世界に復讐を誓った少年

やま

8.呼びし魂

「ここが目的の場所だ」


 ダルクスに連れてこられたのは、生と死の狭間の世界で、まだ、生の世界に未練を残して、死にきれていない者たちが集まる場所だ。


「しかし、こんな事で良いのかよ。俺は……」


「別に良いと言っただろ。あんたは自分でも言っていたが、生きる気のない奴を殺したところで復讐にはならない。それに、確かにあんたのせいで僕たちがこんな目にあっているけど、暗黒魔術の力を使えるのはあんただけだ。僕はあんたほど頭は良くない。自分で使いこなせるなんて思っちゃいないからね」


「だから、俺に使い方を教えて貰うと?」


「ああ、僕も自分の手で復讐がしたいからね。神の力を頼らないといけないのは癪だけど、女神の力でないだけマシだし、世界を敵に回すんだ。そんな甘い事は言ってられない」


 ダルクスから昔の話を聞いた後、ダルクスをどうするかという話になったけど、僕は彼から暗黒魔術について教えて貰う事にした。


 僕はこの事の元凶である女神を許さない。だけど、女神を殺すためには聖王国を相手しなければならない。当然聖王国の奴らも許さない。そのための力は、夢でのダルクスの戦いを見た限り、同じ能力を持っている僕にもあると思う。


 ただ、それを扱うだけの技量と知識を持ち合わせていない。自分で思いつくほど賢くもないし。だから、この力に詳しいダルクスに教えてもらう事にした。その方が今後のために役に立つ。


 そのためにここにやって来たのだが。ここにくる前にある事をして来た。それは、母さんの遺体の埋葬だ。


 僕はてっきり村において来てしまったと、後悔していたのだけど、ダルクスが気を利かせて僕と一緒に運んでくれたのだ。しかも、傷なども治した綺麗な姿で。死んでいると知らなかったら眠っているんじゃないかと思うほど穏やかな表情を浮かべていた。


 あんな仕打ちをされて、どうしてこんな顔が出来るのかわからなかった部分もあるけど、それよりも、僕なんかのせいで死んでしまった事に対する悔しさと、最後は僕に向けて微笑んでくれた嬉しさが混ざり合っている。


 ただ、もう二度と会えないと思うと涙が止まらないのだけど。この狭間の世界で遺体を埋葬した時も、ずっと止まらず泣いていた。そして、母さんの墓に誓ったんだ。必ず復讐すると。


「まずは魔力を自分で使えるか? これは魔法でも魔術でも基本だ。自身の魔力がわからなければ、どちらも使う事は出来ない」


 母さんの事を思い出していると、ダグラスが魔力について確認して来た。ダルクスの言葉に僕は大丈夫だと、手のひらを上に向けて見せる。同年代の中では1番練度が低いけど、それでも最低限のウォーターなどは使える。


「よし、それなら、耳に魔力を集めてみろ。そうすると暗黒魔術師のお前なら死者の声を聞く事が出来るはずだ」


 僕はダルクスに言われた通りに耳に魔力を集める。すると、頭が割れそうなくらい声が入ってきた。な、なんだこれは!?


「聞こえたか? それはここにいる死霊の雄叫びだ。もう、自我の無い魂はただ叫ぶだけだが、偶に死してなお自我を持つ魂がある。ただ、そいつらを僕にしようとしたらかなりの魔力が必要になるから気をつけろよ」


 これが死者の叫び。頭にガンガンと響く。怒号、怨嗟、絶叫、様々な叫び声が次々と頭に鳴り響く。普通ならこれを聞いただけで発狂しそうだが、痛みに慣れた僕には耐えられる。皮肉な事に。何百という人間に体中をナイフで刺されるより断然マシだ。


 頭に響く叫びを流しながらも魔力を放出し続ける。その時、その魔力に自分の怒りを乗せる。聖王国、女神に対する怒りを、憎しみを。


 さぁ、僕と一緒に復讐したい者、暴れたい者はいないか!? 今ならそのための力を与えてやる! さあ、どうする!?


 僕は魔力を放出しながら死者たちに問いかける。後ろでダルクスが話しかけてくるが、今はそれどころでは無い。より広く、より濃く放つ。


 すると、この魔力に反応があった。僕は反応があった魂に魔力を注ぎ込む。うおっ!? 注ぎ込んだ瞬間、物凄い量の魔力を持っていかれる! 歯を食いしばり、気を失わないように耐える。


 すると、僕の魔力に反応した魂が2つ近づいて来た。たった2つ。これだけ死者の魂がある中でたった2つだけど、それは仕方ない。だって、元々自我のある魂を呼ぶために魔力を放出したのだから。


 今、暗黒魔術を使ってみてわかったけど、自我の無い魂は魔力さえ注げばいつでも操る事が出来る。自我のある魂も、魔力で無理矢理押さえつければ同じ事が出来るけど。


 今回はそういうのじゃなくて、僕の目的に賛同出来る自我のある魂を探した。僕と同じように聖王国に恨みのある魂を。


 僕はやって来た魂に更に魔力を注ぐ。すると、半透明の魂から生前の姿へと変えていく。片方は地面から這い上がって来た鎧の首無し騎士の肉体に魂が入り肉体を得て、片方はレイスから実体化した。


 首無し騎士は、手に自分の頭を持っているのだけど、見惚れるほど綺麗な女性の頭だった。よく見れば鎧も女性の体の曲線に合わせるように作られている鎧だった。気がつかなかった。金髪のウェーブのかかった長い髪が揺れている。


 もう片方のレイスは、ボサボサの茶髪をした男性だった。物凄く怠そうに僕を見てくる。どちらも歳は20代ほどだ。


 ……今までは信じられなかったけど、こんな力が僕にはあったのか。あんな間に合う前ならこの力に恐怖していたけど、復讐しかない僕にはこれ以上ない力だ。目の前に佇む2人を見て思わず笑みを浮かべてしまった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品