黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

167話 嬉しい報告

「グウ!」


「うおっ! ロポ、お前なんか速くなったな」


「ググウ!」


 屋敷の庭。広く鍛錬が出来る場所で、俺とロポは見合っている。ロポの大きさは現在3メートルほどの巨体になり、俺に跳んでくる。


 俺がその場から避けると、直様方向転換して、再び俺の方へと跳んでくる。こいつ、普段は構ってあげられないから、遊べる時はかなり発散してくるな。


 そんな光景を、楽しそうに見てくるヘレネーとヴィクトリア。ロナは混ざりたいのか、そわそわとしている。混ざっても良いんだぜ?


 それから1時間ほどロポと楽しく追いかけっこをする。最後は大人しく捕まってやった。3メートルのロポが跳んでのしかかって来た時は、軽く死にかけたけど。


「全く、子供みたいにはしゃいじゃって。でも、あれを見ていると修行の時を思い出すわ」


「修行の時ですか。レディウスの昔の話、興味があります!」


「ふふ、聞きたい? 昔、お婆様に言われて、山の中をレディウスが逃げてロポが追いかけるっていうのをしていたのよ。足腰を鍛えるために。昔のレディウスって今みたいに強くなくて、よくロポに捕まっては体の半分ぐらいまでパクリと咥えられていたわね」


「えっ、あのサイズにですか?」


「あれより少し小さいぐらいかしらね」


「うわぁ〜」


 ……そんな事もあったな〜。あの時はもっと大きく見えたロポに追いかけ回されては、咥えられては、ヘレネーの前に吐き出されてを何回もしたからな。その後にヘレネーに水をぶっかけられて。本当に懐かしいな。


「グウグウグウ!」


「ちょっ、おまっ、舐めすぎだ!」


 大人しく寝転んでいると、巨大なままのロポがべろんべろんと顔を舐めて来る。よだれでベッタベタじゃねえか!


「うわっ、レディウス様、顔が! 直ぐに拭くものを!」


 ロナは、そんな俺を見て屋敷に走って行ってしまい、ヘレネーとヴィクトリアは笑っている。まあ、こんなゆったりと過ごせる日々も良いものだ。


 俺たちが王都に来て今日で6日目になる。明日には国王陛下の誕生会があり、今日まではゆっくりとできる。


 2日目に、ここに来ている義父親であるセプテンバーム公爵に挨拶に行き、みんなで夕食も頂いてしまった。


 セプテンバーム夫人に、夜の事などを根掘り葉掘り聞かれていたヴィクトリアは、顔を真っ赤にしながら、暴露する事件が起きたりもしたが、それ以外は概ね楽しく過ごせたと思う。


 それから、俺がいない間にとても良い知らせがあった。それが


「さてと、レディウスたちが走り回っているのを見たら、私も体を動かしたくなっちゃった。ロナ、少し相手を……」


 拭ける布を持って戻って来たロナに、そんな事を言い始めて立ち上がろうとするヘレネーを、俺はロポの下からするりと抜けて、ヘレネーの前に立ち、止める。


「ダメだぞ、ヘレネー。安定するまで激しい運動は」


「大丈夫よ、少し体を動かすだけだから、ね?」


 ヘレネーが手を合わせて、可愛らしく首をかしげるので、思わず頷いてしまいそうになったが、心を鬼にして首を振る。


 ヘレネーは、それを見てぶーぶーと頰を膨らませるが、絶対に頷かない。そんな俺とヘレネーを見ているヴィクトリアは、苦笑いをしている。苦笑いをしながらも自分のお腹を優しく撫でている。


 俺がヘレネーを止める理由。それは、ヘレネーのお腹の中には俺の子供がいるからだ。しかもヘレネーだけでなく、ヴィクトリアにも宿っているそうなのだ。


 久し振りヘレネーとヴィクトリアに会って、その事を聞かされた時には、一瞬何を言われたのか全く分からなかった。


 だって、出会って早々「おめでとう!」て2人に言われて、そのまま抱き着かれたのだから。一瞬、無事国王陛下へと渡す物を手に入ったからなのかと思ったが、その事でもここまで喜ばない。


 そう思った俺は、2人に話を聞くと、2人とも、ある日女性の周期が来なくなったので、医者にいったところ、2人ともおめでただったらしい。


 子供が出来たかどうかは、魔力の流れを調べたらわかるらしい。なんでも、今はほんのかすかだけど、母親の魔力に混じって、本当に小さな魔力も流れているらしい。


 俺たち素人だと見分けがつかないが、慣れている人はわかるとか。それで、2人がおめでただというのがわかったそうだ。


 その話を聞いた俺は、色々と考えたけど、やっぱり俺の大切な家族が増える方が嬉しかったので、2人揃って抱きしめてしまった。


 あまりの嬉しさに涙を流したほどだ。嬉し涙を流す俺を見て、ヘレネーとヴィクトリアも涙を流して、それを見たヘレナやマリー、ロナが涙を流すという、変わった連鎖も起きたりしたが、その日の夜は豪華に祝った。


 セプテンバーム公爵に伝えたら、手で顔を押さえながら上を向いていたので、結婚式の時と同じように涙を流していたのだろう。


 今はまだよくはわからないが、その内子供の魔力もわかるらしいし、見た目でもわかるようになっていくだろう。毎日、2人の変わっていく姿を見るのが新しい俺の楽しみだ。


 俺も2人が無事元気に子供を産めるように、色々と手助けをしたいものだ。


 ……次の日にこの決意が無駄になるのは流石に予想出来なかったが。

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