黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

187話 アルバスト防衛戦(16)

「……ここは」


 ドタドタと走る音。誰かが指示を出す声。カンカンと何かを叩く音。様々な音や、目を閉じていても眩しく感じるほどに輝く光。それに、肌を撫でるような気持ちの良い柔らかな感触に俺は目を覚ました。 


 目を開けるとまず目に入ったのが、透き通るような青空と燦々と輝く太陽だった。天井は無く、どうやら外でそのまま寝ていたようだ。俺は、疲労で重たくなった体を起こす。


 体の傷は治っていた。俺が気を失っている間に誰かが治療してくれたようだ。突き刺されて出来た風穴も塞がっている。


 辺りを見渡すと、忙しそうに走り回る兵士たち……ん? 見間違いだろうか? 俺は自分の目を擦る。そして再び兵士たちを見る……うん、夢じゃ無い。なんでそんな事になっているんだ?


 俺の視線の先にはアルバスト兵士たちと獣人たちが一緒に作業をしていた。俺が気絶している間に何があったんだ? そんな光景を眺めていたら


「目が覚めましたか、アルノード子爵」


 と、隣から優しげな声が聞こえて来た。隣を見るとそこには


「パトリシア王女」


 俺に向かって微笑むパトリシア王女が座っていた。ただ、以前出会った時とは違う。頭には狐耳が生え、金髪だった髪は、茶色混じりの金髪に変わっており、そして、お尻のところには尻尾が生えていた。5尾まで生えていた尻尾が1尾まで減ってはいたが。


 俺は直様パトリシア王女に頭を下げる。俺が不甲斐ないばかりに、パトリシア王女は元の姿に戻る事が出来なかったのだ。確実にこの事は、パトリシア王女にとって大きな問題になるはずだ。それを俺は


「……どうして頭を下げるのです、アルノード子爵?」


「申し訳ございません。私の力が足りないばかりに、パトリシア王女……」


 俺がパトリシア王女の姿を元に戻せなかったと言おうとしたら、両頬をパトリシア王女に押さえられた。今の俺の顔は変な顔をしているだろう。パトリシア王女は、そんな俺の顔……俺の目を真剣な表情で見ながら話し始める。


「そんな事、言わないでください。私はあなたのおかげで命を救われました。それに、大切な家族である兵士たちを自らの手で殺す事もありませんでした……そのせいであなたを傷つけてしまいましたが」


「私の事は構いません。戦いではあり得る事ですから。パトリシア王女はそのお体で何か異変などはありませんか?」


「ええ、大丈夫ですよ。今ではこの耳も……ほら」


 パトリシア王女は嬉しそうに耳をピクピクと震わせる。綺麗なパトリシア王女がそんな可愛い仕草をするもんだから、思わず頭を撫でそうになったけど、自重する。流石に王女の頭を撫でるのは不味い。


「そういえば、お……私はどのくらい眠っていたのでしょうか?」


「ふふ、俺で構いませんよ。ヴィクトリアと話すような感じで」


 流石にそれは無理なので一人称だけ変える事にした。それから、俺が眠っていた間の事を尋ねるが、パトリシア王女も4時間ほど前に目が覚めたようだ。パトリシア王女と戦ってから2日は経っているらしい。思ったより眠ってしまったんだな。


「アルノード子爵と戦っている時は殆ど意識も無く、自分の体が本能のおもむくまま勝手に動くような感じでしたが、あなたの声は聞こえてきました。私を必死に助けようとしてくれるあなたの熱い気持ちが……嬉しかったです」


 そう言い太陽にも負けないくらい眩しい笑顔を見せてくれるパトリシア王女。俺も思わず笑みを浮かべてしまう。だけど、獣人化の影響はどうにかしないといけない問題だ。必ずパトリシア王女を不幸にさせる。何か考えないと。セプテンバーム公爵にも相談してみよう。


「パトリシア王女! アルノード子爵!」


 そんな風に話し合っていると、獣人たちや兵士たちと共にローデン隊長がやって来た。みんなボロボロだ。人数も半数近くになってしまったようだ。


「ローデン隊長、無事で良かった。生き残った人数は?」


「はい、生き残ったのは93人。その内怪我で戦えないのか20人程です」


 1000人近くに獣人もいた敵部隊と戦った割には生き残った方だ。亡くなった者たちのおかけだ。ただ、俺の力不足で死なせてしまったな。出来る限り手厚く弔ってやらないとな。


「わかった。それで俺が今1番聞きたい事があるのだけど……わかるか?」


 俺の問いかけにローデン隊長たちは互いに顔を見合わせる……何でだよ。俺が気を失う前と後で全く違う事が起きているだろう。


「……どうして、アルバスト兵たちと獣人たちが仲良く作業をしているんだ?」


 俺の疑問にようやく納得がいったみんな。それから話された内容は、まあ、簡単な話敵の敵は味方って話だった。


 俺たち、ブリタリス・ゲルテリウス連合軍と戦っているが、ゲルテリウス軍である獣人たちは、今回ブリタリス軍に裏切られた。あいつら、俺たち事攻撃してきたからな。


 獣人たちの中から現れた人物。フクロウ型の獣人だった。彼の話では、ブリタリス軍の隊長格を捕らえて話を聞いたらしい。その内容が、獣人部隊は捨てても良いという内容だった。


「それが、両軍から許可が下りたと言っていたホー。それを聞いたらもう一緒にいられないホー」


 確かに、またいつ攻撃されるかわかったもんじゃ無いからな。その結果、獣人部隊はブリタリス軍を見限って逆に攻めたらしい。獣人は1人でもかなり強い。それが全員で100人近くだ。1千人近くいるブリタリス軍も耐えられなかったようだ。


「それでこれからはどうするんだ? そんな事をすればもう変えられないだろ?」


「……何とか生きるホー。多分、魔獣として討伐される事になるけど、最後まで戦って生きるホー。私たちはみんな訳ありだから」


 そう言うフクロウ型の獣人。ふむ、これは良いかも。

コメント

  • 白華

    はいww義絶落ちワロタ

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