異世界で彼女を探して何千里?

やま

41.帝国最強

「……い! ……ろよ……スト! おいってば!」


 誰かが俺の体を揺らす。やばい。全身が痛い。出来れば揺らすのをやめてほしいが。俺はそんな事を思いながら目を開ける。目の前には俺を心配そうに覗き込むフランとフリューレ、それから子竜。そして涙目のクリアさんが目に映った。


 俺は痛む体に鞭を打って何とか起き上がる。まだ少し頭がクラクラとするが周りを見てみると、目の前には悲惨な光景が広がっていた。


 燃え盛る建物、泣き叫ぶ子供、動かない親。先ほどまで人で賑わっていた通りも倒壊した家屋により道として機能していなかった。


「ゼスト、体調はどうだ?」


「……クリアさん、体中痛いですが動かす事は出来ま……クリアさん、今俺の名前を?」


 こんな時に不謹慎だが、聞かずにはいられなかった。だって、今まで俺の事を名前で呼ばずに小僧と呼んでいたあのクリアさんが俺の名前を呼んだのだから。


「ちっ、今はいいだろうが。それよりもあの竜だ。立てるなら立ちやがれ」


 だけど、クリアさんは立ち上がりそっぽを向いてしまう。教えてはくれないようだ。仕方ない。確かに今はそれどころじゃないしな。


 俺は立ち上がって体を動かす。うん、創造魔術のおかげか思ったよりも怪我が軽い。その代わりに創造していた武器は吹き飛ばされたが。


「帝国の兵士はどうなったんです? 助かった人たちがいるはずですが」


「あれを見ろ」


 クリアさんが顎でくいっとする方を見ると……マジかよ。まさかあそこが崩れているとは。


 俺たちの視線の先には皇城がある……半壊しているが。白竜の攻撃が重点的に当たったのだろう。皇城に張られていた魔法障壁が粉々に砕け散っている。


「あそこが潰されたせいで兵士はそれどころじゃねえ。逃げ惑う住民も無視してあそこに戻ってやがる」


「それじゃあ白竜は今どこにいるんだ?」


「白竜も皇城に向かった。奴は片っ端から潰していくつもりだよ」


 不味すぎるだろ、それ。早い所この子竜を親のところへ連れて行かないと帝都は復旧不可能なところまで行ってしまう。


「キュル!」


 白竜が向かった皇城を見ていると、フリューレの背中から子竜が羽ばたき、俺の前で飛ぶ。キュルキュル、キュルキュル、と何かを話してはいるが、残念な事にわからない。だけど、何が伝えたいかはわかった。


 俺は優しく子竜の頭を撫でる。子竜はビクッと震えるが、俺が優しく頭を撫でると、俺の顔を見てくる。


「安心しろ。お前の親を殺させるような事はしない。だから、俺たちを助けてくれ。お前が鍵だ」


「……キュル!」


 俺の言葉を理解して頷く子竜。さて、やる事は決まったけど、どうやってあの白竜を止めるか。取り敢えず皇城に向かうか。


 俺たちは皇城へと向かう事にした。道中、倒れている人や泣き叫ぶ子供を見かけたが、今は白竜を止める事が、みんなを助ける事に繋がるだろう。また、暴れでもされたら困る。


 俺たちが皇城へと近づくに連れて大きくなる戦闘音。まだ、生存者はいるようだ。自然と走る足に力が入る。


 皇城へと辿り着いて初めに目にしたのは、大きく壊された城壁。大きく揺れる地面。かなり暴れているようだ。


 俺たちは白竜が子竜を探すために皇城で暴れ回って探しているのだと思っていた。しかし、俺たちが見た光景は、俺が思っていたのと違っていた。俺たちが見た光景は


『ぐっ、人間がぁ!』


「全く、とんだ悪だな。僕の大切な故郷をここまで壊すなんて。絶対に許さないぞ!」


 傷まみれの白竜が1人の若い男へと腕を振り下ろすところだった。白竜の一撃なんて大地を割るほどの威力だろう。当然受け切れるはずが無い。そう思っていたのだが、男は全く避けるそぶりも見せず自身の持つ剣を振り上げた。


 男が振り上げた際に剣が光り輝き、白竜の足とぶつかる。ぐっ、衝撃波がここまで届いてきた。それと同時に弾き返される白竜の足。マジかよ。


 白竜の爪と男の剣がぶつかり合うが、男は怯まないどころか自分から進んでいく。白竜はこのままでは押し負けると思ったのか、自分の領域である空へと逃げる。しかし


「そこが安心だと思いましたの!?」


 崩れた皇城から放たれる一陣の矢。矢は一瞬で白竜へと迫り翼を貫いた。突然翼を貫かれた白竜はバランスを崩す。更に白竜を撃ち墜とそうと矢が次々と放たれて行く。


 白竜は何とか避けようとするが、初めに射抜かれたのが効いているのか、動きが鈍い。次々と矢が刺さって行く。


「落ちなさい! グラビティ!」


 そこに追い打ちをかけるように魔術が放たれた。白竜はガクッと動きを止め、次の瞬間には地面へと落ちて行く。そのまま地面に縫い付けられて動けない。


「飛ばれると厄介だな。切り落とす」


 金髪の男はそう言って剣を振ると、白竜の翼が切り落とされる。何なんだあいつら……強過ぎるだろ。皇城に響く白竜の声。それに耐えきれなくなった子竜は、白竜の元へ飛んで行ってしまった。


「キュルキュル!」


『……あぁ、我が愛しの子。無事だったか』


「キュッ! キュル!」


『そうか、私が攻撃した人間に助けてもらったのだな。それはその人間に悪い事をしてしまった』


 先ほどまでが嘘のように優しい表情で子竜と話をする白竜。子竜も嬉しそうにパタパタと翼を揺らし、白竜に甘える。


 良かった。これでこの親子は助かる。そう思い見ていたのだが、俺の考えは物凄く甘かった。穏やかな雰囲気になる中、1人の男が白竜へと近づく。そして振り上げる剣。


「まさか、悪の竜に仲間がいたとはな。悪いがより悪に染まる前に殺させてもらう!」


 そんな意味のわからない事を言いながら剣を振り下ろす男。白竜は咄嗟に子竜を弾き飛ばし体を動かす。白竜は、男の剣を避けきれず、右前足を切り落とされた。そのままバランスを崩してその場に倒れる。


 子竜は涙声を上げながら横たわる白竜の顔へと近づきペロペロと舐める。白竜はそんな子竜を見て


『我が愛しの子よ。私はあなたの事をあい……」


「悪よ、滅びろ。バーストエッジ!」


 ズドババババン!


 と、斬撃が走る。子竜は爆風に吹き飛ばされ地面を転がる。子竜は頭をぷるぷると振り先ほどまで白竜がいたところを見る。今はまだ砂煙が立ち込めているが、次第に晴れて行く。そして、姿を現れたのは……首の無い白竜の死体だけだった。

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