黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
127話 夜の語らい
「くろぉ〜!」
「ん? うおっ! これはベアトリーチェ様、こんな夜遅くにどうされたのです?」
雨も止んだ次の日。今日は特にする事なく、朝は体を動かし、昼からは図書室に篭って本を読んでいた。そして夜は凝り固まった体をほぐすために再び黒剣を持って庭で素振りをしていたら、ベアトリーチェ様がやってきたのだ。
後ろからは、スザンヌちゃんと侍女のヘレナさんだったか? 彼女も一緒に付いていた。
「ねむく、ない!」
眠くないのか。俺がチラッとヘレナさんを見ると
「今日お昼寝したので眠くないそうなんです。だから少しだけ庭に来たのです」
「なるほど。でも良いのですか、こんな夜更けに。それに護衛も連れていないようですし」
「はい、フローゼ様からは許可を頂いております。護衛はあなたに任せたら良いとフローゼ様は言っておりましたから」
……いやいやいや、いくらなんでも信頼し過ぎでしょ。まあ、王宮の中だから何事も起きないと思うのだけど、さすがに他国の人間に任せるのはどうかと思うが。それほど、信頼してくれているという事なのだろうけど。
「くろ、あそぼっ」
俺の足下でぴょんぴょんと跳ねながらおねだりしてくるベアトリーチェ様。まあ良いか。何かあったら王宮に逃げ込めば良いのだし。
「わかりました。何します?」
「んー、だっこ!」
俺はベアトリーチェ様に言われるがままだっこをする。前にフローゼ様からはベアトリーチェ様との遊びに関する事なら触れても良いとお許しが出たからな。
「きゃきゃっ!」
俺が抱っこをして何度も高い高いをしてあげると、楽しそうに笑い声をあげてはしゃいでくれる。可愛い。
「ふふ」
おっ! ヘレナさんが笑った!? 俺をフローゼ様のところに連れて行くために呼びに来た時も無表情だったのに。
……そういえば、ヘレナさんって奴隷なんだよな。なんでなったか聞いても良いのか? ……いや、流石に無神経過ぎるか。出会って間もないけど俺なんかには話したくないだろうし。
「……? 私の顔に何か付いていますか?」
うおっと、ヘレナさんの顔を見過ぎた。ヘレナさんを見ているのを気が付かれた。
「すみません。特に何も無いのです。少し気になる事があっただけなので」
「気になる事? ……もしかしてこれの事でしょうか?」
ヘレナさんは、自分の首元にある無骨な首輪に触れる。俺が無言なまま頷くと
「そういえば、レディウス様は他国の方でしたね。それなら私の事も知らないでしょう。私の昔の名前はヘレナティス・ホーエンハイドと申します。昔はこの国の東にある鉄鉱山を管理するホーエンハイド伯爵家の次女でした」
そのまま、話し始めてくれた。この国の人間は全員知っているから別に構わないと言って。
「まあ、簡単な話が国有である鉄鉱山を父が他国に流していたのです。この国の情報と一緒に。その事がトルネス国王にバレて一家全員に反逆罪の罪を与えられたのです。家は当然没落、父と母、兄は国民の前で死刑にされました。
姉と私は領地から離れていたので、全くその事件に関与をしておらず、この国に関する情報も全く持っていなかったため、死刑は免れたのですが、犯罪奴隷となりこれからの人生は奴隷として生きる事になったのです」
……かなり重たい話だったな。でも、ヘレナさんはあまり悲しそうな表情をしていない。もう割り切っているのかもしれない。
「そうだったのですか。それであなたのお姉さんは?」
「姉ですか? 姉とは既に出会っていますよ。ミネスティ・ホーエンハイド、今はミネルバって名前でしたね。マンネリーの護衛をしています」
……ああっ! あの槍を背負った女性か! まさかここでそんな繋がりがあるとは。
「姉はマンネリーが物凄い大金を出し購入したのです。それほど姉の事が欲しかったのでしょう。今の姉は奴隷契約に縛られて記憶が無くなっているようですし」
……奴隷契約ってそんな事も出来るのかよ。まさか記憶が無くなっているとは。そういえば、この前ヘレナさんがマンネリーを止めに来た時も全く表情が変わっていなかったな。
俺が何も言えないでいると、ヘレナさんが俺の方を向いて微笑む。綺麗な顔だけど、その笑顔が逆に痛々しい。それに今の笑顔どこかで……。
「申し訳ございません。私のつまらない話を聞かせてしまって……あら、ふふ、ベアトリーチェ様もスザンヌ様も眠ってしまいましたね」
ん? ……おお、本当だ。話に集中し過ぎで気が付かなかった。俺の腕の中でベアトリーチェ様が、俺の側でスザンヌちゃんが眠っていた。寝顔も可愛い。
「それでは戻りましょうか。ベアトリーチェ様をお願いしてもよろしいですか?」
ヘレナさんはそう言ってスザンヌちゃんを抱き上げる。俺もベアトリーチェ様を抱きかかえて立ち上がる。
ヘレナさんと一緒に王宮に戻りながらも、考えてしまうのはさっきの話だ。さっきの感じだとヘレナさんは物凄く肩身の狭い思いをしているのだろう。
みんなが犯罪者の娘だって知っているのだから。それにミネルバさんの事もそうだ。犯罪奴隷は仕方ないとしても、記憶まで封じ込められるなんて酷すぎる。あのデブめ。これじゃあヘレナさんもミネルバさんも可哀想過ぎる。
だけど、他国の人間である俺が口を出せる問題じゃないしな……何か彼女たちに出来る事は無いのだろうか。
「着きましたよ、レディウス様」
「ん? ……ああ、すみません」
「いえ、では中に入りましょう」
ベアトリーチェ様の部屋の中に入ると、可愛らしいぬいぐるみでいっぱいだった。可愛い部屋だ。ただ、この部屋に長い事いるわけにはいかないので、直ぐにベアトリーチェ様をベッドに寝かせて部屋を出る。
どうやらスザンヌちゃんは隣の部屋のようだ。直ぐに来られるようにかな。そこからヘレナさんが出てくる。
「ありがとうございました、レディウス様。離宮までお送りします」
そう言って先頭を歩くヘレナさん。普通俺がヘレナさんを送っていくべきなのだろうけど、俺だと王宮の中を迷ってしまう。ここはお言葉に甘えて送ってもらおう。
そのまま付いて行って外に出る。おや、俺の初めて通る道だ。こんな道があったんだな。
ヘレナさんに聞くとこの道は近道らしく、庭の方に比べたら少し暗いが庭から通り抜けるより早く離宮に着くそうだ。ヘレナさんもフローゼ様から聞いて知ったらしい。
その道を歩いていると、嫌な臭いがして来た。ヘレナさんは気が付いていないようだが。
「……どうされましたか?」
俺が突然立ち止まった事で振り返るヘレナさん。だけど、俺はそのまま辺りを調べる。この臭いは偶にする臭いだからな。間違えるはずが無い。
臭いは。植込みの方から臭ってくる。後ろでヘレナさんが静止の声を出すが俺はそのまま植込みに入っていく。そして
「……やっぱりこの臭いだったか」
そこには2人の兵士が血を流して倒れていた……俺が気が付いた臭いは……血の臭いだったのだ。
「ん? うおっ! これはベアトリーチェ様、こんな夜遅くにどうされたのです?」
雨も止んだ次の日。今日は特にする事なく、朝は体を動かし、昼からは図書室に篭って本を読んでいた。そして夜は凝り固まった体をほぐすために再び黒剣を持って庭で素振りをしていたら、ベアトリーチェ様がやってきたのだ。
後ろからは、スザンヌちゃんと侍女のヘレナさんだったか? 彼女も一緒に付いていた。
「ねむく、ない!」
眠くないのか。俺がチラッとヘレナさんを見ると
「今日お昼寝したので眠くないそうなんです。だから少しだけ庭に来たのです」
「なるほど。でも良いのですか、こんな夜更けに。それに護衛も連れていないようですし」
「はい、フローゼ様からは許可を頂いております。護衛はあなたに任せたら良いとフローゼ様は言っておりましたから」
……いやいやいや、いくらなんでも信頼し過ぎでしょ。まあ、王宮の中だから何事も起きないと思うのだけど、さすがに他国の人間に任せるのはどうかと思うが。それほど、信頼してくれているという事なのだろうけど。
「くろ、あそぼっ」
俺の足下でぴょんぴょんと跳ねながらおねだりしてくるベアトリーチェ様。まあ良いか。何かあったら王宮に逃げ込めば良いのだし。
「わかりました。何します?」
「んー、だっこ!」
俺はベアトリーチェ様に言われるがままだっこをする。前にフローゼ様からはベアトリーチェ様との遊びに関する事なら触れても良いとお許しが出たからな。
「きゃきゃっ!」
俺が抱っこをして何度も高い高いをしてあげると、楽しそうに笑い声をあげてはしゃいでくれる。可愛い。
「ふふ」
おっ! ヘレナさんが笑った!? 俺をフローゼ様のところに連れて行くために呼びに来た時も無表情だったのに。
……そういえば、ヘレナさんって奴隷なんだよな。なんでなったか聞いても良いのか? ……いや、流石に無神経過ぎるか。出会って間もないけど俺なんかには話したくないだろうし。
「……? 私の顔に何か付いていますか?」
うおっと、ヘレナさんの顔を見過ぎた。ヘレナさんを見ているのを気が付かれた。
「すみません。特に何も無いのです。少し気になる事があっただけなので」
「気になる事? ……もしかしてこれの事でしょうか?」
ヘレナさんは、自分の首元にある無骨な首輪に触れる。俺が無言なまま頷くと
「そういえば、レディウス様は他国の方でしたね。それなら私の事も知らないでしょう。私の昔の名前はヘレナティス・ホーエンハイドと申します。昔はこの国の東にある鉄鉱山を管理するホーエンハイド伯爵家の次女でした」
そのまま、話し始めてくれた。この国の人間は全員知っているから別に構わないと言って。
「まあ、簡単な話が国有である鉄鉱山を父が他国に流していたのです。この国の情報と一緒に。その事がトルネス国王にバレて一家全員に反逆罪の罪を与えられたのです。家は当然没落、父と母、兄は国民の前で死刑にされました。
姉と私は領地から離れていたので、全くその事件に関与をしておらず、この国に関する情報も全く持っていなかったため、死刑は免れたのですが、犯罪奴隷となりこれからの人生は奴隷として生きる事になったのです」
……かなり重たい話だったな。でも、ヘレナさんはあまり悲しそうな表情をしていない。もう割り切っているのかもしれない。
「そうだったのですか。それであなたのお姉さんは?」
「姉ですか? 姉とは既に出会っていますよ。ミネスティ・ホーエンハイド、今はミネルバって名前でしたね。マンネリーの護衛をしています」
……ああっ! あの槍を背負った女性か! まさかここでそんな繋がりがあるとは。
「姉はマンネリーが物凄い大金を出し購入したのです。それほど姉の事が欲しかったのでしょう。今の姉は奴隷契約に縛られて記憶が無くなっているようですし」
……奴隷契約ってそんな事も出来るのかよ。まさか記憶が無くなっているとは。そういえば、この前ヘレナさんがマンネリーを止めに来た時も全く表情が変わっていなかったな。
俺が何も言えないでいると、ヘレナさんが俺の方を向いて微笑む。綺麗な顔だけど、その笑顔が逆に痛々しい。それに今の笑顔どこかで……。
「申し訳ございません。私のつまらない話を聞かせてしまって……あら、ふふ、ベアトリーチェ様もスザンヌ様も眠ってしまいましたね」
ん? ……おお、本当だ。話に集中し過ぎで気が付かなかった。俺の腕の中でベアトリーチェ様が、俺の側でスザンヌちゃんが眠っていた。寝顔も可愛い。
「それでは戻りましょうか。ベアトリーチェ様をお願いしてもよろしいですか?」
ヘレナさんはそう言ってスザンヌちゃんを抱き上げる。俺もベアトリーチェ様を抱きかかえて立ち上がる。
ヘレナさんと一緒に王宮に戻りながらも、考えてしまうのはさっきの話だ。さっきの感じだとヘレナさんは物凄く肩身の狭い思いをしているのだろう。
みんなが犯罪者の娘だって知っているのだから。それにミネルバさんの事もそうだ。犯罪奴隷は仕方ないとしても、記憶まで封じ込められるなんて酷すぎる。あのデブめ。これじゃあヘレナさんもミネルバさんも可哀想過ぎる。
だけど、他国の人間である俺が口を出せる問題じゃないしな……何か彼女たちに出来る事は無いのだろうか。
「着きましたよ、レディウス様」
「ん? ……ああ、すみません」
「いえ、では中に入りましょう」
ベアトリーチェ様の部屋の中に入ると、可愛らしいぬいぐるみでいっぱいだった。可愛い部屋だ。ただ、この部屋に長い事いるわけにはいかないので、直ぐにベアトリーチェ様をベッドに寝かせて部屋を出る。
どうやらスザンヌちゃんは隣の部屋のようだ。直ぐに来られるようにかな。そこからヘレナさんが出てくる。
「ありがとうございました、レディウス様。離宮までお送りします」
そう言って先頭を歩くヘレナさん。普通俺がヘレナさんを送っていくべきなのだろうけど、俺だと王宮の中を迷ってしまう。ここはお言葉に甘えて送ってもらおう。
そのまま付いて行って外に出る。おや、俺の初めて通る道だ。こんな道があったんだな。
ヘレナさんに聞くとこの道は近道らしく、庭の方に比べたら少し暗いが庭から通り抜けるより早く離宮に着くそうだ。ヘレナさんもフローゼ様から聞いて知ったらしい。
その道を歩いていると、嫌な臭いがして来た。ヘレナさんは気が付いていないようだが。
「……どうされましたか?」
俺が突然立ち止まった事で振り返るヘレナさん。だけど、俺はそのまま辺りを調べる。この臭いは偶にする臭いだからな。間違えるはずが無い。
臭いは。植込みの方から臭ってくる。後ろでヘレナさんが静止の声を出すが俺はそのまま植込みに入っていく。そして
「……やっぱりこの臭いだったか」
そこには2人の兵士が血を流して倒れていた……俺が気が付いた臭いは……血の臭いだったのだ。
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