英雄の妹、最強を目指す!

やま

8話 初戦闘

「……ここが迷宮」


 私は、薄暗く光が灯る通路を見渡す。周りは塔の外見のように、石で出来た壁に囲まれており、足下に申し訳程度の光がある。


 入口の部屋は、かなり広い四角の部屋だった。私たちが通って来た入口の他に3つの通路へと続く道がある。


 この広い部屋は、どうやら魔物がやって来ないらしく、各々休んでいる冒険者が何人かいるわ。通路の1つ1つの幅は、今見える分は10メートルといったとこら。高さは3メートル程かしら。


「へぇ〜、ここから更に通路が分かれるんだね。通路によって違うのかな?」


 デルスの疑問はもっともだわ。多分2階へと向かう階段にはすべてつながっているのだろうけど、出てくる魔物などは、変わったりするのかしら?


「とりあえず、真正面の通路へ行きましょうか。何事も挑戦してみないと」


 私の言葉に頷く2人。それぞれの自分の武器を持って通路へと向かう。先頭に左手に盾を、右手に剣を持ったデルス。


 真ん中に、先端に赤い魔石を付けた杖を持ったエリアが来て、最後に相棒の黒賢杖を持った私が来る。前からの敵はデルスが。後ろからの敵は私が。エリアが魔法で、私とデルスのサポートをする。これが私たちの今の陣形になる。


 足元の光を頼りに進む私たち。私たちが使っている通路には、今のところは他の冒険者を見かける事は無い。


 そして、迷宮の通路を歩く事10分。通路の角からそいつは現れた。体長1メートルほどの小さな身長で、腰には布切れを巻いただけの、緑色をした異形の生物。魔物の1体で、ゴブリンだ。


 稀にエリアたちとギルドの依頼で狩りに行ったりする魔物の1体なので、気負うことなく対峙出来ているのだけど、普段森とかで会うのと、迷宮で会うのは違うわね。心なし、迷宮のゴブリンの方が綺麗に見えるわね。


 私たちを見つけたゴブリンは、棍棒を振り上げて私たちに向かって……来ようとはせずに、来た道を戻って行ってしまった……えっ? 逃げられた? 


 私たちは、武器を構えたまま顔を見合わせてから、ゴブリンが逃げた通路へと向かう。まさか逃げられるなんて。森で出会ったゴブリンは、問答無用にやって来たというのに。


 ゴブリンが逃げた曲がり角を曲がると、そこには


「グギギィィ!」


 先ほどの逃げたゴブリンの他に、弓を構えたゴブリンが2体もいた。そして、私たちを見た瞬間、弓を持つゴブリンが矢を放つ。


「えっ? うそおっ!?」


 突然放たれた矢に驚くデルス。当然矢は、先頭に立つ彼へと向かう。デルスは慌てながらも、盾で1本を防ぎ、剣でもう1本を弾いた。


 その間に演唱が済んだエリアと私は、まず遠距離の攻撃を持つ弓を持つゴブリン、ゴブリンアーチャーへと魔法を放つ。


「ファイアボール!」


「ウォーターバレット!」


 エリアは火の玉を放ち、私は水の弾を撃った。自分に迫る火の玉を避けようとゴブリンアーチャーは避けるけど、遅れて左手に被弾。左手から体が燃え始めた。


 もう1体のゴブリンアーチャーは、私の水の弾を避ける事が出来ずに、頭と体を数発穿たれて、その場に倒れる。


 頼みの綱だったゴブリンアーチャーが2体とも倒れたのを見たゴブリンは、再び逃げようとするけど


「させないよ!」


 足を身体強化させたデルスが、ゴブリンに迫り、手に持つ盾でゴブリンを殴り、こかしてから、剣で喉元を突き刺す。ゴブリンは、叫び声を出す間も無く、息耐えた。


 少しの間、他にゴブリンはいないか警戒をして、周りを見る。そして、いない事が確認出来たらようやく一息吐く。


「……初めての迷宮での戦いで、いきなり驚かされる事になるとは思ってなかったわ」


「そうですね。まさかゴブリンが待ち伏せをして来るなんて」


 外のゴブリンは、待ち伏せなんてしないで、見つけた獲物を狙って向かって来る。知能が低いため、相手が強い弱い関係なく、ただの食料と見てやってくる。


 だけど、さっきの迷宮のゴブリンは、数で負けているとわかった途端、仲間がいるところへと煽動する形で逃げて行った。


 まさか、罠なんてないだろうとタカを括った私たちは、まんまと騙されたという訳だ。


 ……はぁ、出だし早々、なんだかショックね。外とは違うとは、本を見て知っていたつもりだったけど、実際に体験すると、やっぱり違うわね。


「落ち込んでいても仕方ないよ、クリシア。これから学んでいけば良いんだから。それよりも剥ぎ取りをしよう」


 デルスは、私の肩をポンと叩いてから、ゴブリンの死体へと向かう。確か迷宮では、魔物の核である魔石を取ると死体は消えて、ドロップアイテムが落ちるんだっけ?


 これも外とは違う。外は剥ぎ取って魔石を取っても、死体は消えない。だから、冒険者が自ら処理するか、魔物の餌にするしかない。そうしないと、死体がアンデッドに変異してしまうから。


 でも、この塔の中だと、その心配は無いみたいね。現にデルスがゴブリンの心臓近くから魔石を取り出すと、ゴブリンの死体は、霧となって消えていった。そして残ったのは、ゴブリンが履いていた布のみ……要らないわね。


 ゴブリンアーチャーの魔石も取って、ドロップは無しだった。そういう場合もあるのね。絶対何か手に入るってわけでは無いみたい。


 魔石にもランクがあって、濁るように濃い赤色をした魔石が、1番ランクの低い魔石で、透き通る様な綺麗な赤色が1番ランクが高い。見た目は宝石と変わらないどころか、宝石より綺麗だったりする。


 魔石の大きさなどによってランクは変わったりするけど、これが共通認識になる。


 魔石は、加工すれば魔道具にもなったりするので、貴族の身嗜み兼防衛用の道具として重宝されている。私も1つ指輪の魔道具を持っているもの。まだ、使った事は無いけど。


「良し、それじゃあ進もうか」


 私たちの代わりに、ゴブリンの体の中から魔石を抜き取ってくれたデルス。剥ぎ取りは2人がやっている間に、1人が周りを警戒しておくって、話だったけど、今回は、デルス1人でやってくれた。


 そんなデルスにほんの少しだけ感謝をしながら、デルスの言葉に頷く。時計見ると、この塔に入って1時間も経っている。今日中に5階層は当然厳しいので、せめて2階層への階段ぐらいは見つけておきたい。


 私たちは再び隊列を組んで、先へと進むのだった。

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