黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

262話 レイグの戦い(2)


「いやぁ、今のは効いたよ。そのまま受けていたら貫通していただろう」

 そう言いながら、先ほどレイグの攻撃を受けた胸元をさすりながら笑みを浮かべる男。胸元は爆発の影響か服が弾け飛び、抉れているけど、徐々に治っていく。

 その姿を苦々しく見ているレイグ。いくら攻撃しても側から治されるのなら、精神的にキツイものはないでしょう。

「さて、そろそろ終わらせようか。少し暴れ過ぎた」

「あぁ? ……ちっ!?」

 やれやれと首を振りながら言う男に、レイグは少し怒りを見せるけど、何かを言う前に降ってきたものを避ける。

 降ってきたのは魔法で作られたコウモリだった。コウモリが降ってきた場所を見ると、コウモリの形の穴が空いており、かなりの威力なのがわかる。

「行け」

 男はそのコウモリの魔法を何十と放ってきた。かなりの速さで飛んでくるコウモリたちを避けるために、レイグは両足に魔力を集めて壁を蹴り登る。

 前の方は避ける事が出来たけど、半ば辺りからレイグを追うように動きを変える。どうやら男の方で離れていても操る事が出来るみたい。

 私は魔法を使えないからわからないけど、手元から離れた魔法を動かすのは物凄く高度な技術だって聞いた事がある。それを簡単にやってのけるなんて。

 レイグは自分に向かって飛んでくるコウモリを避けるために、足裏を火で爆発させて宙を蹴る。すると、空中で更に上に飛んでいき、迫るコウモリを避けたのだ。

 それでも更に追ってくるコウモリたちを、足の裏から火を爆発させ軌道を変えて避けるレイグ。だけど、次々と増えていくコウモリたちに次第に逃げ場を無くしていく。

 レイグはそのまま建物の屋根に逃げるけど、屋根に足をつけた瞬間、ドプッと足が沈んだ。流石のレイグも予想していなかったのかバランスを崩してしまう。そこに、一斉に迫るコウモリたち。

「ちっ、雷砲!」

 しかし、レイグは慌てる事なくすぐに魔法を放った。魔力がレイグを包んだと思った瞬間、レイグを中心に広がる魔力。魔力は雷になり、コウモリたちを雷で吹き飛ばした。

 コウモリは雷で焼かれて霧散していく。その間にレイグは埋まった足を屋根から引き抜き、私たちのいる路地裏へと降りてきた。

「てめぇ、今のは土魔法か?」

「流石にわかるか。そうだ。土魔法で屋根を柔らかくしたのさ。不思議そうな顔をしているが、目の前にいる者の髪をよく見る事だ。この銀髪が何を意味しているのか。それとも、自身の体で味わってみるか?」

 男がそう言った瞬間、色取り取りのコウモリがレイグへと再び迫る。赤色の火がメラメラと形とった火属性のコウモリに、青色の丸みを帯びた水属性のコウモリ、茶色の角張った土属性のコウモリに、緑色の鋭い風属性のコウモリ、光り輝く光属性のコウモリに、先ほどまで放ってきた闇属性のコウモリ。

 本来なら見る事も叶わない、1人が全ての属性の魔法を放つという事を、今目の前で起きていた。しかも、先ほどまでのコウモリとは段違いの速さで、レイグは避けきれないと思ったのか、腕を交差させて魔力を集めて防御の姿勢になっていた。

「エレメンタルバット」

 色取り取りのコウモリたちがレイグへと落ちていく。レイグに触れた瞬間に火花が散ったり、水が降り注いだり、かまいたちが飛んだりと、とてつもない威力がレイグへと降り注ぐ。

 私はそれを何も出来ずに見ている事しか出来なかった。様々な属性の魔法がぶつかり合い爆発したため、砂煙が立ち込める。

 砂煙が少しずつ収まって来て、中には血塗れのレイグの姿があった。特に頭を守っていた腕はボロボロで、赤く染まっていないところが無いぐらい。息は荒く、かなり辛そうなのがわかる。

「これが君と私の実力の差だよ。わかったか?」

「……はっ、この程度どうって事ねえよ。お前は俺に倒される。それは変わらねえ」

 ボロボロになりながらも男を挑発するレイグに、男は呆れたように首を振りながら近づいていく。私は何とか立ち上がってレイグの元へと向かおうとするけど、やっぱり足に力が入らず、一歩踏み出すとその場にこけてしまった。

 レイグもかなりのダメージを受けているせいか、身体を動かすことが出来ずに、近寄って来る男を睨む事しか出来なかった。

「……おせぇよ」

「なんだ?」

 目の前に男が迫る中、笑みを浮かべながらぼそりと呟くレイグ。男は怪訝な顔をしながらも腕を振り上げて、レイグに向かって振り下ろそうとするけど、次の瞬間、男の後ろの石が輝き出した。そして

「旋風流奥義、死突!!」

 突然現れたレディウス様の神速の突きが男の胸を背中から貫いた。私は余りにも突然過ぎる事に固まる事しか出来なかった。

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