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落とされた勇者 悪霊たちと最強になる

やま

13話 緊張

「みんな、足下気をつけてな」

 俺の言葉に頷く陽奈たち。初めて入る森にみんながそれぞれ気を付けながら進んで行く。足下で引っかからないように、少し出た木の根に注意、茂みが揺れればみんなで見て、日本では聞いた事の無い鳥の奇怪な鳴き声を聞けば、みんなでビクッと震える。

 ミーリア王女含めて、魔物がいる森に入るのは初めてのため、普段以上に集中はしているが、少し余裕が無い。こんな事を考えている俺だって、すぐ抜けるように剣の柄を握っている右手がいつも以上に力が入っているのがわかる。

 入って1時間も経っていないが、既に疲労が見える者もいる。このまま無理に進めてもきついか。俺はみんなの方を振り返って

「少し休憩しようか」

 と、提案する。みんなは俺の提案に何か言おうとするけど、俺の提案で集中力が切れたのか、自分たちが思ったより疲れていた事に気がついたようだ。辺りを注意しながらみんなその場に座り込む。

「いつから気付いたの?」

「さっきだよ。思っていた以上に体に力が入っていたのに気が付いてさ。これは駄目だと思ったんだ」

 凛さんが頰に張り付く艶やかな黒髪を払いながら質問してくるので、答える。このまま行けば、魔物が現れたら確実に緊張で動けなくなってしまう。今でさえガチガチなのだから必ず。

「確かにこの森に入ってから緊張しっぱなしだったわね。わたしも大会の時以上に集中しちゃったわ。変に腕が筋肉痛だわ」

 凛さんは弓を握っていた左手をさすりながら苦笑いをする。弓道の大会などで緊張に慣れている凛さんでこれなら、他のみんなは言わずもがな。

「はい、真ちゃん」

「ん? ああ、ありがとう」

 そんな風に凛さんと話していたら、陽奈がやってきて、水筒を渡してくれる。受け取ると、チャプンと水の揺れる音とカランと音が鳴った。水筒を覗いてみると中には氷が入っていた。陽奈が魔法で入れてくれたのだろう。

 俺はその優しさに感謝しながら喉を潤していく。そして、ある程度潤すと、隣に座る凛さんに手渡す。凛さんは普通に受け取り水を飲むが、それを見ていた陽奈が大きな声を出し、凛さんが驚いてむせてしまった。

「……急に大きな声出してどうしたんだよ?」

「だだだ、だ、だって! り、凛ちゃん、それ、間接キスだよっ!?」

 どうして大きな声を出したのか問い掛けると、返って来たのはそんな答え。あー、いつも翔輝にするみたいにしてしまったが、相手は女子である凛さんだ。これはやってしまったぞ。しかし、陽奈の答えに

「あー、いつも部活でしているような感じだったから、思わず受け取ってしまったわ」

 と、特に問題無さげに凛さんは答えた。その答えには流石の陽奈も口をパクパクとさせる事しかできなかったようだ。

 その光景に俺も、他の2人も苦笑いしていると、俺の頭の中に突然警鐘が鳴り響く。突然頭の中に鳴り響く音に驚いて辺りを見回すと、森の奥を見た瞬間、更に音が大きくなった。

「真ちゃん?」

 突然俺の雰囲気が変わった事に気が付いた陽奈は心配そうに尋ねてくるが、俺は左手で陽奈に下がるように指示をして、腰の聖剣を抜く。

 その姿を見た凛さんが直ぐに弓を構えて、少し離れたところに座っていた白川さんとミーリア王女が立ち上がる。

 みんなが立ち上がり警戒したところで、俺の視線の先から走る音が聞こえると同時に、草を踏みしめる音も聞こえてくる。

「来るぞ!」

 俺の頭の中に響く音が最大になり叫んだ瞬間、草むらから飛び出してくる物体。俺は咄嗟に向かってくる物体に向かって剣を振り下ろした。そこに殺しに対する忌避感は無かった。後ろに陽奈たちがいるから無我夢中だったから。

 ギャンッ! と、鳴き声とともに地面に叩きつけられたら物体は、1メートルちょっとある狼だった。咄嗟に振り下ろしたにしてはしっかりと左前脚の付け根から体を切り落としていた。

「次来るよ!」

 少しその死体をぼーっと見ていると、凛さんの声が聞こえて前を向く。この狼は様子見だったのか、その後から6匹の狼が左右に分かれて走って来た。

 左右に分かれて挟み撃ちをしようというのだろうけど、それは俺たち相手には悪手だったな。

「ホーリーフィールド」

 その理由は白川さんが俺たちを覆うように透明な光の膜を張ってくれたからだ。強度は弱いが、周囲からの攻撃を防ぐ事が出来る魔法だ。

 そのため、挟み撃ちにしようとした狼たちは、全員がその光の膜にぶつかり怯む。それだけで膜はヒビが入るが、その一瞬だけで十分だった。

 俺は聖剣に魔力を集めて斬撃を放ち、凛さんは日本の矢をたがえて放つ。陽奈は風魔法でかまいたちを放ち、ミーリア王女は魔力弾を放った。

 それだけで、狼たちは吹き飛び、切られて死んだやつや矢が目から脳に刺さり死んだやつ。細切れに切り裂かれて死んだやつに、首の骨が折れて死んだものもいた。

 残念な事にこの狼たちは魔物では無かったが、この森に入って初めての戦闘は呆気なく終了した。そのおかげか、それからの行動は思ったより緊張する事なく進めることが出来、日が暮れるまで誰も怪我する事なく進めることが出来たのだった。

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