黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
228話
「お前ら、こいつは元王子様でよぉ、この国を守り切れなかった駄王の息子だ! こいつの親のせいで、親しい者が死んだ奴らがいるんじゃねえのか!? 今ならこいつを殴り放題だ!」
男はそう言って、地面に倒れ込む少年を踏みつける。踏みつけている男と一緒にいる2人の男は、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、男と同じように見学している住民を煽る。
……何で俺が来た時にこんな事が起きているんだよ。ため息を吐きそうになるのをグッと我慢して周りを見る。
ここの兵士はアルバスト王国から派遣された兵士もいるが、それほど人数を割けないため、合併して新たに増えた新アルバスト軍兵士、元ブリタリス軍の兵士が前と変わらず見回りなどの治安維持のための仕事をしている。
ただ、本来であればこの事態を率先して止めるべきである新アルバスト軍兵士たちは、少しこちらを見てから視線を逸らした。
……あいつらはこの光景を見て見ぬ振りをするのか。兵士としての仕事を全うせずにいる兵士に対して怒りが膨れ上がっているところに、後ろから声をかけられた。グリムドがどうするかと尋ねて来たのだ。
「そんな事は決まっているだろうが」
俺はそう言いながら真っ直ぐと少年の側まで歩いていく。グリムドは俺がどう動くから予想していたのか、部下を引き連れて俺の後に続く。
突然現れた俺たちを訝しげな視線を向けてくる住民たち。俺はその視線を無視して、少年を踏みつける男の前へと立つ。
突然現れた俺に男たちは警戒し、俺の黒髪を見て舐めるような視線を向けて来たが、後について来た武装したグリムドたちを見て再び警戒する。
「これは一体何をしている?」
「な、何だよ、お前は? お、お前には関係……ひぃっ!?」
突然現れた俺たちに驚きながらも強気で話そうとするので、殺気を放って心を折る。こいつらに手加減をするつもりはない。俺のさっきに当てられてガクガクと震える男たち。俺が軽く押すと倒れて尻餅をつく。
俺は倒れている少年を抱き上げる。怪我は……酷いな。顔は殴られ過ぎて腫れていないところは無いし、腕は両方折れた上に、指まで折られている。
体の骨も殴られたり蹴られたりしてボロボロで、足は辛うじて左足だけが折れずに無事だった。それでもヒビは入っているだろう。
……どうしてこんな少年にこんな事が出来るんだ、こいつらは。俺はグリムドが持っているポーションを受け取って、彼にかける。本当は飲ませた方が効果が良いのだが、気を失っている今は無理だ。今は少しでも外傷を治そう。
気を失っている少年のボロボロの服を脱がしてポーションをかけていると、住民たちの人垣が割れた。そして、現れたのはさっきまで見て見ぬ振りをしていた兵士たちだった。その先頭には偉そうに歩く隊長と思われる男もいる。
「何の騒ぎだ、これは?」
何の騒ぎだ、と言いながらも俺たちを囲むように展開する兵士たち。確信犯だろ、これ。俺は怒りを通り越して呆れていると
「おい、黒髪のお前。そのガキを渡せ」
と、言ってくる。しかも、全員が剣に手をかけながら。はぁ……俺は少年を抱き上げながら、腰に差してある短剣を抜く。その短剣を見た隊長格の男は一瞬訝しげな表情を浮かべるが、気が付いたのか何度も俺と短剣を見比べる。
「俺の名はレディウス・アルノードだ。ここで俺の名前を知らない奴はいないよな?」
俺は兵士たちにも殺気を放ちながら見て行くと、兵士たちは軽く悲鳴をあげながら数歩下がる。俺はそれを気にする事なく、少年をグリムドに渡す。兵士はそんな俺に何か言いたそうだったが、睨みつけて黙らせる。
本当はこいつら全員捕らえたいところだが、そんな事よりも先に彼を治療しなければ。
「ま、待ってく……いや、待ってください。そいつを連れて行かれると俺たちが……」
「なら、ここで死ぬか?」
本当はこんな事を言いたくはないが、我慢が出来なかった。俺が放つ殺気に呼吸もままならない兵士たち。その余波が住民にも広がり倒れる者もいる。この状況を見ていた奴らだ。兵士たちほどではないが庇う必要も無いだろう。
俺が歩くと人垣は左右に割れて道が出来る。少年を抱えたグリムドには馬車の中に入れるように指示を出して、俺も馬車に戻る。
「この子は……酷い怪我ですね」
「誰かわかるのか?」
「ええ、何年か前はまだブリタリス王国と普通に交流がありましたから。王女として会った事があって……」
パトリシアはそう言いながら自分が持っていた応急キットを取り出して、少年の傷を手当てしていく。
「グリムド。予定変更だ。先に夫人のところへ向かう」
「公爵の方はよろしいので?」
「わかっているんだろ? これを指示しているのが誰なのか。それに、元王子である少年、ケイリーをここまでしているんだ。夫人の方にも何か危険が及んでいるかもしれない」
外れて欲しいが、今回は予感通りになりそうだ。
男はそう言って、地面に倒れ込む少年を踏みつける。踏みつけている男と一緒にいる2人の男は、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、男と同じように見学している住民を煽る。
……何で俺が来た時にこんな事が起きているんだよ。ため息を吐きそうになるのをグッと我慢して周りを見る。
ここの兵士はアルバスト王国から派遣された兵士もいるが、それほど人数を割けないため、合併して新たに増えた新アルバスト軍兵士、元ブリタリス軍の兵士が前と変わらず見回りなどの治安維持のための仕事をしている。
ただ、本来であればこの事態を率先して止めるべきである新アルバスト軍兵士たちは、少しこちらを見てから視線を逸らした。
……あいつらはこの光景を見て見ぬ振りをするのか。兵士としての仕事を全うせずにいる兵士に対して怒りが膨れ上がっているところに、後ろから声をかけられた。グリムドがどうするかと尋ねて来たのだ。
「そんな事は決まっているだろうが」
俺はそう言いながら真っ直ぐと少年の側まで歩いていく。グリムドは俺がどう動くから予想していたのか、部下を引き連れて俺の後に続く。
突然現れた俺たちを訝しげな視線を向けてくる住民たち。俺はその視線を無視して、少年を踏みつける男の前へと立つ。
突然現れた俺に男たちは警戒し、俺の黒髪を見て舐めるような視線を向けて来たが、後について来た武装したグリムドたちを見て再び警戒する。
「これは一体何をしている?」
「な、何だよ、お前は? お、お前には関係……ひぃっ!?」
突然現れた俺たちに驚きながらも強気で話そうとするので、殺気を放って心を折る。こいつらに手加減をするつもりはない。俺のさっきに当てられてガクガクと震える男たち。俺が軽く押すと倒れて尻餅をつく。
俺は倒れている少年を抱き上げる。怪我は……酷いな。顔は殴られ過ぎて腫れていないところは無いし、腕は両方折れた上に、指まで折られている。
体の骨も殴られたり蹴られたりしてボロボロで、足は辛うじて左足だけが折れずに無事だった。それでもヒビは入っているだろう。
……どうしてこんな少年にこんな事が出来るんだ、こいつらは。俺はグリムドが持っているポーションを受け取って、彼にかける。本当は飲ませた方が効果が良いのだが、気を失っている今は無理だ。今は少しでも外傷を治そう。
気を失っている少年のボロボロの服を脱がしてポーションをかけていると、住民たちの人垣が割れた。そして、現れたのはさっきまで見て見ぬ振りをしていた兵士たちだった。その先頭には偉そうに歩く隊長と思われる男もいる。
「何の騒ぎだ、これは?」
何の騒ぎだ、と言いながらも俺たちを囲むように展開する兵士たち。確信犯だろ、これ。俺は怒りを通り越して呆れていると
「おい、黒髪のお前。そのガキを渡せ」
と、言ってくる。しかも、全員が剣に手をかけながら。はぁ……俺は少年を抱き上げながら、腰に差してある短剣を抜く。その短剣を見た隊長格の男は一瞬訝しげな表情を浮かべるが、気が付いたのか何度も俺と短剣を見比べる。
「俺の名はレディウス・アルノードだ。ここで俺の名前を知らない奴はいないよな?」
俺は兵士たちにも殺気を放ちながら見て行くと、兵士たちは軽く悲鳴をあげながら数歩下がる。俺はそれを気にする事なく、少年をグリムドに渡す。兵士はそんな俺に何か言いたそうだったが、睨みつけて黙らせる。
本当はこいつら全員捕らえたいところだが、そんな事よりも先に彼を治療しなければ。
「ま、待ってく……いや、待ってください。そいつを連れて行かれると俺たちが……」
「なら、ここで死ぬか?」
本当はこんな事を言いたくはないが、我慢が出来なかった。俺が放つ殺気に呼吸もままならない兵士たち。その余波が住民にも広がり倒れる者もいる。この状況を見ていた奴らだ。兵士たちほどではないが庇う必要も無いだろう。
俺が歩くと人垣は左右に割れて道が出来る。少年を抱えたグリムドには馬車の中に入れるように指示を出して、俺も馬車に戻る。
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「ええ、何年か前はまだブリタリス王国と普通に交流がありましたから。王女として会った事があって……」
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「グリムド。予定変更だ。先に夫人のところへ向かう」
「公爵の方はよろしいので?」
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