黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

142話 想いを伝えて

「1年ぶりだね、ヘレネーさん」


 俺たちは現在、自分たちの家へと戻って来た。俺も1ヶ月振りだ。懐かしいと思う反面、何だか新鮮な雰囲気がする。理由は、俺がいる間には無かった女性用の用品が家の所々に置いてあるからだ。


「そうね。私がここに着いた時、丁度レディウスが親善戦に行った時ですれ違いになっちゃったんだから」


 そう言って微笑むヘレネーさん。それは何というかタイミングが悪かったな。もしかした会えていたかもしれないのに。しかし、ヘレネーさんがここに来れたという事は


「もしかして、ヘレネーさん、烈炎流の王級まで……」


「ふふ、ここにいるって事はそういう事よ」


 ……それは凄い。まさか、1年で修得するなんて。恐ろしいまでの才能だ。俺が驚きながらヘレネーさんを見ていたら、ヘレネーさんはもじもじとし始めて


「……早く、レディウスと会いたかったんだもん」


 と、顔を赤く染めて呟く。俺は咄嗟に口を押さえてそっぽを向く。やばい、可愛すぎる。俺がヘレネーさんの可愛さに悶えていると、机の上に乗っかる黒い物体が。


「グゥ!」


 まるで、「よっ!」と言っているかのように手を上げるロポ。こいつは変わらんな。そんな黒い毛玉の出現に、初めて見るヘレナとミネルバは、きゃあきゃあと叫ぶ。
  
 すると、そんな2人を見て、ロナが


「ところで、そちらの2人はどなたなのですか?」


 と、尋ねてきた。そうだ、普通に家に連れてきたけど、この2人の事を話しておかないと。それに、ヴィクトリアの事も……ふぅ、何を言われるかわからないけど、物凄く緊張するな。


「みんなに大事な話があるんだ」


 俺が真剣な表情をすると、ヘレネーさんもロナも怖い顔をしてくる。フランさんはオロオロとしているが。だけど、ここで怖気付いていられない。


 俺はトルネス王国での出来事や、ヘレナたちをここに連れてきた訳、そして1番話さないといけない、ヴィクトリアとの結婚の事を話した。


 全て話すのに1時間近くかかったが、ヘレネーさんもロナもみんな黙って話を聞いてくれた。


「ヘレネーさんには、謝っても許してもらえない事はわかっている。だけど、俺のせいでこれから辛い思いをしてしまうヴィクトリアを、放っておく事は出来なかった。俺自身彼女に惹かれていたのもある。本当にすまない」


 俺は席から立ち地面に座り頭を下げる。俺は何をされても構わない。ヘレネーさんが気の済むまで殴りたいと言うのなら、殴られても構わない。全ては俺が悪いのだから。そう思って待っていたら


「……レディウス、武器を持って外に出て」


 ヘレネーさんはそれだけ言うと、愛剣を持って家から出てしまった。オロオロと俺とヘレネーさんが出て行った扉を見比べるみんな。


 俺はヘレネーさんの言われた通りに、新しく手に入れたレイディアントとシュバルツを腰に携え、家から出る。ヘレネーさんは既に、剣を抜いて俺を待っていた。


「さあ、レディウス、剣を抜きなさい」


「ええっと、どうしてだ、ヘレネーさん?」


「私は言葉で聞くよりも、剣で打ち合ったほうが、あなたの気持ちがわかると思ったからよ。さあ、構えなさい、レディウス!」


 今までの訓練の時でも見せた事がない程の殺気を放ってくるヘレネーさん。


「当然、あなたも本気で来なさいよ。手加減なんてしたら、あなたの事嫌いになるんだから!」


 ヘレネーさんはそれだけ言うと、もう言葉は交わさないとばかりに、烈炎流の構えをする。ヘレネーさんがそれを望んでいるのなら、俺も本気で行こう。


 右手にレイディアント、左手にシュバルツを持ち、構える。ヘレネーさんも初めて見る俺の構えに、怪訝な顔をするが、それでも、気を抜かずに見てくる。


 俺とヘレネーさんはチラッとロナを見る。ロナに審判をしてもらおう。ロナはまだ困惑した様子だが、俺とヘレネーさんの中間の地点ぐらいまでやって来て


「そ、それでは、レディウス様とヘレネーさんの模擬戦を始めます。お、お願いですから、大怪我はしないで下さいね。では、始め!」


 ロナの合図に、一気に突っ込んでくるヘレネーさん。烈炎流に防御の技はないからな。攻撃こそが最強の防御、それを素で行うのが烈炎流だ。


 ヘレネーさんは体全身に纏をし、上段から切りかかってくる。俺も纏を発動し、振り下ろしてくるヘレネーさんの剣を、両手の剣を交差させて防ぐ。


 ぐうっ、やっぱり、ヘレネーさんの烈炎流は中々強力だ。腕にとんでもない重みがのしかかる。昔は受け止められずによく吹き飛ばされていたっけ。


 俺はそんなヘレネーさんの剣を弾き返す。ヘレネーさんもそれは予想出来ていたのか、空中で器用に体を回転させ、地面に足がつくと同時にしたからの切り上げをしてくる。


「烈炎流、炎上!」


 俺は直ぐに横に飛ぶ。俺が元いた場所には、ヘレネーさんが放った斬撃が通り過ぎる。


 俺は、直様立ち上がり、ヘレネーさんに向かって風切を放つ。ヘレネーさんも魔闘眼をしているからか、俺の斬撃は見えているようだ。


 俺の風切を見切って、切り裂きながら攻めてくるヘレネーさん。この1年間でかなり強くなっている。ヘレネーさんも死に物狂いでやって来たのだろう。さっきも言っていたように、俺に早く会うために。


 俺はヘレネーさんの剣を捌くが、それと同時に魔法も放ってくる。ヘレネーさんは4属性の魔法が使えるからな。魔法だけでも、普通の魔法師に負けない。


 降り注ぐ数々の魔法を魔闘装したレイディアントとシュバルツで切り裂いていく。だけど、その間にヘレネーさんは、溜めを行なっていた。ここで放つつもりか?


「行くわよ、レディウス! これが、1年間で修得した技、烈炎流奥義、絶炎!」


 鞘の中に剣を戻し、その中で一気に魔力を爆発させる。一歩間違えれば、鞘は吹き飛び大怪我する程の魔力があの中には含まれている。


 左腰にある鞘から、一気に放たれた斬撃は、そのままヘレネーさんの剣の形のまま放たれる。ここも間違えれば、魔力が暴走するだろう。


 本来なら避けるべきこの一撃。下手すれば俺の体は両断されるかもしれない。だけど、だからこそ、真っ向から立ち向かう。俺は自分の限界以上の魔力を全身に流す。


「纏・天」


 ミネルバを助ける時に使った、俺の今1番の技を。そして、両手に持つ、レイディアントとシュバルツにも魔力を溜める。ダンゲンさんに教えてもらった方法で。


 すると、右手に持つレイディアントが光属性によって光を放ち、左手に持つシュバルツが闇属性によって、黒く染まる。相反する輝きを放つ双剣を構えて、放たれた斬撃を迎え撃つ。


「うぉぉぉぉおおっ!」


 俺は真っ向からヘレネーさんの技を受け止める。くそっ、なんて威力だよ。こっちも結構本気でやっているのに。これが烈炎流の奥義か。


「はああぁぁぁっ!!」


 俺とヘレネーさんは鍔迫り合いのまま硬直してしまうが、少しずつ押されて行く。魔力量的にはヘレネーさんの方が上か。仕方ない。


 俺は力を少し抜き、体は左側へと移動させる。それと同時にヘレネーさんの剣を右側へと逸らす。ただ、余りの威力を誇るヘレネーさんの奥義を逸らしきれずに、俺の右肩から先を切り飛ばした。


 ヘレネーさんの剣が振り切られるのと同時に、放たれる斬撃。空へと飛んで行く斬撃は、空に飛んでいた鳥を消し飛ばす程だった。


 俺は切り落とされた痛みに叫びそうになるが、歯を食いしばり我慢をする。俺がこの程度で叫ぶ訳にはいかない。ヘレネーさんの方が俺なんかよりもっと叫びたいはずだからだ。


 目の前には、目を見開いて驚くヘレネーさんの顔がある。そしてそのまま剣を鞘に戻そうとするが


「まだ、終わってないぞ、ヘレネーさん!」


 俺は左手に残ったシュバルツで、ヘレネーさんへと切りかかる。まだ、ヘレネーさんに気持ちを伝えたいない。それなのに、右腕が切り落とされた程度でやめられるかよ!


 ヘレネーさんは戸惑いながらも、俺の剣を防ぐが、動きが明らかに鈍っている。だから、俺は自分の気持ちを乗せて、ヘレネーさんへと切りかかる。


 気が付けば周りにはかなりのギャラリーが俺とヘレネーさんの戦いを見ていた。中には俺の腕が切り落とされているのを見て失神する人までいた。


 ロナは審判しながら泣いているし。隣でヘレナたちがいつでも来れるように手にポーションを持って待機していた。


 そんな風に打ち合っていたら、ヘレネーさんが剣を下ろしてしまった。俺も寸前で剣を止める。


「どうしたんだ、ヘレネーさん。どうしてやめるんだ?」


「……腕からそんなに血を流しているのに、やめない訳ないでしょうが、このバカ! それに、あなたが女と遊んでいた訳じゃないのはわかっているし。あなたなら他に出来ていてもおかしくないとは思っていたもの。だから、もうやめ。早くその腕を治療しないと」


「でも、ヘレネーさん。まだ、話が……」


「良いわよ。別に私が第1夫人であろうが無かろうが。別にレディウスの事が好きな事には変わりないわ。あなたが、順番で愛してくれる量が変わるのなら、切るけど。どうなの?」


「そんな事は絶対に無い。信じてもらえないかもしれないけど、俺はヘレネーさんの事を忘れた事は一度も無い。それくらい、ヘレネーさんの事が好きだ」


「ええ、私もあなたを思っていたからこそ、この1年、諦める事なく頑張って行く事が出来たわ。私もレディウスの事が好き。大好き。この想いは、ヴィクトリアだっけ? その人にも負けないわ。絶対に。だから」


 ヘレネーさんは俺の両頬を両手で挟んで、無理矢理引き寄せて、そして、俺とヘレネーさんの唇が重なる。


「……ぷはぁ、ふふ、1年ぶりのキスね。これから相手が増えても私も平等に愛してくれないと嫌よ。じゃ無いと、レディウスの大事なところ、右腕みたいに切り落としてあげるんだから」


 耳元で囁かれたとんでもない言葉に、俺の股間は縮こまる。それは困るな。だけど、俺は差をつけるつもりは全くない。


 口では簡単に言えるから、これからの態度で示して行くが、2人には絶対に後悔させないように、愛して行く。これが、俺の出来る唯一の事だから。


「あぁ、あとそれから、そのヴィクトリアにも早く会わせてね。私も見て見たいから。もし気に入らなかったら……だから」


 最後の方は小さかったので聞こえずらかったが、ヘレネーさんもヴィクトリアの事は気にいると思う。出来れば、喧嘩せずに仲良くして欲しいが、こればかりは話し合わないとわからないな。少し会わせるのが怖いな。

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