落とされた勇者 悪霊たちと最強になる

やま

14話 夜の会話

「……何とか日が暮れるまでに準備出来たな」

 俺はバチバチと火で弾ける枝を見ながら1人で呟く。この森に入って7時間は経った頃、ようやくみんなが休めるような少し開けた場所に出る事が出来て、そこに野営の準備をする事が出来た。

 今は手分けして、昼のうちに仕留めて血抜きをしていた狼や鹿などを解体した肉を焼いたり、保存用にしたりとしている。

 昼のうちに倒したのは狼や鹿の動物に合わせて、ホーンラビットという頭に角を生やしたウサギの魔物に、ファンタジー定番のゴブリンを倒した。

 ホーンラビットは、角を生やしている以外は普通の愛くるしいウサギだったため、女性陣は少し手こずってしまったが、みんな1羽ずつ狩る事が出来た。

 その後に、血で誘われたのか、ゴブリンの群れに俺たちは囲われてしまったのだが、苦労する事なく倒す事が出来た。

 俺たちと同じ二足歩行の人型の魔物だっただけに、忌避感を感じるかと思えば、そんな事は無かった。ゴブリンと出会うまでに動物を何度か殺したせいか、それ程忌避感を覚える事が無かった。

 俺はその事の方が逆に怖くなってしまった。ついこの前までは動物を殺すのにも吐き気がして手が震えるほどだったのに、たった2週間程度、数回生き物を殺しただけで慣れてしまうのだから。

 今いる環境も関わっているのだろう。陽奈たちがいるからと言っても、いつ襲われるかわからない森の中。過度な緊張が、殺しに対する忌避感をなくしているのだろう。

 今はそれでいいけど、帰った後のぶり返しが怖いな。解体されて木の枝に刺された肉を1人で焼きながら苦笑いしていると

「シンヤ様、大丈夫ですか?」

 と、ミーリア様が水筒を手渡しながら尋ねてきた。ミーリア様も昼間の時より、表情に疲れが出ているが、それでも笑みを絶やさずに接してくれる。思わず見惚れてしまった。

「シンヤ様?」

「あ、いや、大丈夫ですよ。ミーリア様こそ大丈夫ですか? あまり慣れていないって言っていましたけど」

「……正直に話しますと、物凄く疲れています。でも、それ以上に嬉しいのですよ」

 ニコニコと笑みを浮かべながらそう言うミーリア王女。嬉しいってどう言う事だろうか? 俺が疑問に思っている事が伝わったのか、空を見ながらポツリと話していく。

「私って、職業がわかってから、あまりお役に立つ事ができなかったのです。精霊と契約出来ずに、簡単な魔法しか使えない。家族の中でも役に立たないと浮いていました。私も、このまま他国に政略結婚として使わされるのだと。
 でも、シンヤ様のお陰でリグリーナとも契約をする事が出来ました。そのおかけで、私にでも手伝える事が、出来る事が増えたのです。こうやってシンヤ様たちのお役に立てる事が嬉しいのです」

 そして、微笑みながら「ありがとうございます」と言ってくるミーリア王女。そう言われると、少し手伝っただけだったが頑張った甲斐がある。そのまま2人で見合っていると

「もー! 真ちゃんったら、余所見してお肉焦げてるじゃん!」

 と、慌てた様子で陽奈がこちらにやってきた。陽奈の声を聞いて焚き火を見ると、確かに肉が少し黒くなっていた。ジトーッという視線が俺に集まる。ここは素直に謝ろうと思った瞬間

 ドドォン!

 と、近くで大きな音がした。同時に軽く揺れる地面。全員が咄嗟に立ち上がってそれぞれの武器を持つ。

「今のは一体なんなの?」

「い、いきなりだったね」

 陽奈と凛さんが寄り添って音がした方を警戒する。白川さんも2人の側にいる。俺は何かあった時のためにミーリア王女を守れるように立ちながら、聖剣を抜く。

 それから、断続的に鳴り響く音と、揺れる地面。そして、何かの吠える声。近くで誰かが戦っているのは確実だな。

「みんな、俺は音のした方へと行ってみるよ。みんなはここで待っていてほしい」

「真ちゃん、1人じゃあ危ないよ! 私もついていくよ!」

 陽奈の言葉にみんなも頷く。その気持ちは有難いが

「暗闇の中、後衛職のみんなが進むのは危ない。凛さんなら大丈夫かもしれないが、いざとなったら前衛も出来るから、陽奈たちの護衛をしてほしい。なに、心配するな。すぐに戻ってくるから」

 俺が笑いながらそう言うと、陽奈は嫌々ながらも頷いてくれた。他のみんなも陽奈程ではないが、渋々といった感じだ。

 俺は目の前に光魔法のライトを発動さして、足下だけになるが光で照らす。何が起きているのかわからないが、警戒しながら進もう。

 ……この時は、このままみんなと別れる事になるとは思いもよらなかった。

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