の言葉にカクカクカタカタと頷く死霊たち。うーん、あまりわかっていなさそうだな。ダルクスも言っていたけど、自我の無い魂を使った魔物は簡単な命令しか出来ないらしいし。


 僕が命令をすると走り出す死霊たち。まあ、殺したとしても魂が手に入るから構わないが。よし、僕もクロノから渡された仮面とローブを付けて行くかな。どちらも変哲も無い普通のものである。


 リーシャもいつの間にか顔を全部覆うフルフェイスの兜をかぶっていた。前世の名残かもしれないが全身に白と金色で輝く鎧。月夜に照らされている姿は美しいが


「お前、死霊にしては花がありすぎるな。全身真っ黒の鎧に変えるか」


「なっ! この鎧は聖騎士団長に任命された際に聖王から賜ったものだぞ! それを脱ぐなど……」


「恨んでいる聖王国に貰ったものだぞ?」


「……あっ」


 僕の言葉に考えるリーシャ。まあ、決めるのはリーシャだ。僕は仮面を付けて村へと向かう。既に叫び声や怒鳴る声が聞こえてくるから戦闘は始まっているのだろう。


「ほら、リーシャ、行くよ。僕の剣になってくれるんだろ?」


「むっ、そ、そうだな。行こうか」


 しばらく森の中を歩くと臭ってくる血の匂い。この匂いにも慣れてしまったな。まあ、自分の血の匂いでだけど。


「早く戦えない者や女子供は逃がせっ! 男たちは盾になれ!」


「くそっ! このスケルトンドッグ速い! そっちに行ったぞ!」


「誰か魔法が使える奴はいないのか! レイスがくるぞ!」


「く、来るな! 来るなぁぁぁっ!」


 おうおう、これは中々激しく争っているじゃ無いか。ゴブリンゾンビが3体ずつ、4方向から攻めて、スケルトンドッグが自由に動き回る。レイスが空から逃げ場を封じていた。こんな命令はしていないけど、本能でやっているんだろうな。


 この村はどうやら戦える者が4、5人程度しかいないようだ。実力も僕の村にいた連中より低い。村の中央で戦っている者と、逃げる者を率いている者、力的には率いている方が強いな。


 僕たちは逃げる方へと向かう。小さな村だから少し回るように歩けば辿り着く。そこには20人ほどの女子供に、3体の内の生き残った最後のゴブリンゾンビを叩き切る老齢の騎士がいた。


「おおっ! さすがロウレイさんだ!」


「ロウレイおじちゃんカッコいい!」


「皆の者、それでは行くぞ。他の男たちが時間を作ってくれている間に隣の村……何奴だ!」


 近づいてくる僕たちに気が付いた騎士は剣を向けてくる。うん、この人になら腕輪の力を試す事が出来そうだ。


「何、怪しい者では無いよ。ただ、彼らを操っている主とでも言っておこうか」


「なっ! それじゃあ、この村を襲ったのはお前か! 一体何のためにこの村を襲う! 金か? 女か?」


 ……なんか1人で熱くなる老騎士。昔は年寄りの昔の話を聞くのも好きだったけど、今は耳障りな雑音にしか聞こえない。


「どちらも今はいらないな。僕が欲しいのは実験体とお前たちの魂だけだ」


 僕はそういいながら稚拙な暗黒魔術を発動。攻撃系はまだそこまで得意じゃ無いけど、両手に黒い球を作り老騎士に向かって放つ。


 老騎士は、体に魔力を纏わせて黒い球を避けながら向かって来る。確か魔力を纏って身体能力をあげる技だったかな。だけど、断然リーシャの方が速い。


 リーシャは戦いはまず目で慣れろとか言って、速度は本気で来るからな。未だに目では追えない速さだ。そのおかげで老騎士は遅い遅い。


 直ぐに殺せるけど、腕輪をつけた状態でどの程度動けるか試さないと。切りかかって来る老騎士の剣を手で掴む。その瞬間、パキン、と折れる剣。


「なっ!?」


「なっ!?」


 老騎士と同時に驚く僕。いや〜、びっくりした。殆ど力入れずに軽く握っただけなのに剣が折れたぞ。これは力加減を練習しないと。


 僕が自分の手を見ている間に、距離を取る老騎士。折れた剣は使えないと思ったのかその場に捨てて懐からナイフを取り出して構える。


 良し。次は自分から攻めてみようか。足に力を込めて踏み出す。すると、今までとは比べものにならないくらいのスピードが出た。毎日リーシャに走らされたせいで、こっちは加減が出来ている。


 目の前には老騎士が目を見開いていた。驚き過ぎだろ。戦闘初心者の僕でも、それがダメな事が分かるよ。


 老騎士に向かって殴りかかろうとした時


「うおっ!?」


 僕の足に何かが引っかかった。この感じは……自分で自分のローブを踏んだらしい。バランスを崩して老騎士では無く、地面を殴ってしまった。その瞬間、弾け飛ぶ地面。同時に右腕に響く衝撃。痛え! 腕が折れた!


「……マスター。加減を知らないのか?」


 後ろで呆れたような声を出すリーシャ。加減ぐらい知っているよ! くそ、慣れてないから力加減を間違えただけだ。僕は治癒魔法で腕を治す。


 ダルクスに教えてもらったけど、人間って魔力を流すだけである程度の傷は回復するらしい。確かに魔力が高い人は、傷が治りやすいと言うのを聞いた事があった。それをより回復しやすくしたのが、治癒魔法なんだとか。


 これから死体を使ったりするお前も覚えておけ、って言われて基本の事は覚えたけど、まさか初めに使うのが死体ではなく自分とは思わなかったね。


 だけど、腕輪の力は少しはわかった。もう少し試したいけど、地面を殴った衝撃で吹き飛ばされた老騎士は、もう半死の状態だ。足なんて違う方に曲がっているし。


 さて、次はネックレスの方を試させて貰おうかな。

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