黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

229話 屋敷への襲撃

「大分落ち着いて来ましたね」


 パトリシアはそう言いながら、気を失っているケイリーの頭を膝に乗せて、ふわふわの尻尾を布団代わりなのかケイリーの体の上に乗せていた。


 ケイリーも最初は痛みで顔を歪ませていたのだが、次第に落ち着いたような表情を浮かべて眠っていた。これは、傷の痛みが引いたからだよな? 決してパトリシアに膝枕をされているからじゃないよな?


 ……よし、後で俺もしてもらおう。べ、別に目の前でしてもらっているケイリーを見て羨ましくなったとかじゃないからな。


 そんな事を考えていると、馬車の扉が叩かれる。扉の方を見ると馬車に並ぶように馬を走らさるグリムドの姿があった。


「伯爵様、メリエンダ夫人の屋敷が見えてきました。伯爵様の予想通り問題も起きていますね」


 ……はぁ、やっぱりか。グリムドの話だとまだ来たばかりの様子だが、これが公爵の元へ行った後だと間に合わなかったな。


「わかった。門の前まで馬車を進めさせろ。馬車に何人か兵士を残して後は俺についてくるように。人選はグリムドに任せるよ」


「わかりました」


 グリムドはそう言い、先へと進む。俺はその間に腰にあるレイディアントとシュバルツを確認する。抜く気は全くないが準備はしておかないとな。そして、前に座るパトリシアに目を向けると


「この子は任せてください」


 と、いつもの綺麗な笑みではなく、闘争心溢れる野生じみた笑みを浮かべていた。ちょっと怖いけど背筋がゾクっとしたのは何故だろうか?


 この感覚がわからずに考えていると馬車が止まる。馬車の外からは怒鳴り声と、金属のぶつかる音が鳴り響く。どうやら、既に始まっているようだ。


「それじゃあ、行ってくるよ」


「ええ、気をつけてくださいね」


 俺はパトリシアの言葉に頷きながら馬車を出る。馬車の外には既に準備を終えているグリムドと兵士たち。少し離れたところの屋敷では、武装した男たちが門に殺到していた。


 そして、その男たちが集まる門の向こうには、侍女服を着た黒髪の女性が槍を持って構えていた。まさか、ここでも黒髪に出会う事になるとは。ロナ、アールヴ族のミレイヤに加えて3人目だ。


 黒髪の侍女は迫ってくる男たちの剣を槍で上手い事弾き、門より内側へと入らせないようにしていた。中々の実力者だけど、男たちの数に少しずつ押されているようだった。


 このままでは押し切られてしまうため、俺はグリムドに指示を出し向かわせる。グリムドと兵士たちを合わせて10人ほど。数では倍近くの差があるが、あの男たち程度の実力だと十分だ。


 グリムドの号令で剣を抜き走り出す兵士たち。突然後ろから聞こえてくる叫び声に男たちは驚いた表情を見せ振り返って見てきた。侍女服の女性も驚きの表情を浮かべている。


 突然現れた俺たちに男たちは慌てたが、その中にいた1人が怒鳴ると態勢を立て直してグリムドたちを迎え撃とうとする。ふむ、あの男は他の奴らとは違うようだ。


 その男は真っ直ぐとグリムドを睨みつけて切りかかった。攻めた兵士たちの中で誰が強いのかわかるようだ。


「主の命によってお前たちを捕らえさせて貰うぞ!」


「ちっ、邪魔をするなら切る!」


 鍔迫り合いから離れる2人。離れた瞬間グリムドは土魔法で石の礫を放つ。男は自分に当たりそうなものだけを剣で払い、体は身体強化をグリムドへと迫る。


 グリムドに向かって突き出される剣を、グリムドは慌てる事なく弾く。グリムドはそのまま男の首めがけて剣を振るが、男を体を後ろに逸らして避ける。更に体を逸らしたままグリムドの剣を持っている右腕を下から蹴り上げた。なんて体の柔らかさだ。


 グリムドは腕を打ち上げられたが、何とか剣は離さないように握りしめる。ただ、その隙を突くように男が体をぶつける。


 体をぶつけられ怯んだグリムド。そこに男は剣を振りかざす。グリムドは男の剣を防ぐが、一度崩した体勢は中々元には戻せない。


 このままではまずいかもしれないと思った俺は、シュバルツに手をかけて向かおうとした時、2人を割るように鋭い槍が迫る。


 迫る槍に2人は距離を取る。2人の間に来たのは槍を持つ黒髪の侍女だ。侍女は、グリムドに何かを尋ねると、グリムドはそれに頷く。そして、2人が並んで男に向かって構え始めた。こちらが味方だと信じてくれたようだ。


 男は流石に2対1は厳しいと感じたのか、懐から取り出した笛を加えて吹く。ピーと甲高い音が鳴り響くと、兵士たちと争っていた男たちが、バラバラに逃げ始めた。バラバラに逃げて捕まりにくくするためか。


 グリムドたちは追うことはせずに、辺りを警戒したまま動かなかった。残ったのは男たちの死体が幾つかと、所々傷を負った兵士たちのみ。


 グリムドと侍女は少し言葉を交わすと2人して俺を見てくる。そして、頭を下げてくる侍女。俺が誰だかグリムドが説明してくれたようだ。


 色々と話を聞きたい事はあるけど、まずは屋敷へ入って挨拶をさせてもらおう。元王妃様に。

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