黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

150話 師匠と

 部屋でロポを撫でながら優雅に紅茶を飲んでいる師匠は、俺たちが入って来たのに気が付いてこちらを見る。そして、俺を下から上へとじっくりと見てくる。


「ふむ、訓練は怠ってないようだね、レディウス。戦争で一皮剥けたかい?」


「それはどうでしょうかね。俺も頑張っているつもりはあるのですが……お久しぶりです師匠」


「ああ、久しぶりだ、レディウス」


 師匠はそう言うと、椅子から立ち上がり俺を抱き締めてくれた。


「ふふ、たった2年程だというのに、こんなに懐かしく思うなんてねぇ。逞しくなったじゃ無いかい」


「ありがとうございます、師匠」


 俺から離れた師匠は、微笑みながら頭を撫でてくる。恥ずかしいじゃ無いですか。それから師匠はみんなに挨拶をして行く。ヘレネーには俺と同じように抱き付いていたけど。


「あんたが、ヴィクトリアかい? 確かにセリアの面影があるねぇ」


「お、お母様を知っているのですか!?」


「ああ、私の娘とも知り合いだったからねぇ。ふふ、レディウスとヘレネーの事、よろしく頼むよ。2人とも家族には飢えているからね」


 師匠の言葉に神妙に頷くヴィクトリア。そこまで難しく考えなくていいんだぞ? みんなで幸せに楽しい家庭を作ろうって事だから。


 それから、一人一人挨拶をして行く師匠。師匠の事は武術を嗜んでいない人でも知っているぐらい有名だ。隣国のミネルバですら知っているのだから。ミネルバは感動で涙まで流しているし。


 夜には師匠の歓迎パーティーを行い、みんなで飲んで騒いでした。師匠は俺の話を聞きたいと言って来たので、簡単に話したり、学園に入ってからは、ヴィクトリアも知っているので、ヴィクトリアに話してもらったり。


 時折、内容に惚気が入るのはご愛嬌。顔を赤く染めながら話すのには、正直に言うと恥ずかしかったが、それ以上に可愛いかった。


 その日は、みんながホロ酔いぐらいでお開きとなった。どうせ数日後の結婚式には、死ぬほど飲まないといけないのだから。


 そして、次の日の朝。俺と師匠は少し離れて対峙している。周りにはヘレネーにヴィクトリア。ミネルバ、ヘレナ、フランたちに、グリムドたち兵士もいる。


「さて、この2年間でどれ程成長したか見せてもらおうかね?」


 師匠はそう言い腰に差してある剣を抜く。それだけで、あたりの空気が一変した。チラッと見ていた侍女は、師匠の放つ威圧感で、腰を抜かして尻餅をついてしまった。


 ……俺も額から冷や汗が流れる。久し振りに師匠の威圧を身に受けたけど、体の芯まで冷やされるほどの威圧感だ。戦争でもこれ程の死の予感は感じなかった。


 だけど、まだ、始まってもいない。それなのにビビるわけにはいかないよな。俺も腰に差してある2本の剣を抜く。右にレイディアント、左にシュバルツを。


「へぇ〜、レディウス、いつの間に双剣になったんだい?」


「これは、こっちに来てからですね。自分の実力を見て、これの方が発揮しやすいと思ったんで」


 俺の言葉に嬉しそうに頷く師匠。だけど、次の瞬間には、戦士の顔をしていた。俺も気を引き締める。審判はヘレネーにしてもらう。


 万が一何かあった時、俺たちを止められるのはヘレネーぐらいだろうから。ミネルバにも槍を持って待機してもらっているが。


「それじゃあ、レディウス、お婆様、始めるわよ……始め!」


 ヘレネーの開始の合図と同時に俺は纏・真を発動。師匠相手に出し惜しみなんてしていられない。左手にあるシュバルツを限界まで引き絞り、一気に放つ。


「旋風流奥義、死突!」


 俺は師匠に向かって神速の突きを放つ。師匠は普段と違う獰猛な笑みを浮かべながら、俺の突きを綺麗に逸らした。明水流か。


「いきなりそれを使うとは。驚いたけど、全ての技を知っている私に、隙ま作らずに使うのは、愚策だよ!」


 師匠はそう言いながら、俺の突きを逸らした形のまま、下から切り上げて来た。だけど、そう来るのは俺も想定済みだ。


 師匠に死突が避けられるのも、そこを狙って来るのも。俺でもこれ程大雑把な攻撃をされたら同じ事を思うし。


 俺は師匠の切り上げを右手にあるレイディアントで弾く。そのまま左で切りかかるが、当然簡単に防がれる。


 俺の動きも1年前よりは速くなっているとは思うが、師匠には問題なく防がれる。まだまだ差はありそうだ。だけど、そんな事で引いてはいられない。


 俺はさらに攻め立てる。俺の攻撃は師匠には見切られているが、そんな事は関係ない。俺の今の実力を全て振り絞るだけだ。


「纏・天!」


 俺は体中に今まで以上の魔力を張り巡らせる。それと同時に右手のレイディアントは、光属性特有の白色に輝き、左手のシュバルツは、闇属性特有の黒色に輝く。


 さすがにこれは予想外だったのか、師匠の顔色が変わる。それと同時に膨れ上がる師匠の魔力。そして魔法を発動する。


「それを生身で受けるのはきついね。私も1つ見せてあげるよ。炎帝!」


 師匠が魔法を発動した瞬間、師匠の纏に沿うように炎が纏われる。なんて熱量だ。こんなもの初めて見たぞ。


「……レディウスには出来ないが、これが纏の最終だ。纏に合わせて魔法を発動する事で、その力を増幅させる事が出来る。纏に使っている魔力を燃料として。私はこれを魔天装と呼んでいる」


 これが纏の最終か。黒髪で属性を持たない俺では、辿り着けない領域。だけど、今更そんな事で落ち込んだりはしない。俺の持てる力で戦うまでだ!


「行きます、師匠!」


「ああ、来な!」


 師匠は抜刀の構えを取る。あれは半年前にヘレネーも使った絶炎か。あの時でヘレネーに腕を飛ばされたのに、それより上の師匠の絶炎をくらったら、やばいかも。


 だけど、それぐらいじゃないと俺の技も試せないからな。この半年間でようやくモノにした技の1つ。烈炎流の力と旋風流の速さを合わせ、明水流の動きで調節する。


「烈炎流奥義、絶炎!」


「黒閃!」


 俺の2剣が師匠の抜刀された剣とぶつかる。その瞬間、魔力が爆発。俺の視界が光で埋め尽くされた。

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