黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

143話 出発

「……」


「……」


 …….な、なんだこの空気は。重たすぎる。


「あー、なんた。なんか俺用済みの様だから、外に出てるわ。じゃあ」


「ま、待ちやがれ、ガウェイン! どこに行くつもりだ!」


「どこに行くって、俺関係ねえじゃねえか! こんな修羅場に呼ぶんじゃねえよ!」


 そう言って俺の手を振り払って家から出て行ってしまった。くそ、明日出会ったら許さないぞ! 俺が憎々しくガウェインの出て行った扉を見ていると


「こら、レディウス! 大切な話をしている時にどこ見ているのよ! 関係ない男なんか放っておいて、ちゃんと参加しなさい!」


「そうですよ、レディウス! 私たち、そ、その、ふ、夫婦に関わる話なのですから!」


 俺の右腕をヘレネー、左腕をヴィクトリアにガシッと掴まれる。現在家には俺とヘレネー、ヴィクトリアしかいない。ロナはフランさんとヘレナ、ミネルバ、そしてマリーさん、ルシーさんと買い物に行っている。


 なぜこんな事になっているかというと、ヘレネーが早々にヴィクトリアに会いたいと言ったからだ。だから、昨日の内に行く事を伝えたのだが、ヴィクトリアがこちらに来ると譲らなかったので、来てもらったのだ。


 因みに、ヘレネーと呼び捨てにしているのは、ヴィクトリアは呼び捨てなのに、自分が呼び捨てじゃ無いのは、なんだか許さないそうだ。偶にさん付けで呼びそうになるが、何とか我慢する。


 初めてヘレネーとヴィクトリアが出会った時は、2人とも笑い合いながら睨み合うのでとても怖いのだ。


 ヘレネーの後ろには巨大な虎の幻影が、ヴィクトリアの後ろには龍の様な幻影が睨み合っている姿が見えるほどだ。ロナたちも軽く震えていたし。俺も怖かった。


 ヘレネーに至っては、ヴィクトリアに殺気を放つ始末だ。俺も流石にやり過ぎたと、止めようと思ったが、ヴィクトリアが歯を食いしばって我慢している姿を見て、ヘレネーが何か納得していたので、止めには入らなかった。


 それからは、今の状態での話し合いが続いている。今後俺と結婚する事に対して、それぞれ決まり事を決めるそうだ。そこに俺の意見は当然含まれない。まあ、仕方ない。


「それじゃあ、決めた事を確認するわよ。まず第1に外聞的にはヴィクトリアが第1夫人だけど、家の中ではそんな事関係無しだから。貴族のレディウスが他の貴族たちに馬鹿にされない様にの処置だから!」


「わかっています。私もレディウスの側にいれるだけで嬉しいですから。それでは第2に、私たちが結婚出来るのは、レディウスが16歳になった時です。
 レディウスはもうすぐで15歳ですから、後1年はこのままです。なので、その間、お、大人の行為は禁止です! 悔しい事にヘレネーは既にそういう関係になっていると聞いていますが、私はまだなので、それまで待ってください」


「うぅっ、し、仕方ないわね。本当はレディウスのぬくもりを感じたかったのだけど、ヴィクトリアのために我慢するわ。それじゃあ第3に、多分これからもレディウスの事が好きになる女性が出て来るはずよ。その時は私とヴィクトリアが認めた人だけが、一緒になれるって事で」


「ええ、それは当然です。既に何人かいますが、私は本人次第では構わないと思っています」


「そうね。彼女たちは、特にあの子は文句無しで大丈夫よ。ずっと住んでいたから性格とかも知っているし」


 ……本当に俺の知らないところで色々と決まっていく。しかも、何気に俺が関わっている事が多い。ぼーっと、議論している2人を見ていると、突然2人がバッ、と俺を見て来る。な、なんだ?


「レディウス、もし、私たちの了承を得ずに女性を作ったら、あなたの大事なところを切り取るから」


「その後治らない様に焼きますので」


 ……俺は黙って頷くことしか出来なかった。だった2人とも怖すぎるんだもの! なんだよ、切り取るって! しかもその後焼くって! 怖い! 怖過ぎる!


「ふふ、そんなに怖がる事は無いわよ。レディウスが知らない間に女を増やさなければ良いんだから」


「そうですよ。ちゃんと私たちに会わせてくれて、話し合った結果、私たちが認めた人物なら、大丈夫ですので」


 左右からふふふ、と俺を挟んで微笑む2人。顔はとても良い笑顔で可愛らしいのだが、俺は背筋がゾクっとした。


 それから、ロナたちが帰って来れば、ヘレネーたちの手料理をお見舞いして来れて、楽しくいただいたりした。ヘレネーの手料理は、マリーさんたちの舌もう鳴らす程の美味しさ。これからは毎日作ってくれると言う。毎日の楽しみが増えた。


 楽しい晩御飯も終われば、ヴィクトリアたちは帰る。帰る間際、ヴィクトリアは恥ずかしがりながらも俺の袖を引っ張り何かを求めて来る。


 何だろうかと思いヴィクトリアを見ると、ヴィクトリアは目を瞑って俺の顔に近づいて来る。ここまでされたらわかる。俺もヴィクトリアを軽く抱き締めて口づけをする。後ろで「ふーんだ!」と怒っているヘレネー。後でするから怒らないでくれよ。


 家族が増えて、色々と問題も出て来るだろう。だけど、それ以上に俺はみんなと過ごすのが物凄く楽しみだ。みんなで幸せな家庭を築いて行きたい。そう願いながらヴィクトリアの乗る馬車を見送るのだった。


 ……


 …………


 ……………………


 それから、半年後、俺たちはメイガス学園を卒業した。ガウェインは、父親であるレイブン将軍の元で近衛騎士団に入るための軍に入り、ティリシアはミストリーネ騎士団長率いる、銀翼騎士団へ入団し、クララは家の家業を継いでいった。


 そして、俺たちは


「みんな、忘れ物は無いか?」


「ええ、私は大丈夫よ。ロナたちは?」


「私も大丈夫です!」


「私も大丈夫ですよ、レディウス様」


「主人様、私も大丈夫だ」


「グウグウ!」


 家から出た俺はみんなに尋ねると、そんな答えが帰ってきた。先週メイガス学園を卒業して、今日から3日間の馬車の旅をへて、俺が治る領地、アルノード子爵領へと向かう。


 子爵には、親善戦から帰って来た翌週には、陛下から各貴族へと理由とともに通知を出された。特段文句を言われる事なく通ったというのを聞いた。


 そのため、俺の領地は、昔のグレモンド男爵領に比べて若干大きい。そんなところを治める事が出来るのかと考えてしまうが、それ以上に楽しみな俺がいる。


 ここからが、俺の夢の始まりだからな。何年かかるかはわからない。それでも、やり甲斐のある夢だ。必ずやり遂げてやる。


「準備ができましたよ、レディウス」


 俺たちはヴィクトリアが用意してくれた馬車に乗る。周りにはガウェインやティリシアにクララ、ガラナたち村の人たちが出迎えをしてくれた。


「レディウス、何かあったら助けに行くからな。必ず呼べよ!」


「うむ、私もミストリーネ騎士団長に負けない様に頑張る。だから、レディウスたちも強くなるだぞ!」


「私も、応援しているから! 何かあったら絶対に助けに行くからねー!」


「俺たちはレディウス、お前がいなかったら戦争で死んでいただろう。お前には感謝しきれない。何かあったら呼べよ。必ず向かうからな!」


 ガウェイン、ティリシア、クララ、ガラナの順にそんな事を言われる。全く、目から汗が流れそうだぜ。


「ああ、何かあったら頼らせてもらうよ。逆にみんなも何かあったら遠慮なく来いよ。俺はみんなの事を仲間だと思っているだからな!」


 それから、御者にお願いして、馬車を動かす。みんなは、最後まで手を振ってくれていた。俺も窓から身を乗り出し最後まで手を振り続けた。遠く離れても仲間だからな。


 さて、目指すは土地はアルノード子爵領だ。この先、何が待ち受けているかはわからない。だけど、俺はみんながいれば乗り越えられると思っている。


 ヘレネー、ヴィクトリア、ロナ、ヘレナ、ミネルバ、フランさん、マリーさん、ルシーさん。みんなが俺を助けてくれる。そんなみんなを俺も守れる様に頑張っていこう。俺は馬車の中でそう誓ったのだった。

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