黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
166話 幕開け
ブリタリス王国内アルバスト王国領、グランテ砦
「そういえば、パトリシア姫は帰らなくて良かったのですか?」
いつも通りの書類作業の中、副官であるローデンが突然そんな事を言って来ました。彼が言っているのは、王都で行われるお父様の誕生日の事でしょう。
「良いのですよ。私が帰らなくても、お父様を祝ってくれる人は沢山います。それよりも、ようやく戦争前まで回復したこの土地を更に良くしなければなりませんからね」
私の真面目な話に、ローデンは苦笑いをします。むぅ、なんですかその顔は。殴り飛ばしてやりましょうか?
「少しは力を抜いてください、姫。姫が率先して動いてくださるので、我々兵士たちも、姫のために頑張れるのですが、姫がお休みにならなければ、下の者たちも」
「うっ、それはすみませんです。そうですね、私が休まないと皆休み辛いでしょうね」
「このような発言、お許し下さい」
「構いません、兵士たちの事を思って言ってくださった発言です。気にしません」
私は取り敢えず筆を置きます。そういえば、私的でここを離れた事なんて、前のヴィクトリアの結婚式以降はありませんね。領内の視察などで離れた事はありますが。
「うーん、本でも読みますかね〜」
私がぼそりと呟くと、ローデンはこけそうになる。なぜ?
「姫、ここはランバルク様を誘ってみては?」
私はローデンの発言に顔を顰めます。ローデンも予想はついていたのか、やれやれと首を横に振ります。私は、将来はリストニック兄弟のどちらかと結婚しなければならないでしょう。どちらかと言っても、兄である方になるのは殆ど確定ですが。
心にない結婚をしないといけないのは、王族としては普通にある事なので我慢出来ます。ただ、結婚する前から縛られるのは嫌ですね。誰が好き好んであんなナルシストを……おっと、心の中とはいえ言い過ぎましたね。
それを考えると、ヴィクトリアの嬉しそうな顔を思い出します。馬鹿弟では、あんな笑顔をさせる事は出来なかったでしょう。
時折、王宮にいる侍女からヴィクトリアの事を聞いていましたが、毎日辛そうと手紙にありましたし。羨ましいですね。女の憧れです。
「まあ、夢物語ですが」
「姫?」
少し声に出ていたようです。聞こえたローデンが首を傾げて私を見て来ます。
「何でもありませんよ。それよりも、兵士たちには適度に休ませてあげて下さい。ただでさえ、故郷を離れているのです。私の事は気にせず、というのは無理でしょうから、私も適度に休みますので」
「わかりました。そのようにいたします」
ローデンも納得したので、再び書類を見ようと顔を下げた時、廊下が何やら騒がしいです。ドタバタドタバタと走る音が響きます。そしてその音は、私たちがいる部屋の前で止まりました。
そして扉を叩く音。ローデンに目配せすると、ローデンは頷いて扉を開けて確認します。2、3話をしてから、部屋へと入れて来ました。入って来たのは哨戒をしていた兵士のようです。まさか
「お伝えします! 現在、このグランテ砦に、ブリタリス軍が進行中! 数は3万程になります!」
……思ったより早かったですね。攻めて来るとしたら後2.3年は後になると考えていましたが。しかし、3万ならまだ予想の範囲内です。
この砦には兵士が3千、周辺にいる兵士を集めて5千、旧国境砦には1万の兵士がいます。更に国から援軍が来れば、抑えられるでしょう。
そう思っていたのですが、兵士の言葉には続きがありました。
「更に、ゲルテリウス王国軍がブリタリス王国内を通過して進軍中、数は2万程になります!」
「なにっ!?」
哨戒兵の言葉にローデンが驚きの声をあげます。これには私も声が出せませんでした。まさか北にある国ゲルテリウス王国が、ブリタリスと手を組むとは。ゲルテリウス王国は、アルバストの北で睨み合っているというのをお姉様から聞いていたのですが。
「ローデン、直ぐに伝令を送りなさい。旧砦、リストニック家、王都に各3人ずつ。あなた、2軍はどのぐらいでここに辿り着きますか?」
「はっ、あの速度ですと、ブリタリス軍が後3日程、ゲルテリウス軍が1日遅れての4日程になると思います」
……ここまで気が付かなかったのは、私の不手際ですね。ブリタリスの動きがもう少し見えていたら……今後悔しても遅いですね。やれる事をやりましょう。
砦までは無理しても2日で、リストニック家までは4日、王都には1週間といったところでしょう。最悪、この砦を捨てる事も考えなければいけませんね。
向こうの狙いは、前回の戦争で割譲されたこの土地を取り返す事でしょう。ゲルテリウスとどのような話し合いになっているかわかりませんが、そのまま王国へ攻めて来る事も考えられます。
その時は、何としてでも時間を稼がなければなりません。友好国のトルネス王国側へ兵を殆ど割かないでいい分、王都には兵士がいます。
その兵士を集める時間が必要になりますから。最低でも1ヶ月は耐えなければなりません。
「ローデン、兵士たちに申し訳ないのですが、休みは無しと伝えて下さい。戦時体制に移行します」
「はっ!」
覚悟を決めるしかありませんね。
「そういえば、パトリシア姫は帰らなくて良かったのですか?」
いつも通りの書類作業の中、副官であるローデンが突然そんな事を言って来ました。彼が言っているのは、王都で行われるお父様の誕生日の事でしょう。
「良いのですよ。私が帰らなくても、お父様を祝ってくれる人は沢山います。それよりも、ようやく戦争前まで回復したこの土地を更に良くしなければなりませんからね」
私の真面目な話に、ローデンは苦笑いをします。むぅ、なんですかその顔は。殴り飛ばしてやりましょうか?
「少しは力を抜いてください、姫。姫が率先して動いてくださるので、我々兵士たちも、姫のために頑張れるのですが、姫がお休みにならなければ、下の者たちも」
「うっ、それはすみませんです。そうですね、私が休まないと皆休み辛いでしょうね」
「このような発言、お許し下さい」
「構いません、兵士たちの事を思って言ってくださった発言です。気にしません」
私は取り敢えず筆を置きます。そういえば、私的でここを離れた事なんて、前のヴィクトリアの結婚式以降はありませんね。領内の視察などで離れた事はありますが。
「うーん、本でも読みますかね〜」
私がぼそりと呟くと、ローデンはこけそうになる。なぜ?
「姫、ここはランバルク様を誘ってみては?」
私はローデンの発言に顔を顰めます。ローデンも予想はついていたのか、やれやれと首を横に振ります。私は、将来はリストニック兄弟のどちらかと結婚しなければならないでしょう。どちらかと言っても、兄である方になるのは殆ど確定ですが。
心にない結婚をしないといけないのは、王族としては普通にある事なので我慢出来ます。ただ、結婚する前から縛られるのは嫌ですね。誰が好き好んであんなナルシストを……おっと、心の中とはいえ言い過ぎましたね。
それを考えると、ヴィクトリアの嬉しそうな顔を思い出します。馬鹿弟では、あんな笑顔をさせる事は出来なかったでしょう。
時折、王宮にいる侍女からヴィクトリアの事を聞いていましたが、毎日辛そうと手紙にありましたし。羨ましいですね。女の憧れです。
「まあ、夢物語ですが」
「姫?」
少し声に出ていたようです。聞こえたローデンが首を傾げて私を見て来ます。
「何でもありませんよ。それよりも、兵士たちには適度に休ませてあげて下さい。ただでさえ、故郷を離れているのです。私の事は気にせず、というのは無理でしょうから、私も適度に休みますので」
「わかりました。そのようにいたします」
ローデンも納得したので、再び書類を見ようと顔を下げた時、廊下が何やら騒がしいです。ドタバタドタバタと走る音が響きます。そしてその音は、私たちがいる部屋の前で止まりました。
そして扉を叩く音。ローデンに目配せすると、ローデンは頷いて扉を開けて確認します。2、3話をしてから、部屋へと入れて来ました。入って来たのは哨戒をしていた兵士のようです。まさか
「お伝えします! 現在、このグランテ砦に、ブリタリス軍が進行中! 数は3万程になります!」
……思ったより早かったですね。攻めて来るとしたら後2.3年は後になると考えていましたが。しかし、3万ならまだ予想の範囲内です。
この砦には兵士が3千、周辺にいる兵士を集めて5千、旧国境砦には1万の兵士がいます。更に国から援軍が来れば、抑えられるでしょう。
そう思っていたのですが、兵士の言葉には続きがありました。
「更に、ゲルテリウス王国軍がブリタリス王国内を通過して進軍中、数は2万程になります!」
「なにっ!?」
哨戒兵の言葉にローデンが驚きの声をあげます。これには私も声が出せませんでした。まさか北にある国ゲルテリウス王国が、ブリタリスと手を組むとは。ゲルテリウス王国は、アルバストの北で睨み合っているというのをお姉様から聞いていたのですが。
「ローデン、直ぐに伝令を送りなさい。旧砦、リストニック家、王都に各3人ずつ。あなた、2軍はどのぐらいでここに辿り着きますか?」
「はっ、あの速度ですと、ブリタリス軍が後3日程、ゲルテリウス軍が1日遅れての4日程になると思います」
……ここまで気が付かなかったのは、私の不手際ですね。ブリタリスの動きがもう少し見えていたら……今後悔しても遅いですね。やれる事をやりましょう。
砦までは無理しても2日で、リストニック家までは4日、王都には1週間といったところでしょう。最悪、この砦を捨てる事も考えなければいけませんね。
向こうの狙いは、前回の戦争で割譲されたこの土地を取り返す事でしょう。ゲルテリウスとどのような話し合いになっているかわかりませんが、そのまま王国へ攻めて来る事も考えられます。
その時は、何としてでも時間を稼がなければなりません。友好国のトルネス王国側へ兵を殆ど割かないでいい分、王都には兵士がいます。
その兵士を集める時間が必要になりますから。最低でも1ヶ月は耐えなければなりません。
「ローデン、兵士たちに申し訳ないのですが、休みは無しと伝えて下さい。戦時体制に移行します」
「はっ!」
覚悟を決めるしかありませんね。
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