黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

234話 トルネス王国の現状

「……ドラゴンですか」


 ドラゴンで俺が思い出すのは、陛下の誕生日のために狩ったロックドラゴンだろう。亜竜と呼ばれるロックドラゴンは、空を飛べない代わりに地中を移動する事が出来る。


 地面の中を移動するために発達した前足が武器で、そこそこ鱗が硬かったのを覚えている。


「ああ、しかも、ただのドラゴンではないのだ」


「ただのドラゴンじゃない、ですか?」


 俺の繰り返す言葉にレグナント殿下は頷く。一体どう言う事だ? 俺の疑問が伝わったのかレグナント殿下は話を続けてくれる。


「ああ、我が国に現れたドラゴンは、竜種の中でも上位に位置する属性竜で、しかも……アンデッド化しているのだ」


「それは……」


 俺の思っていた以上に危険な状況じゃないか、それ。ロックドラゴンやワイバーンのような亜竜の上をいく竜。属性竜1体で国を滅ぼす事が出来ると言われるほどのものが現れたのか。しかも、アンデッドになって。


「ただでさえ国をかけて戦わなければならない属性竜、その上、アンデッドの厄介な能力まで持っていてな」


 アンデッドの特徴としてはやはり痛みを感じないところだろう。一度死んでいるのか奴らには痛覚が無い。そのため、奴らは防御無視の特攻をして来る事が多いのだ。それで、被害が多くなる事も多い。


 それがゾンビやスケルトンならまだなんとかなるのだが、竜ともなると……あの巨体が突っ込んで来るのか。


「それに奴が放つ瘴気に周りの魔獣たちも集まって来ているのだ。その対応もあり上手く軍を動かせていないのが現状だ」


 レグナント殿下の言葉に黙り込む俺たち。レイヴン将軍ですら難しそうな表情を浮かべていた。それもそうだろう。竜1体でさえ厄介なのに、周りの魔獣たちも相手をしなければならないとなると。


「……今は父……陛下とフローゼが指示を出してくれている。本当なら私が指揮を取らなければならないのだが、王族の血を残すため、とフロイストとベアトリーチェと一緒に国から追い出されてしまったよ」


 ここには姿がなかったがフロイスト殿下もいらっしゃるのか。でも、竜相手では仕方ないのか。下手すれば国が滅ぶ程の魔獣相手だ。トルネス国王がそう考えるのも仕方ないだろう。


「……無理を承知でお願いします、アルバスト陛下。我が国への救援のため、兵を出しては貰えませんか?」


 陛下へと頭を下げるレグナント殿下。陛下は目を瞑り腕を組んで考え込んでいた。さて、どうなることやら。


「……わかった。トルネス王国は我が同盟国だ。隣国が危機に陥っているのを見て見ぬ振りは出来ぬ。レイヴンよ、直ぐに兵を集めるのだ」


「はっ、わかりました。それで、その軍を率いるのは?」


 レイヴン将軍の言葉に陛下は俺を見てきた……あー、俺がいるところでこの話をした理由はそう言うことか。やられた。


「アルノード伯爵よ。お主に頼めないだろうか。勿論伯爵領を治めないといけない事はわかっておるし、子がおるのもわかっておる。だが、レイヴンらの他に武勇に優れた者をお主以外に思いつかぬのだ。すまない」


 そう言い頭を下げて来る陛下。はぁ、余計に断れなくなった。でも、フローゼ様に何かあったらヴィクトリアも悲しむしな。


「……わかりました。陛下のご命令承ります。ただ、私がいない間の領地の事なのですが」


「わかっておる。文官を派遣しておこう。レイヴンよ。どのくらいで、兵は集まる?」


「数は2千ほどで、今日中には集まります。明日には出発出来るでしょう」


 ……急がないといけないのはわかるのだが、早いな。ヴィクトリアには領地に戻ってヘレネーたちに話して貰わないとな。クリスチャンが怒るだろう。ここに来るのにも渋っていたからな。


 ……また、セシルたちと離れるのかぁ〜。セシルはまだ会えるが、ヘレスティアは当分会えない。あまり会わなさ過ぎて俺の顔忘れていたらどうしよう? そう考えただけで涙が出そうになる。


 まあ、まずはヴィクトリアへの説得からだな。


 ◇◇◇


「くそっ、ゴブリンどもがそっちへ行ったぞ! クルト!」


「わかっている! アルテナ!」


「ええ!」


 俺の隣で同じように剣を構えるアルテナ。俺たちはこちらへと走って来るゴブリンどもへと剣を振り下ろす。


 この町の防衛を初めて今日で2日だが、中々数が減らない。魔法師たちが数を減らすために魔法を撃っているのだが……。


「奴が来たぞっ!」


 そして、別の兵士の言葉で全員が顔を上げる。そこには濁った赤い目を持つ竜が空を飛んでいた。そして、空から急降下して来た。兵士たちは避難して避けるが、俺たちが守っていた門を簡単に破壊する、


「……くそ、全軍撤退だ! この町を放棄する!」


 ……これで何度目だよ、町を捨てるのは。壊された門から次々と入ってくる魔獣たち。


「……悔しいけど、私たちじゃあドラゴンは倒せないわ。クルト、下がりましょう」


「……ああ」


 俺は次々と崩れる家屋と、その向こうで咆える竜を目に焼き付けるのだった。

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