黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

214話 飛び出した先

「……痛ぇ」


 パラパラと降り注ぐ土。顔に土が降りかかるのを感じながらも俺は体を起こす。辺りは真っ暗で何も見えず、鼻が曲がりそうなほど臭い匂いだけが漂っている。


 真っ暗で何も見えないため、ここがどこなのか、あれからどれくらい経ったのかもわからない。グラトニーワームに食われたとは思うのだが。


「……取り敢えず、視界を確保しないと。魔闘眼」


 目に魔力を集めて魔闘眼を発動する。魔闘眼によって魔力を見る事が出来るようになると、微かだが、辺りの光景も見えるようになった。


 周りの光景は一言で言うと……肉だった。ぶくぶくとなった肉の壁があり、その向こうには脈動する太い管。多分血管だろう。それに沿うように流れる魔力。血管が流れるとそれに合わせて肉も揺れる。気持ちが悪い。


 辺りは土ばかりだが、所々に動物の死骸などグラトニーワームが捕食したものの死体が落ちている。さっき食われた冒険者の死体もあれば、既に白骨化して骨すらも溶けかけている死体もあった。


 今の段階ではパトリシアの気配を感じないのが救いか。無事に逃げられていると良いのだけど。そんな事を考えていると


「うわぁぁああああっ!!!」


 と、叫び声が聞こえて来た。まさか、他にも俺と同じように行きている奴が!? 俺が声のする方へと走って行くと、そこには3人の男冒険者がいた。さっき俺たちを襲って来た中にいた奴らだ。


 1人は足を怪我しているのか座りこんだ状態で魔法を放ち、他の2人は迫る魔獣を剣や斧で防いでいた。あの魔獣は……あんなサイズもいるのグラトニーワームは。


 今冒険者たちを襲っていたのは体の長さが2メートルほどの成体どころか、幼体にすら届かないほど小さなグラトニーワームだった。本当に生まれたばかりなのだろう。まさか、体の中で育てているとは。


 冒険者に思うところがないわけでは無いが、この非常時にそんな事も言ってられない。俺はレイディアントを抜き、冒険者たちへと集まるグラトニーワームに風切を放つ。


 胴体を切り裂かれてものたうち回って動くグラトニーワーム。気持ちが悪いな!


「お、お前は!?」


「俺の方を見ているな! 次が来るぞ!」


 俺の方を見て固まる冒険者たちだが今はそれどころじゃ無い。戦闘の振動のせいか、どこからともなく現れるグラトニーワーム。くそ、どれだけ育ててるんだよ!


「うわぁぁっ! お、俺を置いて行くなよ、お前ら! た、助け……ぎゃああああっ!!!」


「はっ、足手まといなんか連れて行けるかよ! 俺たちの身代わりになりやがれ!」


 怪我をした冒険者を置いて奥へと走って行く男たち。俺も置いて行きやがって。グラトニーワームにまとわりつかれた冒険者は、あっという間に骨だけに綺麗に食べられていた。あいつらに食われるとああなるのかよ……。


 食べるものがなくなって再び俺に向かって来るグラトニーワーム。ちっ……鬱陶しいんだよ!!


「烈炎流、大火山!」


 迫るグラトニーワームたちに向けてレイディアントを振り下ろす。レイディアントに触れたグラトニーワームたちは押し潰され、周りにいたやつらは吹き飛ばされて行く。


 しかも、その衝撃で肉の足下から血が溢れて来た。これは……思ったより柔らかい? そう思った瞬間揺れ始める足場。いや、成体のグラトニーワームが暴れているのだろう。


 でも、どうして思い浮かばなかったのか。いくら人を一飲み出来るほどでかいと言っても魔獣は魔獣だ。一瞬外見を見た限りだと柔らかそうな肉をしていたし。竜ほど硬く無いのであれば、切る事は容易い!


 今後の事を考えて魔天装はしない。そのかわりシュバルツも抜く。暴れて足場が安定しないが、そんな事も言っていられない。その衝撃でちっちゃい方が大量に飛んで来るのだから。


 更にその後ろからは謎の液体が迫る。グラトニーワームが触れるとジュッと音がして溶けた。体の中の液体、腹にあるものとすればアレしかないだろう。胃液アレにも触れられない。


 魔闘眼でより柔らかそうな、薄そうなところを探す。少しずつ迫るグラトニーワームと胃液。前からも来るのをなんとか避ける。これだと、先に逃げた冒険者たちは既に食われているだろうな。同情はしないが。


「あった! くらいやがれ、イモムシ野郎が! 烈炎流奥義、絶炎……」


 ようやく見つけた浅い場所に向かって、斜め下から右手に持つレイディアントを振り上げる。大きく切り裂かれた傷口から血が溢れ、体を濡らすが今はそれを気にしている余裕は無い。


 傷も外皮には完全に届いていない。足場が悪くて踏ん張れなかったせいか。まあ、それを見越しての


「二撃!!」


 シュバルツなんだがな! レイディアントで切り裂いた傷口に向けて、左手に持つシュバルツを振り下ろす。放たれた斬撃は、レイディアントで付けた傷口と同じように、より深く切り裂く。


 傷口が大きくなって溢れる血の量が増えたがまだだ。シュバルツを鞘に仕舞い、レイディアントを再び構える。既に目前まで迫ったグラトニーワームたちと胃液。これが最後の一撃だ!


「旋風流奥義……死突!!!」


 最後の突破をするために、1番得意で、1番突破力のある技を放つ。レイディアントは容易く肉を貫き、俺はそれに乗るように飛び出す。


 後ろにグラトニーワームと胃液が通り過ぎて行くのを感じながら、俺はついにグラトニーワームの体から出る事が出来た。


 辺りは再び真っ暗な空間。俺が降り立った側では成体のグラトニーワームがのたうち回っていた。


 俺が抜けた傷口からは血と胃液が溢れて、気持ちの悪い匂いが辺りを立ち込める。まあ、被ったグラトニーワームの血のせいで、ほとんど鈍ってしまっているが。


 辺りを見回すと、上は土、下も土。左も右も土……うん、地面の中だな。それはそうか。グラトニーワームは土の中を動き回る魔獣だ。


「……どうしようかね」


 今、どこにいるかもわからず、どこに行けば良いのかわからないこの状況。どうしたものか。

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