黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

264話 白銀の力


 急激に膨れ上がる魔力と殺意。まるで風が吹いているかのように辺りに吹き荒れる。変化はそれだけでなく、男の背には翼が生えていた。竜や鳥とは違ったもっと禍々しい姿の翼だ。

「エレメンタルバット」

 男が呟くと男の周りに様々な色をした魔法のコウモリが姿を現わす。この魔法を見た瞬間、不味いと感じたのか、義兄上が退避の命令を大声で唱えるが、間に合わずにコウモリが辺りに勢い良く降りて来た。

 俺は傷の回復はしたが、まだ疲労で動く事の出来ないロナを抱えてその場から全力で離れる。レイグも力任せではあるが近くにいた兵士たちの首根っこを掴んで放り投げ、自身もその場から離れた。

 俺たちが動いた直後にコウモリたちが建物や地面にぶつかり爆発。途轍もない爆音と共に爆風が辺りを吹き飛ばす。俺も巻き込まれて、レイグも吹き飛ばされるのが視界に入る。ロナは離すまいと力強く抱き締め、そのまま爆風に流された。

 爆風の余波で捲き上る砂煙に覆われながらも、何度か転がりながらも、なんとか怪我をする事なくて止まる事が出来た。

 腕の中のロナも軽く目を回しているが、爆発による怪我はなさそうだ。辺りを見回すと、爆発から無事だった兵士たちがあちこちで倒れていた。

 爆発に吹き飛ばされた時に頭をぶつけたのか、頭から血を流している兵士もいれば、腕や足に瓦礫が刺さっている兵士もいた。

 ゲイル義兄上たちもグリムドさんやガラムドさんに守られてなんとか無事だが、どこかしら怪我をしていた。

 ただ、これはギリギリ避ける事が出来た者たちの結果であり、爆発に巻き込まれた兵士たちの姿は悲惨なものだった。

 近くにいた兵士や建物の上にいた兵士たちは、爆発から逃げ切る事が出来ずに、直接コウモリをくらって体が吹き飛び死んだ者もいれば、爆発の余波で吹き飛ばされ、叩きつけられて死んだ者。建物が崩れて、瓦礫に巻き込まれて押し潰された者など、様々だった。体の形が保っているだけでマシと思えてしまうほど悲惨なものだった。

 先程まであった建物は崩れており、辺りは瓦礫の山に変わっていた。男はその中で佇んでおり、再び魔法を発動した。

 男が右手を上げた瞬間、辺りの死んでしまった兵士たちから血が抜けていき、男の手元へと集まっていく。あの野郎、死体を弄びやがって!!

 俺は纏を発動して男へと駆ける。同時にレイグとガラムドさんも飛び出しており、3人同時に男へと向かう。

 俺は男の首目掛けてシュバルツを振り下ろし、レイグは脇腹を狙って雷の纏わせた拳を振るう。ガラムドさんは男の心臓を狙って風を纏わせた槍で鋭い突きを放つ。しかし、攻撃は通らなかった。

 男の手に集まった血が動き、俺たちの攻撃を防いだのだ。剣同士勢い良くぶつけた時のように衝撃が手に走る。なんて硬さだ。

 俺たちの攻撃を防ぐために男を覆うように伸びた血は、男を中心に回転し始めて、俺たちは弾かれてしまう。更に回転すると同時に小石程度の塊が四方八方放たれる。

 纏・真まで発動し、防御力を高めた上で避けるが、かなりの量になる血の塊を全て避け切る事が出来なかった。

 致命傷は避けてかすり傷程度に抑えたが、かなりの威力だった。運が良かったのか悪かったのかはわからないが、辺りに人がおらずに、当たったのが俺たちぐらいで良かった。

 男を覆うように回転している血は、次第に男の元へと収縮していき、最終的に男の身を守る鎧のようになった。

 ……やばいな。男から溢れる魔力と殺気に底が見えない。俺も万全な状態ならやりようがあるのだが、今は死竜の時の後遺症が治っていない。

 魔天装が出来ない今、どこまで男とやりあえるか……出来ない事を悩んでも仕方がないか。出来ようが出来なかろうが、俺の出来る事を限界までやり切るだけだ。いざとなれば、無理にでも魔力を振り絞って発動させるまでだ。

「レイグ、辛かったら休んでてもいいぞ?」

「ほざけ。お前こそ休んでろ。俺が終わらせてやるからよ」

 目の前の男を見ながらも、軽口を叩く俺たち。死竜の時以上の死地だ。こういう時こそ、笑ってやる!

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