悪役令嬢を助けるために俺は乙女ゲームの世界を生き抜く!

やま

1.呆気なく

「くそっ、聖奈の奴! 俺に自分が借りて来た乙女ゲームの攻略なんか任せて、自分は友達と遊びに行くとはどういう了見だ!?」


 俺は叫びながらも目の前に映る腹が立つほど美形な男たちとの会話を進めて行く。


 折角の土日の二連休。上司のいびりや減らない仕事のイライラをゲームやら漫画やらを読んで発散させようとしていたのに、朝、いきなり聖奈に無理矢理起こされて、一言目が


「お兄、それやっておいて。友達から借りているものだから大事にするのと、月曜日に感想言わないと駄目だから、終わらせておいて。じゃあ」


 と、だけ言って出て行きやがって! 何が嬉しくて男を攻略しないといけないんだよ! こっちは、女の子すら攻略した事ないのに!(ゲーム以外)


 イライラ攻略しながらも俺は聖奈から渡されたソフトのパッケージを見る。そこには、桃色髪の主人公であるヒロインと、様々な髪の色をしたイケメンたちが写っていた。俺が聖奈から渡された乙女ゲームは『マジカルサーガ』。所謂ファンタジー物で剣と魔法の世界の話だ。


 物語は1部、2部と分かれており、1部は孤児院生まれであるヒロインが学園に入り、攻略対象である男たちと親密度を上げて行くのだ。その結果次第でヒロインが使える魔法が変わるというもので、1部の結果で2部の進め方も変わってくる。


 2部はこの事から予想は出来ると思うが、何故か乙女ゲーからファンタジー要素盛り盛りのバトル物になる。戦う相手は魔王と名乗るこの世界で現れるモンスターが進化したモンスターが相手となる。


 その魔王たちを、ヒロインと攻略した男たちと共に倒すというのが、このゲームのシナリオだ。


 普通の乙女ゲーのようにただ選択肢を選んで行くだけでなく、第2部の事も考えて成長させていかないといけないから、これが中々難しい。ステータスも第1部の時からあるため手を抜けないのだ。


 ただ、訓練ばかりに力を入れても駄目で、男たちを攻略して力を手に入れなければならない。それがなければ魔王に対抗出来ないからだ。


 誰1人として攻略出来なければ、2部に行く前にゲームオーバー。魔王は攻略対象から貰える力が無ければ太刀打ち出来ない設定になっているからだ。


 この辺が聖奈が俺に投げた理由だろう。聖奈は元々乙女ゲームは好きな方で、何度かやっているのを見た事がある。ベッドの上でイケメンの男たちのスチルを見てニヤニヤしているのとか。


 ただ、それ以外のゲームをしているのを見た事が無い。当然、RPG要素のあるゲームなんかも。初めはパッケージに映る男たちを見てやりたくなり友達に借りたが、実際にやり始めてみると、RPG要素が含まれる事に気が付いたため、俺に渡して来たってところだろう。そんな事、やる前に気付けってんだよ。


 今更そんな事を言っても仕方がない。俺も別に聞かなくていいあいつのお願いを聞いているのだから。それにほんの少しだけどハマっている自分もいる。


 理由は、目の前の画面にいる銀髪の女性だ。陽に当たりキラキラと輝く銀髪の長髪に、氷を思わせるような鋭い眼光に、宝石のように蒼く輝く目。腕を組んで堂々と立つ姿は、女神を思わせるほど美しい。


 彼女こそがこのゲームのヒロイン……のライバル役である侯爵令嬢だ。よくラノベとかである悪役令嬢という奴だな。


 今は侯爵令嬢がヒロインの行動に苦言を申しているところを、男たちがそれを庇うというシーンだ。男たちがヒロインを庇う中、堂々とヒロインを糾弾する侯爵令嬢。その姿は、なぜ侯爵令嬢がヒロインじゃないのかと思うほど綺麗でかっこよかった。


 俺は彼女が出ているから続けられているようなものだ。彼女がいなかったら途中で挫折していただろう。野郎の甘い囁きなんて聞きたくないからな。


 彼女の姿を全部見たいと決めた俺は、片っ端から男たちを攻略していった。腹が立つほどイケメンな男たちの顔を見ながら、腹が立つほどキザなセリフを聞きながら、次々と進めて行く。全ては侯爵令嬢が出て来るシーンを全て見るため。


 ……そして、気が付けば既に日曜日の夜6時だった。国民的アニメが始まる時間帯にようやっと全シナリオ、ルートを終わらせる事が出来た。金曜日の夜から2徹。全ては侯爵令嬢が出るシーンを全て見るために頑張った。


 ……頑張ったのだが、俺は怒りに震えていた。目の前の画面には笑顔でウェディングドレスを着るヒロインとそれを囲む攻略対象の男たち。


 このゲームでとあるルートを除いて1番難しくて1番ハッピーエンドである逆ハーエンドを成し遂げた最後のシーンだ。


 攻めて来た魔王たちを攻略対象たちと力を合わせて退け、国を守った聖女としてみんなに認められたヒロイン。そして、王様がヒロインのみに認めた特例、一妻多夫制の結果がこの結婚式シーンになる。


 ただ、俺の求めてやまない侯爵令嬢の姿はこの中にはない。それどころかあのルートを除いてほとんどのルートで2章の序盤以降姿を消す。


 その理由は1章の終盤で行われる学園の卒業式。その後のパーティーで行われる第1王子が侯爵令嬢へと断罪イベントのせいだ。


 どのルートでも必ず起こるこのイベント。これのせいで侯爵令嬢は第1王子との婚約は破棄され、そして自身の父親である侯爵が治める領地へと送られる。そこから第2章が始まる。


 ……そう、1番初めの魔王の侵攻は侯爵令嬢の戻った領地から始まるのだ。当然領地を守ろうと前線に出る侯爵令嬢。その結果……彼女はあのルート以外必ず戦死してしまう。


 俺はこの結果にコントローラーを投げそうに何度なった事か。いくらヒロインを強化させて、攻略対象を攻略しようとも、第2章が侯爵家の領地の全滅から始まってしまうため、侯爵令嬢は必ず死んでしまう。


 この事に俺は、制作会社に電話しそうになったが、俺1人が喚いたところで、既に販売されているゲームの内容が変わるわけない。


 いくらゲームとはいえ、全く救いのない侯爵令嬢のギャラリーを眺めていると


「お兄、終わった?」


 と、聖奈が部屋へと入って来た。そして、画面に映る埋められたギャラリーを眺めて俺を褒めて来るが、一気にテンションの下がった俺は、二徹のせいで無くなったタバコを買いに行こうと家を出る。


 そして、二徹でフラフラになった俺は、信号が赤な事に気が付かずそのままトラックに……。

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