悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

57.2人の少女

 昨日の出来事を思い出していると、屋敷の門が開けられて中からハーデンベルツ夫人と金髪の老人に侍女たちが現れた。

「ようこそお越しくださいましたジークレント殿下。しかし、どうして徒歩で?」

 馬車を使わずにここまで歩いて来た俺たちを見て首を傾げる夫人。メルティアにも馬車を勧められたが、少し街の中をゆっくりと見たかったのもあって少し無理を言って歩きにさせてもらったのだ。

「少し街を歩いてみたくてね。それから体の調子の確認をするためにだよ」

「そうだったのです……見る限りは大丈夫そうですね」

「夫人のおかげで昨日の痛みが嘘のようだ。本当に助かった」

 俺とハーデンベルツ夫人がそんな風に話し合っていると、横から物凄く視線を感じる。チラッと横を見ると、じーっと俺の顔を見つめるメルティア。彼女には……夫人以外には体の事は伝えていないからな。今の話を聞いてどう言う事なのかと聞きたいのだろう。視線で物凄く問いかけてくる。

 昨日の事は誰にも話すつもりは無いので、その視線を無視していると、ジリジリと寄ってくるメルティア。さて、どうしたものかと考えていると

「久し振りですね、レイチェル。騎士を辞めてから全く会いに来てくれませんから寂しかったのですよ?」

「……私は会いたくなかったですからね」

 微笑みながら話しかけるハーデンベルツ夫人に素っ気なく返すレイチェルさんの姿があった。2人はどんな関係なのだろうか? そう思い見ていると

「……なんべ、あなだがいるんだ?」

 えらく話ずらそうな喋り方の声が聞こえて来た。声のした方を見ると、そこにいたのは物凄く顔が腫れ上がったリークレットだった。余りにも腫れ過ぎて昨日見た容貌とはかけ離れていたため、一瞬誰だかわからなかったぞ。

「……お前こそその腫れ上がった顔はどうしたんだよ?」

 俺の質問にリークレットは答える事なく顔を晒す。腕を組んで妙に偉そうなのがイラっとするな。リークレットはどうしてこうなったのかを言いたく無いようだ。まあ、俺自身もこうなったら話さないか。

「リークレットには私がお仕置きしたのですよ」

 そんなボロボロのリークレットの顔を見ていたら、レイチェルさんと話していた夫人がそんな事を言ってきた。

「昨日俺に負けたからか?」

「いいえ、そんな事でここまでしませんよ。問題はその後です。殿下もいる通りリークレットにも婚約者がいます。彼女がリークレットを心配して昨夜来てくれたのですが、それをリークレットは余計な事をするなと怒鳴ったもので……。思わず……」

 頰に手を当てて照れたように言うが……まあ、リークレットの自業自得と思っておこう。実際にリークレットが悪いしな。

「奥様、そろそろ殿下を中へご案内いたしましょう」

「……そうね、少し話が長くなってしまいましたね。では殿下、中へと参りましょうか」

 側にいた老人に言われ頷くハーデンベルツ夫人。屋敷へと向かう夫人の後を俺たちはついていく。嫌そうながらもリークレットもだ。

 屋敷に入った後、どこかの部屋に案内されるのかと思ったら、そのまま屋敷の中を通り、再び外へと出た。どうやら向かう先は屋敷の隣にある離れのようだ。

 しかもただの離れではなく、どうやら訓練場も備えている場所のようだ。昨日の話通りならここで俺を鍛えてくれるのだろう。そして、離れに近づくにつれ嫌そうな顔をするリークレット。彼にも色々と思い出があるのだろう。

「さあ、こちらへ」

 夫人に促されるまま離れへと入る。ぶわぁっと熱気に包まれたような感覚に陥る。かなり重苦しい雰囲気に思わず腰に下げている黒剣を掴んでしまった。その雰囲気の元凶は訓練場の中心で向かい合う2人にあった。

 片方はまるで幻かと思わせるほど白かった。髪が白く、肌も白く、剣も白く。そんな見た目からは想像が出来ないほどの剣気を放つ少女と向かい合うのは、ギャルのような少女だった。金髪に褐色肌、少し胸元がはだけたブレザーを着ており、槍を構えて対峙していた。

「行くよっ!」

 金髪褐色少女は声を出すと同時に白少女へと飛び出す。下から突き上げられた槍の先端は容赦無く白少女の顔目掛けて伸びていく。かなり鋭い突きだ。かなりの実力者なのが伺える。

 白少女はその突きを顔を捻るだけで避け、槍の内側へと入り剣を振り上げる。振り上げられた剣を、金髪褐色少女は槍の半ば辺りで受け止め弾き、そのまま槍を回転させ石突きを右斜め下から振り上げる。

 白少女は体を斜めに倒して振り上げられた石突きを避け、金髪褐色少女へと切りかかる。動き的には勢いのある金髪褐色少女が押しているように見えるが、要所要所鋭い一撃を放つ白少女が押しているように俺は見えた。

「……夫人、彼女たちは?」

「白髪の子は私の娘でリークレットの妹になるルーティア・ハーデンベルツ、金髪の少女の方はリークレットの婚約者で、ミゾルデ・バーション。バーション伯爵家の娘です」

 ……ん? リークレットの婚約者は名前だけ出て来て知っているが、妹なんていたか? 俺がゲームの相関図をよく見ていなかっただけかも知れないが、ストーリー上は出て来なかったよな。

「殿下、あなたが昨日の力をより上手く使うにはルーティアの力が必ず必要になるはずです」

 初めて見る2人を眺めていると、夫人がそんな事を言ってくる。俺は夫人の言葉を聞いて、再び2人の戦いを眺めるのだった。

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