黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

233話 訪れた理由

「おおっ、この子がヴィクトリアとアルノード伯爵の息子か。うむ、ヴィクトリアに似て可愛らしいの」


 俺の息子であるセシルを抱きかかえて笑みを浮かべる陛下。その隣で同じように笑みを浮かべている王妃様。ただ、セシルよ。どうしてそんな眉間に皺を寄せているんだ。初めて会う人に緊張しているのか?


「おじーさま、私も」


 その2人の光景を見て自分も見たくなったのか、レグナント殿下とアルバスト王国に来ていたベアトリーチェ様が、陛下の元に行きお願いをする。今は謁見の間では無く、陛下の私室だからゆるい雰囲気が漂っている。


「ほれ、ベアトリーチェ。お前の従兄弟になるセシルだ」


 従兄弟って、確かにパトリシアは今俺が預かってそういう関係だけど。ベアトリーチェ様は自分の目の前に来たセシルを見ておーっ、と言いながら頰をつんつんとつつく。


 セシルはじっーとベアトリーチェ様を見て、つんつんとされるがままだったが、次につんつんしようとした瞬間、パクッとベアトリーチェ様の指を咥えてしまった。


 ただ、咥えられたのに物怖じしないでじっとセシルを見るベアトリーチェ様と、口に咥えた指をもぐもぐとするセシル。2人が出す変わった雰囲気に皆何も言えずに固まっていると


「……はっ! こら、やめなさい、セシル! 早く口からベアトリーチェ様の指を出すのよ!」


 いち早く動いたのはヴィクトリアだった。ヴィクトリアがベアトリーチェ様の指を咥えられている方の腕を掴んで引っ張ると、セシルの口から指が抜けた。


 セシルのよだれでベトベトになったベアトリーチェ様の指。ヴィクトリアは慌てて自身の持つハンカチで指を拭く。その光景を見て固まっていた皆が笑い出す。俺も笑っていたら、ヴィクトリアに怒られてしまったが。


 それから、軽い話を終えて、王妃様、ヴィクトリア、メリエンダ夫人、王妃様の右手にベアトリーチェ様、ヴィクトリアがセシルを抱きかかえて部屋を出て行った。今、部屋に残っているのは陛下とレグナント殿下、俺にレイヴン将軍だ。


「さて、楽しい時間は後に残しておいて話し合いを始めようか。まずはアルノード伯爵の話だったな。確か、前ブリタリス王の夫人の保護だったな?」


「はい。彼女とその息子であるケイリーは、陛下の温情により、ブリタリス公爵領に住んでいたのですが……この資料の内容の事が行われていました」


 俺が持参した資料を陛下へと渡すと、陛下は内容を見てくれる。そして、顔を顰めた。公爵は色々とやっていたみたいで、あの訪れた日に行なっていた事以外に色々と出て来た。


「ふむ、それでメリエンダ夫人を助けるために保護したいと?」


「ええ、あのままではケイリーは殺されていましたしね」


 俺の言葉に少し考えた陛下だったが、直ぐに頷いてくれた。ただ


「周りの貴族はお主を保護したとは考えんかもしれぬがな」


「と、言いますと?」


 俺は陛下の言おうとした事に分からず尋ねたが、続く陛下の言葉に頰をひきつらせる事しか出来なかった。


「お主の事を気に入らぬ貴族たちがな、お主の事を……まあ、女好きと言いふらしいるのだ。初めての結婚で2人と結婚し、あの様な姿になってしまったパトリシアも受け取ってくれた。そこに敗戦国の元王妃を保護すると言えば、奴らはまたいらぬ事を言いふらすかもしれない」


 陛下のその言葉を受けて、レイヴン将軍は苦笑い、レグナント殿下は爆笑していた。おい、笑い過ぎですよ。


「……はぁ、良いですよ、その程度の噂。別に間違っていませんし。3人とも私の大切な人ですから」


 そこにロナも含まれるのだが、まあ、 別に言わなくても良いだろう。


「……そう言ってもらえて儂も安心だ。お主にパトリシアを預けて良かったと。よかろう。アルノード伯爵のメリエンダ夫人の保護を認める。それと、噂については儂が抑え込もう」


「ありがとうございます」


 これで、メリエンダ夫人の事については何も言われなくなったな。これで俺の話は終わりなので、部屋を退室しようとしたのだが


「ああ、アルノード伯爵よ。もう少し残ってくれ」


 と、陛下に言われてしまった。何かあるのだろうか、と思い残っていると


「さて、それではレグナント殿下よ。お主が訪れた理由をまた話してくれ」


 と、陛下は言う。そういえば、レグナント殿下はどうしてアルバスト王国に? 親善戦はまだだろうし、アルバストとブリタリスの終戦記念もまだ先だ。今は準備中だけど。


「わかりました。私がアルバスト王国に訪れた理由は、我が国に救援を頼む為です」


「救援? 何かあったのですか?」


「ああ。我が国に……ドラゴンが来るようになったのだ。それも亜竜ではない竜が」


 レグナント殿下のここに訪れた理由は、思っていた以上に危険な物だった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品