異世界で彼女を探して何千里?

やま

10.固有魔術

 魔術


 前世では無かったものだ。この世界の人間は、誰しもが体内に魔力を持っている。それは多い少ない差はあるが、絶対にだ。


 そして、魔力には属性というものがあって、それにあった魔術が使えるようになる。大まかな種類は、赤魔術、青魔術、緑魔術、白魔術、黒魔術と。


 赤魔術は、火や雷などの攻撃魔術に、攻撃力などを上げる身体強化が出来る魔術だ。


 青魔術は、水や氷といった水関係の魔術を使う事が出来、他には回復魔術なども使う事ができる。


 緑魔術は、風や土の魔術が使え、速度を上げたり、風や大地から音を聞いて索敵が出来たりと、サポート系の魔術が多い。


 白魔術は、光系の魔術が使えるようになる。中には呪いを解呪したり、アンデッドにならないように、なった相手を浄化したり、それから封印系、防御系の魔術が多い。


 黒魔術は、白魔術の反対で闇系の魔術が使えるようになる。相手を操ったり、呪いをかけたり、少し普通の魔術とは違うものになる。


 それらの他には無属性魔術というのがある。これは魔術の適正がなくても使える魔術で、小さな火種を起こしたり、少しの水を出したりと簡単な魔術の総称になる。これは訓練次第では誰でも使えるようになる。


 それらに含まれない魔術、それが固有魔術だ。昔の伝記などでは重力を操ったり、空間を繋げたり、と様々な魔術があったそうだ。他の魔術に属さず、その人のみが使う事が出来る魔術。それを総称して固有魔術と言われている。


 まだ「神木 誠也」の記憶が戻る前、俺の記憶の中にあるゼストは、この固有魔術について訓練をしていた。多分本能でわかるのだろう。自分には使えると。


 その結果、魔術暴走を引き起こし、俺は大怪我をした。俺の記憶が蘇るきっかけになった事故だ。


 だけど、その時の暴走のおかげで、固有魔術をより完璧に発動出来るようになったのは、皮肉な話だ。


 俺はナイフを持ち、笑いながら迫る赤髪の男を、見据えながら体中に魔力を流す。まずは奴の速度についていかなければ、話にならない。


 俺は、固有魔術を発動。そして


「おら、死ねよ!」


 俺の首を狙って振られるナイフを俺は避ける。赤髪の男は先ほど以上の速さの攻撃を、俺が避けた事に少し驚いているが、更に攻撃してくる。


 俺は男のナイフを、右手に持つ翡翠色の短剣で受け止める。


「なっ!? 貴様板の間にそんな短剣を!? さっきまで何も持っていなかったのに!」


「さあ、いつだろう、なっ!」


 俺は男のナイフを弾き、右足で回し蹴りを放つ。男は飛んで避けるが、俺が蹴りを放った事により、風の斬撃が放たれ、男の後ろへと飛んでいった。


「なっ、お前緑魔術を使ったのか!?」


 まあ、今の光景を見ていたらそう思うよな。確かに俺は緑魔術の適正はあるが、今のは違う。全ては右手に持つこの翡翠色の短剣の効果だ。


 俺の固有魔術、創造魔術によって創り出された、この風魔の短剣の効果のな。


 風魔の短剣の効果は、俺に風属性の攻撃を付与し、速度を上げるというものだ。これのおかげで、男の速さについていく事が出来るようになり、先ほどの回し蹴りで風の斬撃を放つ事が出来たのだ。


 これが俺の固有魔術、創造魔術の力だ。俺が想像し創造した武器や防具をそのまま使う事が出来る。強力な物を作る程魔力の消費は激しいのだが。今の風魔の短剣でも、持って数分だろう。


「へへっ、ようやく成功ってか? なら俺も本気を出さなきゃな!」


 ディッシュは、俺の魔術を見て体中に魔力を流す。すると、ディッシュの体を赤い魔力が覆うように巡り出した。これが前に話していた「鬼人化」か。


 強化魔術を無理矢理暴走させて、普通の強化魔術の数倍の能力を得る事が出来るようになる。ただし、効果が切れた後は、体への負担が大きいため、あまり使う事が出来ないって言っていたな。


「ちっ! 揃いも揃って変な魔術を使いやがって! とっととぶっ殺してやる!」
  
 赤髪の男は両手にナイフを持ち駆け出して来る。俺は両足に風を纏い、速度を上げて男へと向かう。男は俺に向かってナイフを投げて来るが、俺は空いている左手に風を纏わせ、ナイフを弾く。


 そして、逆手に持った風魔の短剣を袈裟切りで振ると、男は俺の右腕を左手で弾いて逸らして来る。男は右腕で俺の顔目掛けて殴りかかって来るが、そこに


「おらっ!」


 ディッシュが男へと切りかかる。男は俺から距離を取って避けるが、ディッシュが更に追いかける。速さはこれでようやく互角といったところか。


「ちっ、鬱陶しいぜ! そらよっ!」


 そこで、男は何を思ったか空中に適当に手持ちのナイフを放り投げた。ディッシュは気にする様子もなく男へと迫るが、次の瞬間、バラバラに飛んでいたナイフが、空中で切っ先をディッシュに向けて、飛び始めたのだ。


「ディッシュ!」


 俺は咄嗟にディッシュの声を呼ぶと、ディッシュも気が付いたのか、向かって来るナイフを剣で叩き落とす。


 その隙を突こうとする男へ、牽制のため風の斬撃を短剣から放つ。男はディッシュに近づくのをやめて、距離を取るが、そこは既にディッシュの間合いだ。


「これでどうだ、円天斬!」


 全てのナイフを弾き終えたディッシュは、剣に魔力を集めて腰だめに構える。そして一気に振り放つ。ディッシュの剣から赤い斬撃が放たれ、赤髪の男へと向かう。


 赤髪の男は咄嗟に跳んだが、間に合わず右足を弁慶あたりで切り落とされてしまった。


「ぐっ、ぐぁぁぁぁぉあっ! く、くそっ、俺の足が、右足が!」


「……はぁ、はぁ、やってやったぜ」


 ディッシュは今の一撃で限界が来たようで、その場に座り込んでしまった。俺は労いの意味を込めて、ディッシュの肩を叩き、そのまま赤髪の男へと向かう。


 赤髪の男は這って近くにあった木まで行き、そこに背を預けて切られた右足を止血していた。俺は男の元へ寄り、喉元に短剣を突き付ける。


「もう、お前は終わりだ。もうすぐしたら俺たちより強い先生がやって来る。それに、万が一の時に備えて国が王国兵団を辺りに隠しているから、先生と来るだろう。無駄な抵抗は止めろよ?」


「……ちっ、俺の二度目の人生もここで終わりかよ。くそったれが」


 俺がそう言うと、男は諦めたように呟き、手を頭の後ろにやって目を瞑ってしまった。ディッシュは離れた場所で寝転んでいた。少しでも、疲労を回復させているのだろう……今がチャンスだな。


「赤髪の男、お前に聞きたい事がある」


「あん? んだよ?」


 赤髪の男は、俺の声に反応して片目だけ開けて、俺を見て来た。俺は今までにない程心臓が跳ねている。俺は深呼吸して、こいつから聞きたかった事を尋ねる。


「前世、ってどう言う事だ?」

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