黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

231話 保護

「これはこれは、お待ちしておりましたぞ、アルノード伯爵。私がエンリット・ブリタリスです。さぁ、さぁ、こちらへどうぞ」


 ケイリーを助けて、メリエンダ夫人のところへ向かってから1時間が経った今、俺たちは予定通りブリタリス公爵の屋敷へとやって来ていた。


 そして、俺とパトリシアを出迎えて来たのは、屋敷の主人であるブリタリス公爵だった。第一印象は細長いだった。身長は180ほどだけど、脂肪どころか筋肉もついてなさそうな風貌をしており、少し神経質そうな雰囲気がある。


「こんな私のためにお出迎えありがとうございます、ブリタリス公爵。それに、遅れて申し訳ないですね。少し、問題がありまして」


 屋敷の中に案内されて俺から話しかける。ブリタリス公爵は俺の話に笑みを浮かべながら聞いているが、どこか落ち着きの無い様子だ。そんなに、メリエンダ夫人の事が気になるか?


「ほう、問題ですとな? 何があったのですか?」


「まあ、大した事は無いのですが、ここに来る途中人集りが出来ていましたね。そこで、ある少年が街の住民に暴力を受けていたのですよ」


「……ほう、それはそれは」


 俺の言葉に知らないふりをしているが、少し声が震えているのがわかる。


「この街もまだまだ治安が悪いようですね。兵士たちは暴力を振るう住民が怖くて止められないようでしたから。仕方なく、私が入る事にしました。あまり酷いようでは陛下にお伺いしなければなりませんね」


「そ、それは……」


「あっ、それから、メリエンダ夫人の屋敷も怪しい者たちに襲われていましてね。あれも我々が間に合わなかったら彼女の命はなかったかもしれません。やはり、これは兵士たちを見直さないといけないかもしれませんね」


 俺がそう言うとブリタリス公爵は黙り込んでしまった。なんて言ってくるか待っていると、俯いていたブリタリス公爵は顔を上げて、困ったように笑みを浮かべる。


「……そこまで悪かったとは。お手数をおかけいたしましたな、アルノード伯爵。そんな事が起きればメリエンダも安心して暮らせないでしょうし」


 そして、俺の言葉に納得した。もう少しごねると思ったが……治安が良くなったのは自分のおかげとかメリエンダ夫人に言いたいのかな? ただ、それも意味は無いのだけど。


「ああ、その事なのですが、メリエンダ夫人は私の領地で暮らす事になりましたから。だから、ご安心ください。私の領地はそこそこ治安は良いですから」


 流石にこれには驚いたのか俺を見て目を見開くブリタリス公爵。何か言いたそうだが、彼はこの事に対して何も言えない。なぜなら、治安が悪い事についてついさっき自分で認めたのだから。


 それからはその話題をしようとするブリタリス公爵の話を逸らして、簡単な話をして俺たちは屋敷を後にした。メリエンダ夫人の事で何か言われるのは面倒だからな。


「あんなもので良かったかな、パトリシア?」


「あのぐらいは全然大丈夫ですよ。中には直接的に示威行為を行う貴族だっているのですから、それに比べたら、さっきのは物凄く優しいですよ」


 そうだったのか。まあ、別に争うつもりは無いから構わないのだが。


 それから俺たちは急いでメリエンダ夫人の屋敷まで向かう。既に馬車は用意されており、その中に荷物を乗せていた。


 屋敷の中へと入ると、兵士たちに指示を出すミレイと、その光景を見ているメリエンダ夫人の姿があった。


「何か問題はありませんでしたから」


「アルノード伯爵。ええ、特には無かったわ。兵士の皆さんには荷物を運んでもらって申し訳ないのだけど」


「ははっ、あいつらはそんな事気にしませんよ。それより、準備は出来ましたか? 先ほどブリタリス公爵には私の元でメリエンダ夫人を住ませる、まあ、保護すると言いましたから、もしかしたら出る前に何かしてくるかもしれません。そうなる前にここを出ようと思うのですが」


「私の方は大丈夫。荷物も殆ど無かったし、あった分はミレイが纏めて兵士の皆さんが運んでくださったから。いつでも行けるわ」


 よし、それなら直ぐに出発しよう。今急いで出れば日が暮れる前に隣町につけるだろう。


「グリムドは眠っているケイリーを連れて来てくれ。メリエンダ夫人は私の馬車へ。ケイリー、ミレイも一緒で大丈夫ですから」


「わかりました」


「わかったわ」


 それぞれが俺の言葉に動いてくれる。一度領地まで戻ってからは……一度陛下に挨拶をしに行かないとな。今回の事もそうだが、地中彷徨っている間心配をかけてしまったし。


 一応、パトリシアから話を聞いて手紙は送ったのだが、一度姿を見せていた方がいいだろう。

コメント

  • リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!

    この話の大抵の人間ってクズだな

    1
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