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落とされた勇者 悪霊たちと最強になる

やま

9話 契約

「クワァー」


 魔法陣の上で眠たそうに欠伸をする子竜。えらくのんびり屋なのか、それとも、ただ気が付いていないだけなのかはわからないが、あたりを気にせずに再び寝始めた。


「おおっ! これは珍しい! フェアリードラゴンじゃないか!」


 そして、その現れた子竜を見て興奮するマーレさん。ミーリア王女は、召喚出来た事に驚いているの子竜をじっと見て動かない。


「……ん? なに見てんのよ、あなたたち。ってか、ここどこよ?」


 そんな風に見ていると、見られている事に気が付いた子竜が目を開けて俺たちを見てきた。そして、この第一声。知らないところに来たにも関わらず動じない。


「は、初めまして! 私、ミーリア・ヴァン・ヘンドリクスと申します! せ、精霊魔法師です!」


「ふ〜ん、なら、あなたが私を呼んだの? ……いや、あなたの魔力じゃ無理ね。明らかに足りてないもの。そっちの男が手伝ったのかしら?」


 この子竜、俺たちを見ただけでどういう風に召喚したか気が付いた。見た目通りって訳じゃ無さそうだな。


「ああ、俺がミーリア様の手伝いをして君を召喚したんだ。ミーリア様と契約して欲しいのだが、条件を教えてほしい」


 俺の言葉を聞いて、ジッとミーリアを見つめる子竜。そして


「別に構わないけど、今のままじゃあ、私の本来の力の10分の1も出せないわよ?」


 と、言ってきた。しかし、精霊と契約出来るとわかっただけでも大喜びのミーリア王女は、嬉しそうに頷く。それから、契約するための条件を聞くと


「そうね……私昔食べさせて貰ったことがあるドーナツが好きなの。それを食べさせてくれたら、契約させてあげるわよ」


 と、言ってきた。ドーナツってこの世界にあるのかミーリア王女とマーレさんに尋ねてみると、2人とも首を横に振る。2人とも知らないらしい。それをどうしてこの子竜が知っているのか。


 昔召喚されたという勇者か、物語に出てきた精霊に食べさせて貰ったのだろう。


 しかし、ドーナツか。これ、俺が手伝わずに召喚出来たとしても契約が厳しかっただろう。もしかしたら、作り方を知っている人がいるかもしれないが、知らなかったら作れないだろうし。


 この子竜から味や形を教えて貰っても、完璧にその味になるとは限らないし、この子竜が作り方を知っているとは思えない。


 残念な事に俺も作り方は知らない。一人暮らしはしていたが、殆どカップ麺かコンビニ弁当だったからな。それを、陽奈に見つかって怒られて、俺の家で陽奈が作ってって感じで……陽奈なら知ってるんじゃね?


 陽奈は一人っ子で両親が共働きだから帰りが遅いため、自分で作っている。時折お菓子を作って凛さんと食べている姿を見た事もある。俺の分も。もしかしたら、ドーナツの作り方知っているかも。そうと決まれば陽奈を探そう。時間的に何時もの場所にいるはずだ。


 それから、子竜をマーレさんに見ててもらい、俺はミーリア王女を連れて目的の場所、訓練所へと向かう。この時間帯はいるはずだ。


 ミーリア王女を連れて訓練所へと入ると、そこでは激しい音が鳴り響いていた。その音の原因は、俺たちが探していた陽奈たちだった。


 クラスメイトの中でもトップクラスの実力を持つ陽奈と凛さんが撃ち合っていたのだ。


 賢者で全属性が使える陽奈は、初級ではあるがそれぞれの属性の魔法を宙に浮かせて、バラバラに凛さんへと放っていく。


 それに対して凛さんは、魔力矢作成の効果を使って次々と矢を作っては魔法を撃ち落としていく。これ、追尾の効果使わずに撃ち落としていっているぞ。凄えな。


 しかし、次第に陽奈が押していく。陽奈の魔法の速さと凛さんの魔力矢の作成に差が出てきたのだ。最初は1本ずつだったが、次第に2本、3本と増えていき、追尾の効果を付けて魔法を撃ち落としていくが、気が付けば矢を構える凛さんの周りに魔法が集まって囲っていたのだ。


「……はぁ、やっぱり、数では陽奈に勝てないわね」


「ふっふーん! まだまだ負けないよ、凛ちゃん!」


 陽奈に撃ち負けて悔しそうにする凛さんだが、そこまで早く魔法が生成出来るのは今のところ陽奈ぐらいだ。俺たちに魔法を教えてくれている宮廷魔法師などになれば、違うのだろうが、クラスメイトの中ではトップだからな。


 その陽奈相手にここまで撃ち合えるのは凛さんぐらいだ。俺は力任せに突破するしかないからな。


 今回の撃ち合いでの事を話し合う2人に俺とミーリア王女が近づく。ミーリア王女は少し緊張しているが。


「お疲れ様、陽奈、凛さん」


「あっ、真ちゃん、お疲れ……さ……ま……誰その人?」


 俺が近づいて声をかけると、笑顔でこちらを向いてくる陽奈だったが、隣に立つミーリア王女を見て、無表情に変わった。その姿を見て凛さんがため息を吐く。いつも、俺が初対面の女の子を連れてくるといつもこうだからな。俺は慣れてしまったけど。


「この方はこのヘンドリクス王国の王女でミーリア・ヴァン・ヘンドリクス王女殿下だよ。ミーリア様、彼女たちは俺の幼馴染で賢者の陽奈と陽奈の親友の凛さんです」


「よろしくお願いします、ヒナ様、リン様」


 紹介すると2人に頭を下げるミーリア王女。その事に慌てる陽奈と凛さん。まあ、王女に頭を下げられるなんてないからな。


 それから、俺たちがここにきた理由とドーナツについて話す。陽奈が知らなかったら他のクラスメイトに聞くしかなかったが、陽奈は


「ドーナツ? うん、材料があれば作れるよ!」


 と、言ってくれたのだ。その結果、あっという間にドーナツが出来て、子竜に食べさせると、契約が完了した。子竜の名前はリグリーナというらしく、今ではミーリア王女の頭に乗っている。


 ミーリア王女も嬉しそうにリグリーナを撫でており、その光景を城の人たちは驚いて見ていた。当然、その事は王子たちの知る事となり、ミーリア王女は呼び出されていたが。


 俺はというと


「さあ、いっぱい作ったから食べて!」


 と、陽奈から渡されたドーナツを一生懸命食べていた。残したり、他の人に渡そうとすると、悲しそうな顔をするので、俺が食べるしかないのだ。


 凛さんに同情の視線をもらいながら、俺はドーナツを食べ続けていたのだった。

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