悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

50.歪んだストーリー

「お前たち、何をしている」

 俺がそう言いながら近づくと、少し苛立ち気にこちらを睨んでくる男たち。邪魔された事に怒り、そのまま俺の方を見てくるが、誰に声かけられたのかわかった3人は驚きに表情を変える。

「ジ、ジークレント殿下、な、なぜこのような場所に……」

「別に学園に通う俺が中庭にいてもおかしくないだろ? それに、学園の中では別にジークでも構わないよ。それよりも、嫌がる女子を無理矢理連れて行こうとするのは見過ごせないな?」

 俺がメルフィーレを庇うように立つと、男たちはへこへこしながら去って行った。ストーリーにしては呆気なさ過ぎるが、原作の中は兄弟での喧嘩のようなものだが、今はこの国の王子と貴族の子息の話し合いになる。幾ら、学園の方針で身分は関係無いと言っても、流石に王子に逆らう奴は居ない。

「お前も良く面倒事に巻き込まれるな?」

「あぅぅっ、ご、ごめんなさい」

 俺が男たちが去ったのを見て振り返って言うと、メルフィーレは申し訳無さそうに顔を俯かせていた。しかし、これもストーリー補正のせいか。一概にこいつが悪いってわけでは無いんだよな。まあ、それでも、彼女を追い出すこいつを許す事は出来ないのだが。

「……まあ、俺が近くにいて良かったな。本当は兄上の役のはずだが……なるべく厄介事には巻き込まれないようにしろよ?」

 俺はそう言いながら、メルフィーレから離れ、エレネの方へと戻ろうとした時

「何をしている!」

 と、怒鳴る声が聞こえて来た。声のした方を見るとそこにはメルフィーレの後ろから兄上と白髪の攻略対象、リグレット・ハーデンベルツがこちらにやって来ていたのだ。

 ……ったく、この世界はどうしてもストーリー通り進めたいらしい。本当なら俺が男子生徒に迫られるメルフィーレを助けたところなのだが、側から見れば俺がメルフィーレに迫っている風に見えない事もない。雰囲気は全くそんな感じではないが……兄上たちの感じからして信じてはくれないだろうなぁ。

「……どうされましたか、兄上?」

「どうされただと!? 貴様、こんな人気のないところにメルフィーレを連れて来て何をしているのかを聞いているのだ!」

 俺が悪いと決め付けてメルフィーレを俺から庇うように立つ兄上。そのメルフィーレの隣で同じ様に睨みつけてくるリグレット。腰にある模擬剣の柄を握っていた。こいつ、兄上の指示があれば直ぐにでも切りかかってきそうだな。

 普通なら王子の俺に切りかかるなんてあり得ないが、俺より地位が上の兄上の命令では逆らえない。それは建前だとしても、雰囲気からして俺に対して悪感情を持っているから、何かあれば直ぐにでも抜くだろう。

「俺は別に何もしていませんよ。彼女が他の男子生徒に絡まれていたのを助けただけです。なあ、メルフィーレ?」

 俺がメルフィーレに尋ねると、メルフィーレはこくこくと頷く。そのメルフィーレを見て再び俺を睨んでくる兄上。どうやら、俺が気安くメルフィーレの名前を呼んだのが気に食わないようだ。どうしろと言うんだよ……。

「……メルフィーレに免じて信じてやるが、お前の今までの行動が疑われる原因だという事を忘れるなよ?」

 もう4年も前の事を未だに言う奴はいるが、兄上まで言ってくるとは。これでも、侍女たちには挨拶したら返されるようになったんだぞ?

「ええ、わかっております」

 ただ、ここで反論したところで俺が、今までしてきた事は確かになくならない。俺が何も言わずに頷くと、兄上はフンっと馬鹿にしたように俺を見てくる。イラッとするが我慢だ。

「まあ良い。それより、お前も対抗戦に出るようだな」

「……ええ、出ますが」

「ふん、最初に負けて泣き喚かない事だな。それと、俺たちのクラスと当たっても、お前のために八百長などせん。真正面から倒してやるから覚悟しておけ」

 そう言ってメルフィーレを連れて行く兄上たち。そんな気は更々ないが、兄上たちの俺に対する敵意が凄過ぎる。これも、正規のストーリーから外れている弊害だろうか。本来なら俺は今の段階で排除されている存在だ。考えたくはないが……この世界が俺を排除しようとしているとか。

「なんなのよあれ! ゲームだったらカッコ良かったのに、実物は最悪ね!」

 俺がそんな事を考えていると、俺たちの様子を見ていたエレネがプリプリと怒っていた。ゲームの中の理想と現実が違い過ぎて怒っているようだ。まあ、あれはヒロイン視点での話だからな。第三者からしたらこんなものだろう。

「……少し嫌な気分になったな。帰りは何か甘い物を食べて帰ろうか」

「それなら、前にクロエちゃんが言っていたクレープの店はどう? かなり美味しいらしいわよ!」

 甘味の話になり先程の怒りが無くなったエレネは、嬉しそうに行きたい店を次々と話し出す。その間にやって来たクロエたちと一緒に甘味を食べに行って、ストレスを発散するのだった。

 その週の最終日、対抗戦の対戦クラスの発表があり、俺たちDクラスの対戦クラスは兄上たちのいるAクラスとなったのだった。

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