黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

226話 訪問者

「ガルルゥー!!」


 俺の隣で威嚇をするロナ。いつもなら誰に対しても優しいロナだけど、とある人物に対してはかなり敵意を向ける。こらロナ、短剣を抜こうとするんじゃありません。唸り声も上げないの。


全く、朝からどうしてこうなったのやら。俺がため息吐いて、ロナが威嚇する相手を見てみると


「はー、貴族様というのはどうしてこうもどでかい家に住みたがるのかねぇ。管理するのもわざわざ雇わなきゃいけねえのに。俺にはわからねえや」


 と、威嚇されている事を気にした様子もなく、偉そうにソファに座り込んでいる。自分の家のように偉そうだ。


 俺自身平民出身の様なもので、あまりマナーにはうるさくない方だが、流石に貴族の家に来てその座り方はどうかと思うぞ。俺だからまだ許している様なもので、普通ならロナの様な……それ以上の反応が返ってくるはずだから。


「……ほらロナ、落ち着けって。今更こいつに何か言っても変わるわけが無いだろ?」


「でもでも! ここに前触れも無く突然やって来て開口一番『なんだ、生きていたのか』ですよ。それに、こんな偉そうな態度、レディウス様をナメているんですよ! ここは1発泣かせておかないと!」


「はっ、逆に俺が鳴かせてやるよ。それもベッドの上でな」


 目の前で偉そうに座りながらロナに言い返す男。以前陛下の誕生日の際に、贈り物としてドラゴンの首を手に入れる時に手伝いを依頼したランクAの冒険者、レイグが、そんな言葉を返して来た。流石に今のは聞き捨てならないぞ。


「おい、レイグ。あんまふざけた事抜かすとぶっ飛ばすぞ。ロナは俺のものだからな!」


 俺はそう言いながらロナを守る様に抱き寄せる。さっきまで唸っていたロナも俺の腕の中で固まってしまって、レイグはまるで甘過ぎるものを食べた時の様な顔をしている。何だよ。


「……かぁー、なんて甘ったるいもん見せてくれんだよ。俺は甘いもんを苦手なんだよ」


「知らねえよ」


 そんな事は誰も聞いていないぞ、この野郎。そんな風に睨み合っていると


「レディウス、お茶を用意……あら? レディウス、ロナさんが顔を真っ赤にさせて目を回していますよ?」


 丁度いいタイミングでヴィクトリアたちが入って来た。ヴィクトリアの後ろにはヘレスティアを抱いたヘレネーと、セシルを抱いたパトリシア、それにアレスにレイグの奴隷の女性たちも一緒だ。どうやら、子供たちの事を自慢しに行っていたようだ。


 レイグの奴隷たちは緩んだ顔のままレイグの方へと向かう。レイグは普段と様子が違うからか少し警戒している。そして、奴隷の中で背の小さい女の子がレイグの向かい合うように膝の上に跨る。


 そして、レイグの上で腰を擦り付けるようにフリフリと動き出す女の子。な、何してんだこの子。


「レイグさまぁ〜、私も赤ちゃん欲しいですっ!」


「お、おい、メグ、こんなところで何しやがる!」


 流石にその動きに慌てたレイグは、メグと呼ばれた女の子の脇下を掴み抱き上げる。40センチ近くの身長の差があるから、容易に持ち上げられるメグ。少しでもレイグに引っ付こうと手を伸ばすが、レイグも手を伸ばしているため届かない。


 流石に見ていられなかったのか他の奴隷の女性たちもその女の子をレイグから引き剥がし部屋を出る。ついでにレイグも持って行って欲しかったのだけど。


 しばらくしてから戻って来たけど、女の子はしゅんと落ち込んで奴隷の女性たちと同じように並ぶ。女性たちには謝られたけど、まあ、ここでおっ始められなかったからいいんだけど。


「それで、ここには何の用で来たんだよ?」


「あ? 別に。お前が死んだって聞いたんだな、確かめに来ただけだ」


 ……おい、今その話はやめろよ。そのことでみんな過敏になっているんだから。ほら、昨日頑張って慰めたパトリシアがまた暗く落ち込んでいるじゃないか。耳も尻尾もヘタってしまって。


 俺が昨日みたいにパトリシアを抱き締めて耳と尻尾をもふもふしていると、レイグの女性たちの1人が


「……? レイグ、どうしてそんな嘘をつくの? あいつはそう簡単にくたばるやつじゃねえ、って、レイグに依頼をしようとした男爵が伯爵の事を笑っていた時に殴っていたじゃない?」


 心底不思議そうな顔を浮かべて首を傾げる女性に、レイグは顔を赤くして反論する。だが、その女性の言葉で思い出したのか、他の女性たちも笑って震えていた。


 少し剣呑な雰囲気を出していたヘレネーたちも、その光景と聞いた話に笑っている。俺も思わずニヤニヤとしてしまった。へぇ〜


「……何ニヤニヤとしてやがる。ぶっ飛ばされてえのか?」


「はっ! やれるもんならやってみろ! 返り討ちにしてやるよ!」


 照れ隠しにそんなこと言って来たって全然怖くないんだよ。それでも、来るって言うのなら上等だ。返り討ちにしてやる!


 そんな風に睨み合っていると、扉を叩く音がする。返事をすると入って来たのは、武装したグリムドだった。もう、そんな時間か。


「伯爵、準備が整いました」


「わかった。ブランカは怒ってなかったか?」


「今のところは大丈夫ですが、伯爵が近づくとわかりませんね」


 苦笑いするグリムド。あいつの事だから、俺がいなかった事にはあまり気にしていないか。それより、俺も支度しないと。


「まあ、とにかく用が無いのなら、帰れ。俺は今から出なきゃいけないからな」


「あん? どっか行くのかよ?」


「ただの挨拶回りだよ」


 全く出来なかったからな。それに、厄介な奴もいるようだし。

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