黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

215話 歩き回って

「……はぁ……はぁ……ふぅ」


 俺は辺りを警戒しながら通路の端に背を預けて座る。グラトニーワームの皮で作った袋を横に置いて。真っ暗で殆ど見えず、出口を示す光を指す通路も見えない中、俺は延々と歩いていた。


 グラトニーワームの腹から出て来て今日で7日……いや、8日だったかな? 初めの2日ほどは感覚で数えていたけど、途中から戦闘などでそれどころではなくて曖昧になってしまった。休む時間もバラバラだし。


 ぐぎゅるるる〜


 ……取り敢えず何か食うか。俺は側に置いたグラトニーワームの皮袋の中から肉を取り出す。これは何の肉だったかな? ……ああ、そうだ。このグラトニーワームが進んだ大きな通路の中に巣を作っていた蟻の肉だ。


 名前はわからないけど、この通路の中で時々現れるんだよな。グラトニーワームが適当に進んで出来た地面の中の通路が独特の迷路となって、その中でさらに他の魔獣たちが巣を作っている。


 蟻以外にも土竜や虫系は勿論の事、普通は緑色なのに、茶色のゴブリンや土を掘る鳥系の魔獣もいたな。そいつらのおかげで何とか食事には困っていない。


 グラトニーワームが適当に開けた通路のおかげで生きながらえるなんて皮肉なものだが。


 飲み水に関しても、魔獣のおかげで助かった。蟻たちの中には蜜を持ったやつがいたし、ゴブリンたちも水は必要なようで、地面の中に染み込んでくる水を溜めていた。


 普通では飲めないと思うほどのものだったけど、命がかかっている現状そんな事を言っていられなかった。今までした事ないが、胃を強化するという荒業を使って何とか飲む事が出来たけど。


 こんな時、本当に黒髪というのが恨めしい。火属性や水属性、せめて何らかの属性を1つでも持っていれば違っただろうに。


 ……まあ、今更その事に嘆いたとして、結果が変わるわけじゃないから、なるべく思わないようにはしているけど。そのおかげで剣術にのめり込んだのもあるし。


 肉は本来であればあり得ないのだが、生で食っている。理由はさっきも話した通り火が使えないのと、燃やせるものが無いからだ。俺に火起こしの才能はなかったらしい。


 肉を食う時も胃を強化して無理矢理流し込む。味なんてもう関係無い。不味かろうが固かろうが、食えるものは食わないと。いつ食べられなくなるかわからないから。


「……うぇっ。まじぃ」


 それでも不味いものは不味い。前ほどでは無いが、吐き気を催すほどの不味さだ。何とか歯を食いしばり飲み込む。蟻蜜が無かったら初めの方は食えなかった。今も数少ない水分として重宝している。


 やっぱりこういう状況にならないと人間って普段の生活には感謝しないよな。普段何気なく食べている料理、何気なく飲んでいる水。こういうのを当たり前って感じたら駄目なんだよなぁ。しみじみと感じてしまう。


「ふぅ、腹は満たされたな」


 1匹で俺の腰ぐらいまでの大きさのある蟻だ。肉もそこそこあったので十分に腹は満たされた。この蟻たちにも感謝だな。不味い肉と蟻蜜のおかげで死なずに済んでいる。まあ、出会ったら容赦しないけど。


 さてと、ここからどうしようか。この数日間は上に行けば抜けられると思って歩き続けたけど、暗闇の中、登るとわかるのだけど、普通の道だと真っ直ぐなのか、曲がっているのか、上がっているのか、下っているのか、がわからないんだよな。


 それなら、ゴブリンや蟻たちの後を付いて行こうとしても、そういう時に限ってそいつらを餌にしている魔獣と出くわすせいで、中々上に行けない。


 弱肉強食の上にいる魔獣たちは、俺を見ると襲ってくるから倒すしか無いし、外に出る事自体が珍しいので、わからないままなのだ。


 そのせいで当てもなくただ長い通路の中を、この数日間は歩き回っていたのだけど……


「このままじゃあ駄目だな」


 今更だけど気が付いた。早くここから抜け出さないと、と思って思い付きで歩いていたが、無計画過ぎてこんな状況になってしまった。駄目だなぁ、この性格は直さないと。思ったらそのまま突っ走ってるぞ、俺。


「確か……こうだったか?」


 俺は師匠の言葉を思い出しながら、魔力を薄く広く周りに放つ。昔の修行で師匠は目を瞑っていても、目隠ししていても俺の居場所がわかると言っていた。


 試しに目隠しをしてやって貰ったけど、見えていないはずなのに指一本触れる事が出来なかったな。師匠が言うには、達人は気配で相手がどこにいるかわかるというが、それを魔力でよりわかるようにしたらしい。確か『領域』だったかな?


 魔力の扱いに長けていないと難しいとは言っていたけど、今なら出来るかも。薄く広く薄く広く……何と無くだが近いの形がわかって来た……かもしれない。半径10メートルぐらいが今の俺の限界だ。それから先へと伸ばそうとしても霧散して感じられなくなる。


 結構難しいなこれ。しかも、保つのに意識を持っていかれるため動けない。動くと霧散してしまうからだ。歩きながらしようと思ったら半径3メートルってとこほだな。師匠のように戦闘に使おうものなら1メートルが良いところだろう。


 ても、このおかげで光明が見えた。もっと早く気が付けばよかったけど。まあ、突然の事で焦っていたから仕方ない……という事にしておこう。本当悪運だけは強いな、俺。


「とりあえず、地上に出る事を初めの目標だな」

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