黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

140話 レイディアントとシュバルツ

 人騒動のあった翌日。俺は街に出ていた。いや、俺たちは街に出ていた。


「うふふふふ」


「……むむっ」


 俺と、俺の右腕を楽しそうに握るヴィクトリアと、俺たちの数歩後ろを歩くミネルバだ。今日は過去に戻ってきたら行く予定だったダンゲンさんの店に行く日だ。日と言っても今日しか予定が無いからなのだが。


 そのため、前回同様に案内してくれるというヴィクトリアに、ダンゲンさんのところで何かいい槍が無いか探すつもりで連れてきたミネルバがいる。


 ただ、前回と違うのは、ヴィクトリアの距離が近い事だ。それは俺とヴィクトリアはもう婚約者という関係だ。そのため、ヴィクトリアのスキンシップが物凄い。俺も嫌では無いのだが、人前では中々恥ずかしいものだ。


 そして、俺の後ろで少し機嫌が悪いミネルバ。尋ねて見ても、何でもない、としか答えないし。


 そんな温度差の激しい2人を連れて街中を歩いていると、当然話しかけられる。ヴィクトリアも隠す気は無いのか、俺の事を住民たちに紹介したりするし。 


 ヴィクトリアの事を娘の様に思っている住民たちは祝福してくれる人が大半だけど、明らかカタギの様な人が「お嬢ちゃんに手ェ出すとはええ度胸してるやないか、あぁん?」と睨んできたりと、俺自身は大変な目にあった。


 だけど、そのおかげで、ヴィクトリアは住民たちから好かれている事がわかったので良しとしよう。


 そのまま街を歩いて行くと、ようやく目的のダンゲンさんの店にたどり着いた。ミネルバはこの店がやっているのか不安そうだ。俺も初めてきたときはそう思ったよ。


 店に入ると、中には誰もいない。これも前と同じだな。ヴィクトリアは、すぐに壁にかかっている鉄板を棒で叩き始める。


 俺はそれがわかっていたので、耳を塞ぐのは間に合ったが、それを知らないミネルバは近くで鉄板を叩く音を聞いたので、その音に驚き目を回してしまう。


 そして数十秒後


「何じゃい、やかましいのぉ!」


 と、店の奥からダンゲンさんが現れた。手には金槌を持って。そして俺たちを見ると


「なんじゃ、お嬢ちゃんたちか。そういえば昨日帰ってきてたんだな」


「はい、お久しぶりです、ダンゲンさん」


 俺の挨拶に鼻で返すダンゲンさん。そのまま付いて来いと言って店の中を進む。俺たちも後に続く。一番奥のダンゲンさんが作った武器が飾られている部屋に行くと


「ふわぁ〜、す、凄いっ!」


 と、声に出して喜ぶミネルバ。直ぐに壁に立てかけてある槍を見に行く。


「なんじゃ、あの嬢ちゃんは?」


「すみません、俺たちがここにきた用事の1つで、彼女に合う槍を探しにきたんです」


「ふむ……おい嬢ちゃん、そこで槍を振ってみろ」


「えっ、あっ、はい」


 突然の事に驚くミネルバだが、その場にあった槍を手に取り、軽く振る。おおっ、こう改めて見ると、やはりミネルバの槍術は凄いな。自分の手足の様に動かしている。それを見たダンゲンさんは


「ふむ、よかろう。お嬢ちゃん、その中から自分にあったと思うものを選ぶと良い」


 許可をくれた。その言葉にミネルバは目をキラキラと光らせて、自分に合いそうな槍を探し始める。ははっ、ああ見ると可愛いものだ。


 楽しそうに槍を手に取りあーだこーだ考えるミネルバの後ろ姿を見ていると


「ほれ、これが小僧の2本目の剣だ」


 ダンゲンさんが布で巻かれた剣を渡してきた。俺はそれを受け取り布を解いてみると


「わぁ、綺麗」


 俺の隣で口を押さえて驚くヴィクトリア。俺もヴィクトリアと同じ意見だ。俺の手の中には白銀に光り輝く剣があった。


「こいつの名前はレイディアント。シュバルツと対をなす白剣だ」


「シュバルツ? なんですか、それ?」


「あん? 言ってなかったか? お前の腰に差してある剣の名前だよ。作ったからには銘をやらないと武器が可哀想だろうが」


 ……なんと、この黒剣の銘はシュバルツだったのか。初めて聞いたぞ。黒魔剣シュバルツに白魔剣レイディアント。中々かっこいい。


「レイディアントの能力は相手を切れば切るほど、相手の魔力を奪う事が出来る能力を持っている。そして、ある程度魔力が溜まると、光属性の攻撃を行う事が出来る」


「えっ、それって魔法が使えるって事ですか!?」


 俺はあまりの驚きに、ダンゲンさんに詰め寄ってしまった。人生で一度も魔法を使えないと思っていた俺からすれば、一度ぐらい使って見たいというのが本音だ。もし使えるのなら……そう思っていたが


「いや、魔法は使えんぞ。ただ、お前の攻撃に光属性が付与されるだけだ。これはシュバルツでも同じで、ある程度溜まると闇属性が付く」


「今まで一度も無かったのですが……」


「それは、溜めておらんからだろう。武器付与だけではダメだぞ。魔力を蓄積せねば」


 いまいち何が違うのかわからなかった俺ば、ダンゲンさんにやり方を教えてもらってしてみると、レイディアントの刀身が光り輝き、シュバルツの刀身が黒く染まる。これがそれぞれの属性か。


「ダンゲンさん、ありがとうございます。こんな良い武器を作ってくださって」


「別に構わねえよ。俺も良かれと思って作ったのだからな」


「はは、それで代金なのですが……」


「あん? 別にいらねえよ」


「「は?」」


 この素晴らしい剣が2本でいくらなのか尋ねようとしたら、別にいらないと言われてしまった。当然驚く俺とヴィクトリア。


「お前らの祝いにくれてやるって言ってんだよ。ありがたく貰っておけ」


 ダンゲンさんの言葉を理解したヴィクトリアは顔を赤くする。俺たちが結婚する事は既に知っているのか。でも、本当に良いのだろうか。この剣はとても良いものだ。それなりの値段がするはずだが。


「……本当に良いのですか?」


「くどいぞ。何度も言わせるなよ」


 そこまで言うなら頂こう。これから命を預ける俺の大切な武器だ。ありがたく使わせてもらう。それから少ししたらミネルバが槍を持って来た。全体的に緑がかっている槍だ。


「嬢ちゃんはボレアスを選んだのか」


「ボレアス?」


「ああ、その槍の名前だ。能力は魔力を流しながら振るうと、風属性の攻撃を放つ事が出来る」


 ミネルバもダンゲンさんに言われた通りやってみると、遠く離れた木の板に突きの穴が空いた。へぇ〜、かまいたちのようなものかな。その光景を見たミネルバもテンションが高い。


 ミネルバの武器も決まったので、俺たちはミネルバの分だけは払うと言って、払ってダンゲンさんの店を後にした。あれ以上いたら「いらねえって言ってんだろうが!」とキレられそうだったからな。


 新しく手に入った槍を頬ずりしながら歩くミネルバを見ながら、俺たちは王宮に戻るのだった。ダンゲンさんにはこんなとても良い剣を作ってくれた事を感謝しないと。

コメント

  • リムル様と尚文様は神!!サイタマも!!

    エリュ○データとダークリ○ルサー感が……………

    2
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