黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
199話 湧き上がる怒り
「ここが、レディウスの生まれた土地ですか?」
「ああ、ここが俺の故郷だ」
マントをかぶった女性、パトリシアから尋ねられた俺はそう答える。色々な事があったが、今では俺の大切な場所だ。
それにしてもまだ慣れないな。もう王女じゃ無いから普通に接して欲しいと言われたから、何とかそうしているけど、偶に王女と言いそうになる。
「はぁ、何だか気が重いぜ。こんな良いところを良い領主の後に任されるなんて」
そんな俺の隣でガウェインがため息を吐く。俺はそんな良い領主じゃ無いぞ? 領地の事はクリスチャンにほとんど任せていて、俺は魔獣や盗賊の討伐ばかり行っていたからな。やる仕事と言えば書類にサインするくらいだ。
「でも、ここに来る途中も思いましたが、他の領地に比べて治安が良いのは確かです。商人も通り易いので来る人が多いのでしょう」
周りを見て褒めてくれるパトリシア。そこまでは考えていなくて、領民が通り易くなればと思ってやったのだが、そのおかげで来る人が増えているのなら良い事だ。
それから、ブランカを走らせて門へと辿り着くと、俺を見た門兵が慌てて町の中へと入って行った。もう1人の門兵もどこか緊張した様子だし。何かあったのか?
気になって門兵に尋ねるが、すぐに来るのでお待ち下さい、と言うだけ。訳もわからずに待っていると、慌てた様子でグリムドが走って来た。
「アルノード伯爵、戻られましたか!」
「ああ。今戻ったよ。それより何かあったのか?」
「今すぐ屋敷に向かって下さい! ヴィクトリア様が倒れられました!」
……俺はグリムドの言葉が直ぐに頭に入ってこなかった。どういう事だ? どうしてヴィクトリアが……。気が付けば、俺は屋敷に向かって走っていた。人にぶつかるのも気にせずに真っ直ぐと。
屋敷に辿り着くと門の前で、目を赤く晴らしているヘレナとルシーが立っていた。俺は何も言わずに屋敷へと入る。2人も黙ってついて来た。
そのまま言葉を交わす事なく屋敷の中を歩く。すれ違う者皆が暗い表情を浮かべている。一体何があったんだ?
訳もわからないままヴィクトリアの部屋に向かっていると、ヴィクトリアの部屋の前には侍女たちが集まっていた。ヴィクトリアは公爵家の生まれなのに、皆に優しいからな。侍女たちからも好かれている存在だ。
そんな侍女たちを割ってヴィクトリアの部屋の扉を開ける。部屋の中にはミネルバとマリー、それにヘレネーがおり、ヴィクトリアはベッドに寝ていた。
俺が部屋に入って来た事に気がつくと、皆が一様に暗い表情を浮かべる。マリーなんて今にも泣きそうだ。
「ヘレネー。一体何があったんだ?」
どうしてヴィクトリアが倒れたのかわからなかったのでヘレネーに尋ねると、ヴィクトリアの身に何が起きたのかを話してくれた。
俺がパトリシアを迎えに行った後に、ウィリアム王子がやって来た事。
ウィリアム王子がヴィクトリアから金を借りようとして、ヴィクトリアが断った事。
その事に腹を立てたウィリアム王子が、俺の事やこれから生まれてくる予定だった子の事を罵った事。
その事に怒ったヴィクトリアが我慢出来ずにウィリアム王子を叩き、更に激怒したウィリアム王子が、今度はヴィクトリアを叩いた事。
そして、その時に机にお腹をぶつけたヴィクトリアは、お腹に激痛が走り気を失った事。
ヘレネーが部屋へと入った時には痛みにお腹を抑えているヴィクトリアの姿があったらしく、中が傷ついたのか出血もしていたらしい。
それから、医者を連れて来て見てもらって治療したそうだ。母体共に命の危険があったと言われた時は、血の気が引いたのがわかった。もしかしたらヴィクトリアは死んでいたのかもしれない。そう考えると、体の震えが止まらなかった。
今は、母子ともに安定している聞いたが……それでも、愛している彼女に死ぬ可能性が少しでもあったと考えると、恐ろしくて仕方ない。
気がつけば部屋の中は俺とヴィクトリアだけで、俺はヴィクトリアの寝顔を眺めている事しか出来なかった。
◇◇◇
「……もう夜か」
気が付けば夜になっていた。昼頃帰って来てから、ずっとヴィクトリアの側にいたので気付かなかった。
「……ヴィクトリアはどう?」
頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも部屋を出ると、部屋の外にはみんなが立っていた。事情を聞いたのだろう、パトリシアとロナ、ガウェインもだ。特にパトリシアは怒りに目が血走っていた。
「まだ、眠っているよ。すまないが、しばらく側にいてやってくれないか?」
「わかったわ。レディウスはどうするの?」
「俺は王都へ行く。みんな、止めるなよ」
俺が威圧しながら言うが、俺の威圧に押される事なく、みんなが首を横に振る。
「俺も、ついて行くぜ」
ガウェインがそう言ってくれるが、俺は断る。これは俺の問題だ。もう別れたから関わる事はないと、油断していた俺の問題だ。
ヴィクトリアと結婚した時にちゃんと言うべきだったんだ。彼女に二度と近づくなと。それを、あいつが自分から振ったから、自分からは近づいてこないだろうと、油断していた。これは俺のせいだ。
本当は離れたくないし、ヴィクトリアの側にいてやりたい。だけど、それ以上に何もなくのうのうと王都に帰っているあいつが許せない。
ヴィクトリアの事はみんなに任せて、俺は1人相棒の元へと向かう。俺の気配に気が付いたブランカは、勝手に柵を乗り越えて俺を待っていた。そして気配を察してか「早く乗れよ」って感じで首を背に向けて振る。ったく。
「ブランカ。かなり無理をさせると思うが、行けるか?」
俺の問いに「フン!」と、鼻を鳴らすブランカ。本当に頼もしい相棒だよ。俺は勢い良くブランカを蹴り、走らせる。
覚悟しろよ。
「ああ、ここが俺の故郷だ」
マントをかぶった女性、パトリシアから尋ねられた俺はそう答える。色々な事があったが、今では俺の大切な場所だ。
それにしてもまだ慣れないな。もう王女じゃ無いから普通に接して欲しいと言われたから、何とかそうしているけど、偶に王女と言いそうになる。
「はぁ、何だか気が重いぜ。こんな良いところを良い領主の後に任されるなんて」
そんな俺の隣でガウェインがため息を吐く。俺はそんな良い領主じゃ無いぞ? 領地の事はクリスチャンにほとんど任せていて、俺は魔獣や盗賊の討伐ばかり行っていたからな。やる仕事と言えば書類にサインするくらいだ。
「でも、ここに来る途中も思いましたが、他の領地に比べて治安が良いのは確かです。商人も通り易いので来る人が多いのでしょう」
周りを見て褒めてくれるパトリシア。そこまでは考えていなくて、領民が通り易くなればと思ってやったのだが、そのおかげで来る人が増えているのなら良い事だ。
それから、ブランカを走らせて門へと辿り着くと、俺を見た門兵が慌てて町の中へと入って行った。もう1人の門兵もどこか緊張した様子だし。何かあったのか?
気になって門兵に尋ねるが、すぐに来るのでお待ち下さい、と言うだけ。訳もわからずに待っていると、慌てた様子でグリムドが走って来た。
「アルノード伯爵、戻られましたか!」
「ああ。今戻ったよ。それより何かあったのか?」
「今すぐ屋敷に向かって下さい! ヴィクトリア様が倒れられました!」
……俺はグリムドの言葉が直ぐに頭に入ってこなかった。どういう事だ? どうしてヴィクトリアが……。気が付けば、俺は屋敷に向かって走っていた。人にぶつかるのも気にせずに真っ直ぐと。
屋敷に辿り着くと門の前で、目を赤く晴らしているヘレナとルシーが立っていた。俺は何も言わずに屋敷へと入る。2人も黙ってついて来た。
そのまま言葉を交わす事なく屋敷の中を歩く。すれ違う者皆が暗い表情を浮かべている。一体何があったんだ?
訳もわからないままヴィクトリアの部屋に向かっていると、ヴィクトリアの部屋の前には侍女たちが集まっていた。ヴィクトリアは公爵家の生まれなのに、皆に優しいからな。侍女たちからも好かれている存在だ。
そんな侍女たちを割ってヴィクトリアの部屋の扉を開ける。部屋の中にはミネルバとマリー、それにヘレネーがおり、ヴィクトリアはベッドに寝ていた。
俺が部屋に入って来た事に気がつくと、皆が一様に暗い表情を浮かべる。マリーなんて今にも泣きそうだ。
「ヘレネー。一体何があったんだ?」
どうしてヴィクトリアが倒れたのかわからなかったのでヘレネーに尋ねると、ヴィクトリアの身に何が起きたのかを話してくれた。
俺がパトリシアを迎えに行った後に、ウィリアム王子がやって来た事。
ウィリアム王子がヴィクトリアから金を借りようとして、ヴィクトリアが断った事。
その事に腹を立てたウィリアム王子が、俺の事やこれから生まれてくる予定だった子の事を罵った事。
その事に怒ったヴィクトリアが我慢出来ずにウィリアム王子を叩き、更に激怒したウィリアム王子が、今度はヴィクトリアを叩いた事。
そして、その時に机にお腹をぶつけたヴィクトリアは、お腹に激痛が走り気を失った事。
ヘレネーが部屋へと入った時には痛みにお腹を抑えているヴィクトリアの姿があったらしく、中が傷ついたのか出血もしていたらしい。
それから、医者を連れて来て見てもらって治療したそうだ。母体共に命の危険があったと言われた時は、血の気が引いたのがわかった。もしかしたらヴィクトリアは死んでいたのかもしれない。そう考えると、体の震えが止まらなかった。
今は、母子ともに安定している聞いたが……それでも、愛している彼女に死ぬ可能性が少しでもあったと考えると、恐ろしくて仕方ない。
気がつけば部屋の中は俺とヴィクトリアだけで、俺はヴィクトリアの寝顔を眺めている事しか出来なかった。
◇◇◇
「……もう夜か」
気が付けば夜になっていた。昼頃帰って来てから、ずっとヴィクトリアの側にいたので気付かなかった。
「……ヴィクトリアはどう?」
頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも部屋を出ると、部屋の外にはみんなが立っていた。事情を聞いたのだろう、パトリシアとロナ、ガウェインもだ。特にパトリシアは怒りに目が血走っていた。
「まだ、眠っているよ。すまないが、しばらく側にいてやってくれないか?」
「わかったわ。レディウスはどうするの?」
「俺は王都へ行く。みんな、止めるなよ」
俺が威圧しながら言うが、俺の威圧に押される事なく、みんなが首を横に振る。
「俺も、ついて行くぜ」
ガウェインがそう言ってくれるが、俺は断る。これは俺の問題だ。もう別れたから関わる事はないと、油断していた俺の問題だ。
ヴィクトリアと結婚した時にちゃんと言うべきだったんだ。彼女に二度と近づくなと。それを、あいつが自分から振ったから、自分からは近づいてこないだろうと、油断していた。これは俺のせいだ。
本当は離れたくないし、ヴィクトリアの側にいてやりたい。だけど、それ以上に何もなくのうのうと王都に帰っているあいつが許せない。
ヴィクトリアの事はみんなに任せて、俺は1人相棒の元へと向かう。俺の気配に気が付いたブランカは、勝手に柵を乗り越えて俺を待っていた。そして気配を察してか「早く乗れよ」って感じで首を背に向けて振る。ったく。
「ブランカ。かなり無理をさせると思うが、行けるか?」
俺の問いに「フン!」と、鼻を鳴らすブランカ。本当に頼もしい相棒だよ。俺は勢い良くブランカを蹴り、走らせる。
覚悟しろよ。
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コメント
リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!
大罪系スキルとかこねぇのかよ