黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
257話 イレギュラーな魔獣
「ここも久しぶりだなぁ」
俺は馬車から見える外壁を眺めて1人でつぶやく。行きの時は行軍で急いでおり寄らなかったため、ここに来るのは親善戦の帰りの時以来だ。あの時、ヴィクトリアとの結婚が決まったんだよな。あれからもう3年か。時間が経つのは早いな。
「ここがセプテンバーム公爵家の領地になるのですね。楽しみです」
俺の前に座るロナも馬車から見える領地にワクワクとしていた。そういえば、ロナを連れてくるのは初めてだな。結婚式や子供が生まれた時はセプテンバーム公爵や夫人たちが来てくれたから、ロナも会って知ってはいるが、こちらから訪れるのは本当に久しぶりだからな。
しばらく、外壁を眺めていると、俺たちが乗る馬車に並列する兵士が1人。窓を開けていたので、直ぐに何かあったか尋ねると
「はっ、どうやら馬車が魔獣に追われているようでして」
「魔獣? 種類は?」
「ここから見える限りですとオーガですね。それが5体ほど」
「オーガか。5体ほどならこの人数でもやれるな。よし、魔法を放ってこちらの存在を知らせるんだ。俺たちで討伐する」
「はっ!」
俺の指示を聞いた兵士は馬車から離れて他の兵士たちに指示を出す。それに合わせて馬車が止まり、魔法を放つ音が聞こえてきた。
俺もロナも馬車から出て、兵士たちが見ている方を見る。先ほどの魔法を見てこっちで構えている俺たちを見た馬車は、進行方向を変えて向かってくる。その後ろをオーガが話していた通り5体走っている。
馬車には頭に布を巻いた男が1人御者として乗っている。他に気配はないため1人なのだろう。頭に布を巻き、タンクトップの俺と年齢が変わらないであろう茶髪の男は、馬車を上手く操作して、兵士たちが隊列を組む横を抜けていく。
兵士たちは馬車が通り抜けていくのを確認すると、その後を追っていたオーガたちに向けて魔法を放つ。
オーガたちは目の前に迫る魔法を受け止めるため腕を交差させる。一番低い奴でも身長が2メートル半はある。大きい奴だと3メートル強。そんな巨体の上に筋骨隆々であり、魔力を体に纏っているオーガたちの耐久力はオークなどとは比べ物にならないくらい硬い。
魔法が止んで砂煙が収まると、そこには5体のオーガが立っていた。ただ、いくら硬いといっても魔法をモロに受けたのだ。傷がないわけがない。
腕や体からは血が流れており、中には片腕が消し飛んでいるものや脇腹が抉れているものもいる。ただ、一際大きな3メートル強あるオーガはかすり傷程度の傷しか負っていない。あいつは他のオーガより手強そうだ。
そして、そのオーガを先頭に再び動き出すオーガたち。兵士たちは再度魔法を放ち始める。オーガたちは1体、2体と倒れていき、最後の巨体のオーガが残った。
残りの1体も先ほど以上に傷は負っているが、倒れたオーガたちほどではない。それどころか、微かに体から煙が立ち込めていた。よく見れば傷が治って行っているではないか。
「……ロナ、オーガって自己再生なんてしたっけ?」
「……いえ、頑丈なのは確かなのですが、自ら回復するオーガなんて聞いた事がありません」
……だよな。はぁ、なんでこんなところでこんなイレギュラーと遭遇するんだよ、ったく。……だが、文句も言っていられない。オーガとは既に数十メートルまでの距離に近づいている。
俺はシュバルツを抜いて、兵士たちの前に出る。流石にこのイレギュラーなオーガの相手は兵士たちには重たいだろう。ましてや何日も馬を走らせているのだ。疲れているに違いない。それに比べればずっと馬車にいた俺は楽なものだ。
ただ、まだ纏が完全では無いのが問題ではあるが。魔天装をしないといけないほど追い詰められる事はないと思うが、出来るのをしないのと、出来ないからしないのとじゃあ、気持ちが違うからな。
「……まぁ、なんとかなるか」
考えても仕方ないと思った俺は、魔闘装を発動しオーガへと向かう。オーガは雄叫びを上げて俺に向かって来た。
俺の頭二つ分ほどある拳を力任せに振り下ろしてくる。俺はその拳に向かってシュバルツをぶつける。オーガの拳にはほんの少しめり込んだだけで、止まったシュバルツだが、俺はそのまま振り抜く。
力任せだがシュバルツはこの程度では曲がったりしない。そのまま振り抜きオーガの拳を跳ね返す。腕に衝撃が来るが体を通して地面に逃がす。
腕を弾かれて仰け反るオーガの懐に入り魔闘拳をした左腕で脇腹を殴る。まるで砂を詰め込んだ麻袋を殴ったような感覚だ。
オーガは脇腹からの衝撃に怯みながらも、反対の左拳を素早く横に振って来た。それを少ししゃがんで避け、左側の脇腹を切る。
しかし、切った側から煙をたてて治っていくオーガの体。これは本当に面倒だな。一気に倒すしかないな。俺はそのままオーガから距離を取り構える。
唯一再生しなさそうな場所といえば……やっぱり顔しかないよな。纏・真を発動して、シュバルツを鞘に戻す。オーガは雄叫びを上げながら再び迫ってくる。
「烈炎流……奥義……」
そして目前まで迫ったオーガは先ほどと同じように拳を振り下ろしてくる。それに合わせて俺もシュバルツを引き抜く。
「絶炎!!」
一気に引き抜いた斬撃は、迫る拳を切り裂き拳の半ばから肩へ、そのまま斜めに肩から上を切った。そして、俺は振り払った右腕を引き、一気に突き放つ。狙うはオーガの顔。
「死突!!!」
放たれた神速の突きは、軽々とオーガの顔を貫き、オーガの顔は散った。そして、残った巨体が地面へと倒れる。ここまですれば再生する事は無いだろう。
俺はシュバルツに付いた血を振り払いながら馬車へと戻る。兵士たちにオーガの死体の片付けを頼んで。しかし、あのオーガはどこから現れたのか。どうして自己再生を持っているのか。色々と探らないといけない事が出来たな。これはセプテンバーム公爵にも話さなければ。
「レディウス様、お疲れ様でした!」
「ああ。それで逃げていた馬車は?」
「はい。馬車の持ち主は待たせています。お会いになりますか?」
「ああ」
逃げていた馬車は俺たちの馬車から少し離れたところに止まっており、ロナに案内されながら近づくと、馬車の側に立っていた男が膝をついて頭を下げて来た。
「この度は伯爵様にお救い頂き誠にありがとうございますっす! お、おいらの名前はバルム。鍛治師ダンゲンの弟子っす!」
そう言いながら頭を下げるのは、まさかのダンゲンさんの弟子だった。
◇◇◇
「むむ、倒されてしまったか。しかし、吾輩の血で再生能力が付き、強化されたのを確認出来たのは良しとしよう。……むっ、血をやったせいで腹が減って来たな。食事をしに行くとするか。どの若い女の血にしようか」
俺は馬車から見える外壁を眺めて1人でつぶやく。行きの時は行軍で急いでおり寄らなかったため、ここに来るのは親善戦の帰りの時以来だ。あの時、ヴィクトリアとの結婚が決まったんだよな。あれからもう3年か。時間が経つのは早いな。
「ここがセプテンバーム公爵家の領地になるのですね。楽しみです」
俺の前に座るロナも馬車から見える領地にワクワクとしていた。そういえば、ロナを連れてくるのは初めてだな。結婚式や子供が生まれた時はセプテンバーム公爵や夫人たちが来てくれたから、ロナも会って知ってはいるが、こちらから訪れるのは本当に久しぶりだからな。
しばらく、外壁を眺めていると、俺たちが乗る馬車に並列する兵士が1人。窓を開けていたので、直ぐに何かあったか尋ねると
「はっ、どうやら馬車が魔獣に追われているようでして」
「魔獣? 種類は?」
「ここから見える限りですとオーガですね。それが5体ほど」
「オーガか。5体ほどならこの人数でもやれるな。よし、魔法を放ってこちらの存在を知らせるんだ。俺たちで討伐する」
「はっ!」
俺の指示を聞いた兵士は馬車から離れて他の兵士たちに指示を出す。それに合わせて馬車が止まり、魔法を放つ音が聞こえてきた。
俺もロナも馬車から出て、兵士たちが見ている方を見る。先ほどの魔法を見てこっちで構えている俺たちを見た馬車は、進行方向を変えて向かってくる。その後ろをオーガが話していた通り5体走っている。
馬車には頭に布を巻いた男が1人御者として乗っている。他に気配はないため1人なのだろう。頭に布を巻き、タンクトップの俺と年齢が変わらないであろう茶髪の男は、馬車を上手く操作して、兵士たちが隊列を組む横を抜けていく。
兵士たちは馬車が通り抜けていくのを確認すると、その後を追っていたオーガたちに向けて魔法を放つ。
オーガたちは目の前に迫る魔法を受け止めるため腕を交差させる。一番低い奴でも身長が2メートル半はある。大きい奴だと3メートル強。そんな巨体の上に筋骨隆々であり、魔力を体に纏っているオーガたちの耐久力はオークなどとは比べ物にならないくらい硬い。
魔法が止んで砂煙が収まると、そこには5体のオーガが立っていた。ただ、いくら硬いといっても魔法をモロに受けたのだ。傷がないわけがない。
腕や体からは血が流れており、中には片腕が消し飛んでいるものや脇腹が抉れているものもいる。ただ、一際大きな3メートル強あるオーガはかすり傷程度の傷しか負っていない。あいつは他のオーガより手強そうだ。
そして、そのオーガを先頭に再び動き出すオーガたち。兵士たちは再度魔法を放ち始める。オーガたちは1体、2体と倒れていき、最後の巨体のオーガが残った。
残りの1体も先ほど以上に傷は負っているが、倒れたオーガたちほどではない。それどころか、微かに体から煙が立ち込めていた。よく見れば傷が治って行っているではないか。
「……ロナ、オーガって自己再生なんてしたっけ?」
「……いえ、頑丈なのは確かなのですが、自ら回復するオーガなんて聞いた事がありません」
……だよな。はぁ、なんでこんなところでこんなイレギュラーと遭遇するんだよ、ったく。……だが、文句も言っていられない。オーガとは既に数十メートルまでの距離に近づいている。
俺はシュバルツを抜いて、兵士たちの前に出る。流石にこのイレギュラーなオーガの相手は兵士たちには重たいだろう。ましてや何日も馬を走らせているのだ。疲れているに違いない。それに比べればずっと馬車にいた俺は楽なものだ。
ただ、まだ纏が完全では無いのが問題ではあるが。魔天装をしないといけないほど追い詰められる事はないと思うが、出来るのをしないのと、出来ないからしないのとじゃあ、気持ちが違うからな。
「……まぁ、なんとかなるか」
考えても仕方ないと思った俺は、魔闘装を発動しオーガへと向かう。オーガは雄叫びを上げて俺に向かって来た。
俺の頭二つ分ほどある拳を力任せに振り下ろしてくる。俺はその拳に向かってシュバルツをぶつける。オーガの拳にはほんの少しめり込んだだけで、止まったシュバルツだが、俺はそのまま振り抜く。
力任せだがシュバルツはこの程度では曲がったりしない。そのまま振り抜きオーガの拳を跳ね返す。腕に衝撃が来るが体を通して地面に逃がす。
腕を弾かれて仰け反るオーガの懐に入り魔闘拳をした左腕で脇腹を殴る。まるで砂を詰め込んだ麻袋を殴ったような感覚だ。
オーガは脇腹からの衝撃に怯みながらも、反対の左拳を素早く横に振って来た。それを少ししゃがんで避け、左側の脇腹を切る。
しかし、切った側から煙をたてて治っていくオーガの体。これは本当に面倒だな。一気に倒すしかないな。俺はそのままオーガから距離を取り構える。
唯一再生しなさそうな場所といえば……やっぱり顔しかないよな。纏・真を発動して、シュバルツを鞘に戻す。オーガは雄叫びを上げながら再び迫ってくる。
「烈炎流……奥義……」
そして目前まで迫ったオーガは先ほどと同じように拳を振り下ろしてくる。それに合わせて俺もシュバルツを引き抜く。
「絶炎!!」
一気に引き抜いた斬撃は、迫る拳を切り裂き拳の半ばから肩へ、そのまま斜めに肩から上を切った。そして、俺は振り払った右腕を引き、一気に突き放つ。狙うはオーガの顔。
「死突!!!」
放たれた神速の突きは、軽々とオーガの顔を貫き、オーガの顔は散った。そして、残った巨体が地面へと倒れる。ここまですれば再生する事は無いだろう。
俺はシュバルツに付いた血を振り払いながら馬車へと戻る。兵士たちにオーガの死体の片付けを頼んで。しかし、あのオーガはどこから現れたのか。どうして自己再生を持っているのか。色々と探らないといけない事が出来たな。これはセプテンバーム公爵にも話さなければ。
「レディウス様、お疲れ様でした!」
「ああ。それで逃げていた馬車は?」
「はい。馬車の持ち主は待たせています。お会いになりますか?」
「ああ」
逃げていた馬車は俺たちの馬車から少し離れたところに止まっており、ロナに案内されながら近づくと、馬車の側に立っていた男が膝をついて頭を下げて来た。
「この度は伯爵様にお救い頂き誠にありがとうございますっす! お、おいらの名前はバルム。鍛治師ダンゲンの弟子っす!」
そう言いながら頭を下げるのは、まさかのダンゲンさんの弟子だった。
◇◇◇
「むむ、倒されてしまったか。しかし、吾輩の血で再生能力が付き、強化されたのを確認出来たのは良しとしよう。……むっ、血をやったせいで腹が減って来たな。食事をしに行くとするか。どの若い女の血にしようか」
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