黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

132話 空からの攻撃

 空中をゆらりゆらりと羽を羽ばたかせて飛ぶミネルバさん。俺たちの攻撃は当然届かず、かといって魔法を放っても、余裕で避けられる距離で空を飛んでいる。何とかして地上に引き摺り下ろしたいところなのだが。


「来るぞ!」


 ロンベルの声が響く。ミネルバさんは槍を構えて、俺たちに向かって滑降してくる。ちっ、結構速い!


 急降下して来たミネルバさんの槍を避けるが、その隙にあっという間に元の高さまで戻ってしまう。これでは攻撃する暇もないな。


 その上、ミネルバさんは羽に魔力を集めて、大きくはためかせる。羽から放たれるのは風魔法。不可視の風は俺たちに到達する前に木の枝にぶつかり、スパッと切れた。


 吹き飛ばす系じゃ無くて、切り刻む系かよ! 俺は魔闘眼を発動し、どの辺りに来るのかを見る。あの一瞬でなんて数だよ。一つの風の塊の中にかなりの量の風の刃が渦巻いている。


「すぐにその場から離れろ!」


 俺の言葉に全員がその場から飛び退く。入れ替わるように空から降って来た風の塊が地面にぶつかると、辺りに風の刃が咲き乱れる。


 ……あのままいたら風に押しつぶされた上に、切り刻まれていたな。しかし、決定打が思いつかない。ティリシア、メイリーンが魔法を放っても、ミネルバさんに簡単に避けられてしまう。


「こりゃあ、まずいな。こっちの攻撃が全く当たらねえぜ」


「ああ、これならまだアルフレッドの方が楽だった」


 アルフレッドのときは、攻撃すれば当たっていたからな。速さはかなりのものだったが、それでもまだ勝てる見込みはあった。だけど、ミネルバさんはどうすればいいのかわからない。


 空を飛んでいるばかりで降りてくる様子はない上に、風魔法を放ってくるだけだ。ごく稀に槍で攻撃してくるが、かなりの速さで急降下してくるミネルバさんは、とんでもない質量を持っており、誰も止める事が出来ない。


 だけど……狙うとしたらそこしかないのも事実だ。あのとんでもない威力を誇るミネルバさんの急降下を、どうやって止めるかが鍵となるな。


 俺たちはミネルバさんが急降下してくるのを待つ。いくつも放たれる風魔法のせいで、傷を負うがそれでも待つ。そして、ミネルバさんは1度ふわりと飛んで、一気に急降下をしてくる。


 その瞬間


「アイスランパート!」


「ロックウォール」


 ティリシアとメイリーンが魔法で壁を作る。どちらもかなりの強度を誇る魔法なのだが、ミネルバさんは急降下すると同時に槍に魔法をかけていた。


 槍の穂先の周りを回転するように回る風魔法。かなりの数の風の刃が穂先の周りを大小異なる大きさで回転している。


 その槍がまずはティリシアの氷の壁にぶつかると同時に、氷の壁は削られていった。ミネルバさん1人が通れるほどの穴がすぐに出来、続いてそびえ立つ石の壁に激突する。だが、ここでも、壁は削られていく。


 二重にした壁はあまり意味をなさないまま貫通されてしまった。ミネルバさんはそのまま俺たちの方へと飛んでくる。


「魔闘装・極」


 俺は黒剣に限界まで魔力を集める。魔法の壁は貫通されてしまったが、魔力を流せば流すほど硬さが増す魔剣ならどうだ?


 俺は上段に構え、ミネルバさんが来るのを待つ。距離はどんどんと縮まり、俺の剣の間合いに入った瞬間、一気に振り下ろす。


「烈炎流、大火山!」


 俺が一気に振り下ろした黒剣と、ミネルバさんの槍がぶつかると、火花が発生し、辺りに撒き散らす。ぐうぅっ、なんてパワーだ。これはミネルバさん本来の力ではないな。大方、魔獣の力も関係しているのだろう。


 少しずつだが、後ろから押されていくが、なんとか踏ん張る。ミネルバさんに押されていくうちに、ミネルバさんの勢いは無くなり、最終的にはただの槍と剣の押し合いになっていた。


 ミネルバさんにも疲労が見られる。やっぱり長時間飛ぶのは辛いのだろう。だけど、飛んでいない今がチャンスだ。メイリーン以外のメンバーは一気にミネルバさんへと向かう。


 ロンベルのアックスを体を逸らして避け、ガウェインの剣を槍で弾く。ガウェインに集中しているうちにティリシアが忍び寄るが、なぜかバレてしまう。ティリシアは気がつかないようだが、多分空中に舞っている鱗粉のせいだろう。


 俺も魔闘眼をして初めて気がついたのだが、俺たちが戦っているところ一体に微量ながらも魔力の鱗粉が撒かれていた。


 十中八九、ミネルバさんが何かしたものだろう。この鱗粉から何か信号らしきものを、発しているのかもしれない。そのせいで、先読みに近い反応をされてしまう。


 空からの魔法に、急降下による槍の攻撃。その上、鱗粉を使った先読みなど。本当に手強い相手だな。

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