落とされた勇者 悪霊たちと最強になる

やま

16話 目覚めた先は

『能力:二命を発動しました。これにより、ステータスから二命が削除されます』

 ◇◇◇

「……こ……こは……?」

 体全身が冷たく重たい中、俺は突然頭の中に響いた声に目を覚ました。意識がぼんやりとする中で、辺りを見ようとするが、体を動かすのが辛くなるほど体が重たい。

 ピチョン……ピチョン……と、雫が俺の顔に当たってくるのを感じながら辺りを見ていると、次第に視界も戻って来た。

 どうやら、俺がいるのはどこかの洞窟のようで、体が冷たくて重たいのは、下半身が水に浸かっているからだった。

 どうしてこんな事に……そう考えた時に頭に浮かんだのは、笑みを浮かべながら俺を崖から突き落とした翔輝の顔だった。……そうだ、俺はあいつ……他のクラスメイト達に裏切られて崖から落とされたんだった。

 あいつらの見たことの無い下卑た笑みを思い浮かべるだけで、吐き気と頭痛が俺を襲う。同時にあいつらに対しての怒りも湧き上がってくる。

 ……だが、今怒っていてもどうしようも出来ない。俺は冷える体を温めるため、まずは水辺から這い上がる事にした。

 何とか力を入れて立ち上がると、辺りにはぼんやりと光る苔のような物が岩や地面に生えており、辛うじて洞窟の中が見える程光っていた。

 俺はその光に照らされた自分の体を見る。自分の体は驚く程にボロボロだった。鎧はいつのまにか外れていて無くなっており、下に着ていた服は、奴らに切られたり貫かれたりしたためボロボロで血が滲んでいた。

 よくよく考えたら、あの傷で何で俺は生きているんだ? それにあの高さから落ちてどうして生きているんだ俺? 

 あの渓谷の崖はかなりの高さだった。100メートルは下らないだろう。そんな高さから水の上に落ちたのにどうして俺は生きている? それに、あいつらに切られた傷も無くなっている。……わけがわからない。

 ……わけがわからないが、洞窟の中は少し冷えており、このままでは凍えてしまう。俺はすぐに燃えそうなものを探した。

 俺の流れ着いた洞窟には、俺と同じように流されたのだろう木などがあり、かなり古いものは乾燥していたため、燃やすものには困らなかった。

 俺はその木を集めて、魔法を発動としたのだが……魔法が何故か発動しなかった。それに、自身の体に流れる魔力の量も少なく、上手く流れてくれない。

 何とか魔力を流してようやく指先に少しの火を灯す事が出来た。マッチぐらいの火だ。そこで、翔輝の言葉を思い出す。そう言えば、勇者の職業を貰うとか言っていたな。俺は確認するためにステータスプレートを取り出して見てみると

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 藤里 真也 17歳 男 レベル:19
 職業:異世界人
 体力:50
 魔力:15
 筋力:21
 敏捷:19
 物耐:25
 魔耐:16
 能力:剣術・生活魔法・言語理解
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 と、なっていた。レベルは上がっているが、それ以外のステータスに能力がかなり減っている。

 ……それもそのはずか。職業が勇者から異世界人に変わっているせいで、勇者補正が無くなっているのだろう。これが、俺の本当のステータスって事だ。

 確か戦闘に参加しないこの世界の平民の平均が20程度って言っていたから、この世界では戦わない人の中では普通ぐらいだろう。

 魔力が下がり、能力にあった魔法適性も無くなったため、火を付けるのにも苦労したわけか。ただ、魔法を使った事があるという経験は生きていた。そのおかげで生活魔法が使えるようになったのだから。

 それに、剣術の能力も残っている。勇者補正のある剣術とは天と地の差だろうが、少しでも扱えるのはありがたい。ただ、剣術を扱うのに必要な剣が今手元にないのだが。

 俺が持っていた聖剣は、翔輝たちに刺された時に落としたのか、それとも、流された時に手放してしまったのかわからないが、持っていなかった。残っているのは腰に挿したままだった鞘だけ。その鞘も勇者では無い俺が持っているため、輝きは失っており霞んでいた。

 それから、俺は焚き火に暖まりながらどうして生きているのかを考えた。正直に言うとあの傷では死んでもおかしくない傷だった。それに、あの高さから水に落ちれば衝撃で体が無事なわけが無いのだ。それなのに、俺の傷は癒えており、俺は生きている。

 その原因が、頭の中に響いた声と消えた能力だと俺は考えた。俺の能力の中で唯一効果がわからなかった能力:二命。今だからこそ想像出来るが、これは2つ目の命を持っているって事だったのだろう。それも、勇者補正による能力じゃ無くて、俺の元々の能力として。

 どうしてこんな能力を持っているのかはわからないが、この能力があったおかげで、俺は今も生きている。

 ただ、これからどうするか。食料はなくここがどこかもわからない。元いた森から転移させられて来て、更に流されてしまったからな。

 取り敢えずは、この洞窟を探索するか。まずは食料を探さなければ。生き残るためにも。

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