黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

190話 アルバスト防衛戦(19)

 ふぅ、怖かったぁ〜。あんな作戦を考えるなんて、パトリシア王女には驚かされる。


 どうしてこんな事になったかと言うと、直ぐにでも砦に入りたかった俺たちだが、連合軍が少し離れたところとはいえ砦の入り口のところで待機していたのだ。


 あの前を何もせず通るのは自殺行為だったため考えられたのが、上から入ろうというものだった。それを考えたのがパトリシア王女だ。


 何でも、昔魔法で空を飛ぶ魔法師を見た事があって思い出したのだそうだ。それを見たからといって実践するという考えにはならないと思うのだが。


 だが、そうする事に決まってからは行動が早かった。ファレマともう1人の鳥型の獣人にお願いして、俺とパトリシア王女が先行して砦へと入る事になり、残りのみんなは予定通り地面を掘って来る事になった。


 空から放り出された時はどうしようかと思ったが、オスティーン男爵が殺されそうになっている姿を見て、敵に集中できたおかげで怖さが薄れたが、今思うと本当にとんでもない事をした。もう絶対に二度としないからな。


 ……良し、落ち着いて来た。俺はレイディアントを構えて敵を見る。全身鎧のような翡翠色の鱗に覆われた獣人。頭から2本の角に大きな翼、鋭い尻尾が生えている。手には人の身の丈程ある青龍刀を握り俺たちを睨んでくる人物。


 チラッと砦の上から見ただけだが、確かにゼファー将軍の面影がある。これはヤバイな。まるで師匠と対峙しているような感覚だ。それ程の実力者って事なんだろう。


「……どこからやって来たのだ? いや、それよりも、お主はパトリシア王女か?」


「はい、あなた方のおかげでこのような姿になりましたが、パトリシア・アルバストですよ、ゼファー将軍」


「ふむ、ではお前がパトリシア王女を助けたのか。先ほどの攻撃を受けなければ、にわかに信じられんかったが……これは面白い。時代を感じるな」


 俺の方を見てニヤリと笑うゼファー将軍。そして一気に増した圧が俺たちへと降り注ぐ。やっぱり凄いな。名を轟かせる程の武将はこんな凄いのか。


 だが、負けていられない。この大きな壁を乗り越えなければ俺たちは生きられないのだから。


「纏・天」


 俺は体を強化し、ゼファー将軍だけを見て走り出す。しかし、ゼファー将軍に近づききる前に俺は足を止めた。同時に目の前を通り抜ける青龍刀の刃。体を逸らして通り過ぎる刃を眺める。


 ……なんて速さだよ。人の身の丈程ある青龍刀を片腕で軽々と振ってくるなんて。まるで剣を振っているかのような軽さだぞ。


 ゼファー将軍は俺が避けたのが嬉しいのか笑みをより深く浮かべ、そのまま右手で持つ青龍刀で突きを放ってきた。


 レイディアントで横に逸らすが、手に響く衝撃。その衝撃だけで吹き飛ばされそうになるのを耐え、腰に差してあるシュバルツを逆手で抜き風切を放つ。


 勢い良く放たれた刃はゼファー将軍へと迫るが、ゼファー将軍は左手を振り風切を鱗で弾きやがった。ゼファー将軍はそのまま左腕を振りかざし、殴りかかって来る。


 拳に魔力が集まっているのに気が付いた俺は、直ぐにゼファー将軍から離れる。ゼファー将軍は俺が離れた事を気にすることもなく拳を振り下ろした。そのまま地面へと叩きつけられる拳。地面を殴った瞬間、大きく揺れる地面、衝撃が辺りへと迸り地割れを起こす。


 なんて一撃だよ。あれを受け止めていたらどうなっていたかわからないな。背筋がゾクっとしたぞ。その元凶のゼファー将軍はというと、なぜか俺を見て嬉しそうな表情を浮かべていた。


「烈炎流を王級、旋風流も王級並だろう。明水流はまだ荒削りなところがあるがそれでも実戦で使えるレベル。くくっ、まさかこれ程の逸材がいたとは。しかも、黒髪に。もしかしたら世界は間違っているのかもしれぬな。お前を見ていると魔剣王を思い出すわ」


「……師匠を、ミストレア様を知っているのか?」


「ほう、奴の弟子だったか。それならば納得できる。奴とはただの腐れ縁だ。何度か刃を交えただけ。それも、奴が子供を産む前だから何十年も前の話だ。それ以来は会っていないがな……それではより楽しませてくれよ?」


 ゼファー将軍がそう言うと更に増す圧力。それと同時にゼファー将軍の翼が開き魔力が集まっていく。


「行くぞ!」


 翼は大きく羽ばたかせ、かなりの速度で向かって来たゼファー将軍。気が付けばゼファー将軍の体の周りには、前のパトリシア王女のように風を纏わせていた。だが、パトリシア王女の時より荒く鋭い風。こんなのに触れれば細切れにされてしまう。


「ふん!」


 向かって来たゼファー将軍は、風を纏わせた青龍刀を振り下ろして来た。俺はレイディアントとシュバルツを交差させて受け止める。腕に衝撃が走り、風が体を切り裂くが、青龍刀を弾き返し、レイディアントで袈裟切りで切りかかる。


 ガキィンと左腕で弾かれ、青龍刀を下から振り上げて来たのをシュバルツの刀身で滑らすようにして逸らす。ビリビリと腕が衝撃で痺れるが、上に打ち上げる。そして、右手にレイディアントを限界まで引き絞り……放つ!


「旋風流奥義、死突!」


「むっ! 甘いわ!」


 ゼファー将軍の胸元目掛けて放った突きを、ゼファー将軍は先ほど俺が青龍刀を上へと打ち上げたように、竜の尻尾を下からぶつけてくる。


 そして、回転して青龍刀を横薙ぎで振ってきた。俺は両剣を振り上げ青龍刀に向かって振り下ろす。


「烈炎流、火花!」


 ぶつかり合う俺の剣とゼファー将軍の青龍刀。せめぎ合ったのは一瞬、俺は押し負けて吹き飛ばされてしまった。くそ、やっぱり力勝負じゃ敵わない。


 体勢を立て直してゼファー将軍を見ると、既に青龍刀を右上に振りかざして迫ってきた。だが、ゼファー将軍の左側、俺の右側から火の玉が飛んで来たため、ゼファー将軍は動きを止め青龍刀で火の玉を切り裂いた。


「もう、1人で戦わないで下さい、アルノード子爵。私にも手伝わせてくださいよ」


 そして、俺の隣に少し怒ったような様子のパトリシア王女が……王女には出来ればオスティーン男爵たちと共に下がっていて欲しいのだが、そうもいかないよな。


 師匠ほどの強さを持つゼファー将軍。俺1人では荷が重い。負ける気は更々ないが、こんな時に意固地になっても仕方ない。命がかかっているのだから。


「わかりました。俺を助けてください、パトリシア王女」


「もちろんです! ふふっ、初めての共同作業ですね!」


 ……その言い方はどうかと思うが。だけど、ヘレネーたちとは違った安心感がある。俺はその安心感を感じながら構える。まずは、あの硬い鱗をどう突破するかだな。

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コメント

  • リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!

    2人から3人に………?

    2
  • ペンギン

    ワンチャン、パトリシア王女ある...?w

    3
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