英雄の妹、最強を目指す!

やま

31話 次の階層へ

「せい、やぁっ!」


「プギィッ!?」


 リリーナの盾によって剣を弾かれたオークソルジャーは、戸惑いの声を上げる。その隙を狙って切りかかるデルス。オークソルジャーは近づかせないように剣を持たない腕を振るけど、デルスは頭を下げて下からオークソルジャーの脇腹を切る。


 縦に傷付いた脇腹をオークソルジャーは左手で押さえながら、右手に持つ剣を振り回してくる。


「危ないわね!? アイスチェーン!」


 私は大暴れするオークソルジャーを止めるため地面に手をつき氷魔法を発動。地面から2本の氷の鎖が伸びてき、オークソルジャーへと向かう。


 もう少し氷魔法のレベルが上がれば本数も増えるんだけど、無い物を強請っても仕方ないわね。2本の氷の鎖は、弧を描きながらオークソルジャーへと向かう。


 オークソルジャーは片方の氷の鎖を剣で切り裂くけど、もう片方の氷の鎖は防ぎきれずに、剣を持っていた右手へと突き刺さり、氷の鎖はそのまま右手へと巻きつく。


「ブギィィイ!!!?」


 氷の鎖が刺さった激痛にオークソルジャーは叫び声を上げるけど、氷の鎖を引き千切ろうと力を入れてくる。くっ、こっちが油断すると引き千切られるわね!


「ファイアランス!」


 私とオークソルジャーが綱引きをしている間に、エリアは魔力を溜めて、計10本の炎の槍を作り出していた。それらを全てオークソルジャーに向かって放つ。


 オークソルジャーは左手を前に出して防御するけど、炎の槍がぶつかって爆発。左腕は焼け爛れてボロボロ、体中も火傷を負っている。


 そこに左右からリリーナとデルスが迫る。オークソルジャーを捕らえていた氷の鎖は爆発によって千切れてしまったけど、左腕はボロボロで振る事が出来ない。


 攻撃出来るのは右腕だけ。その右腕も私の氷の鎖が突き刺ささったので、先ほどのように動かせない。


「ブルルゥ!」


「させません!」


 オークソルジャーが大きく横振りを放とうとするのを、リリーナが間に盾を入れてタイミングよく反射を発動、オークソルジャーの剣を弾く。そのままリリーナはオークソルジャーの体に刺突の連撃を加え、後ろから走ってくるデルスと入れ替わる。


「くらえ! ストーンエッジ!」


 デルスは土魔法で剣に土を付与させ自分の身長よりも大きな大剣へと変形させる。両手で高く振り上げた剣をオークソルジャーに向かって振り下ろす。


 オークソルジャーは無事な右腕で防ごうとするけど、あの大剣は見た目通りの重量、デルスが身体強化をしてやっと振り上げる事が出来るほどの重さのため、オークソルジャーでも防ぎきる事は出来なかった。


 グシャ、とオークソルジャーの腕は千切れてそのまま頭を潰れる。うわぁ……石の剣だから切らないで潰れるのね。かなりグロいわ。


「ふぅ、これで台10層も何とか攻略ですね、クリシア」


「ええ、やっぱりリリーナがいるのは大きいわね。早めに手下のオークたちを殲滅する事が出来たから、オークソルジャーに集中出来たし」


「そ、そんな、私はただ自分の出来る事をしたまでで」


「ははっ、それが凄いんだよ、リリーナちゃん」


 リリーナが仲間になって、そして上層の魔物が降りてくる事件が起きてから今日で2週間が経った。事件が起きた数日は、ロイさんが率いる神島の兵士が確認のために塔を登ったけど、あれ以降は特に上層の魔物が降りてくるという事は無くなった。


 それから安全が確認された塔を登り始めた私たちは、6階層から順調に登って行き、今日ようやく10階層を突破する事に成功したのだ。


 6階層からは、基本今まで出てきたゴブリン種たちにオークが混ざった群れになっていた。と言ってもそこまで強い相手じゃなかった上に、前衛であるリリーナが1人増えた事で、かなり楽な戦いにはなったけどね。


「しかし、ランクCのオークソルジャーをこれほど楽に倒せるとは思ってもいませんでしたね。前のゴブリンジェネラルの時はギリギリだったですが」


「それはやっぱりリリーナのおかげよ。本当あの時の冒険者たちはリリーナを追い出してくれたわ。感謝がないわね」


「確かにその通りです。私も追い出して頂いたおかげで皆様に会えましたから!」


 両手握りこぶしを作る全身鎧。なかなかシュールな光景だけど、この姿に慣れている自分がいるわ。慣れって怖いわね。


「それじゃあ先に進もうよ。まだ時間的には昼を少し過ぎたぐらいだろうし、少し見るだけでも行くべきだと思う」


「そうね、デルスの意見に賛成だわ。確か次の階層から変わるのよね?」


「はい、確か次は森林エリアですね。その次がアンデッドエリア、海底エリア、そして火山エリアと10層ずつ続いて、51階層からは今まで現れた魔物の上位種ばかり出て来るはずです。ただ」


「51階層からは殆ど踏破されていないからわからないのよね?」


 私の言葉にエリアは頷く。51階層からは曖昧な部分が多い上に、しっかりとマッピングが出来ているのも30階層近くまでしか無い。その理由が31階層からの海底エリアにある。


 海底エリアはその名前の通り、進む道が海底の中にあるため、水中に潜れないといけないのだけど、当然水中で戦う事に慣れていない冒険者たちは、水系魔物の格好の餌にされる事が多い。


 そのため、殆どが戦わずに進もうとするために、時間のかかるマッピングはされていない。


 その上の火山エリアは言わずもがな、暑いため長い事いる人がいない。エリアの中は階段の側以外は常に60度近くの温度があるのだから。私もそんなところに長い事いたくはないわね。


 そのため、ある程度マッピングされて地図として売られているのが、初心者エリア、森林エリア、アンデッドエリアだけになるのだ。


「次のエリアは獣系と虫系が多いみたいだよ」


 ……デルス、嫌な情報を言わないでよ。隣を見るとエリアも嫌そうな顔をしている。はぁ、でも行かないといけないわね。あ〜、虫嫌だなぁ〜。

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