黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

111話 暇潰しに依頼でも

「くそっ、くそっ、くそっ! あの忌々しい小僧め! レグナント王太子の前で恥をかかせよって! くそっ!」


 私は何度も何度も机を叩く。あの小僧め! 黒髪の分際で! フロイスト王子に、滅多に会う事の出来ないベアトリーチェ王女にも会えて、顔を売る機会だったのに、あの小僧のせいで!


「ミネルバ! あの小僧を殺して来い!」


 私は、扉の前に立つ私の奴隷、ミネルバに命令をする。しかしこいつは


「それは無理です、旦那様」


 と、拒否をしよった。こいつも私を馬鹿にするのか! ミネルバの側に行き


 バチンッ!


「っぅ!」


 ミネルバの頰を叩く。


「貴様、私の言う事が聞けんのか! 奴隷の分際で!」


 それから、何度も何度もこいつを蹴る。このこのこの!


「会長、失礼します」


 その時、部屋に入ってきたのは、私の右腕であるケインズだった。こやつは、まだ私の商会が小さい時にふらりと現れた男だ。


 初めは胡散臭いやつだと思っていたが、こやつの才能はかなりのものだった。それがわかってからは私の右腕として、働いて貰っている。


 そんなケインズは床に倒れるミネルバをチラッと見て、直ぐに私に視線を戻す。


「会長、外まで怒鳴り声が聞こえていましたよ。1階までは聞こえていないようでしたが、ご注意を」


「……ふん、わかっておるわ。しかし、本当に忌々しい!」


 いくら怒鳴り声を上げようとも、ミネルバを殴ろうとも怒りが収まらぬ。国でも1.2を争うマンネリー商会の会長である私の顔に泥を塗ったのだから!


「一体どうなさったのです?」


 ふむ。こやつならミネルバと違っていい案が浮かぶかもしれんな。私は王宮であった事をケインズに説明する。自分で話して思い出しても腹が立つ。


「……なるほどですね」


 ケインズは手を顎にやり何かを考える。そして顔を上げると


「確かその男爵は親善戦に出るのですよね」


「ああ、その通りだ」


「それなら……」


 ◇◇◇


「ブモオォォォ!」


「うるさい!」


 俺は適当に棍棒を振り回してくるオークの攻撃を掻い潜り、腹を切り裂く。切り裂かれた痛みにオークは叫び、切られた腹を押さえるが、その隙に首を切りとばす。


「うおっ! こんにゃろう!」


 後ろではガウェインが戦う音がする。ガキィン! と音がするのはガウェインがオークの棍棒を盾で防いだからだろう。


「はっはっは! やるじゃないか君たち! 良し! 私も頑張らなければ!」


「馬鹿野郎! 勝手に突っ込んでんじゃねえよ!」


「あわわ、アルくんまだ支援魔法も使ってないのに!」


 別のところでは、3日後に俺たちと戦う相手であるトルネス王国の代表たち、巨体の男ロンドル、女の子のような男ビーンズ、仲間の制止を振り切って1人で大暴れするアルフレッドがオークの群れを倒していく。


 なぜこんな事になったかといえば、今日の朝まで遡る。


 ◇◇◇


「なぁ〜レディウス。暇だからさ、ギルドでなんか依頼受けに行かね?」


 朝の食事を終えて、みんなで一服していたら、隣に座るガウェインがそんな事を言い出した。依頼か。そういえば最近ギルドにも行っていないな。


 4年前は登録したときと、修行を終えて子爵領についた時にギルドによってアレスに出会った時ぐらいか。久しぶりに行ってみるかな。庭で体を動かしているけど、やれる事が限られているし。


「みんなはどうする?」


 俺は一緒に食事をしていたヴィクトリアたちに尋ねる。すると


「すみません。私は今日もフローゼお姉様に呼ばれていまして。なんでもお茶会で私を紹介したいとかで」


「私とクララは街を見て回る。昨日も行ったのだが、トルネス王国の王都も中々の大きさなのでな」


 ティリシアの言葉にクララは頷く。なるほど。それなら俺とガウェインだけか。


「それじゃあ、俺たち2人でこなせる依頼でも探しに行くか」


「そうだな。それじゃあ行こうぜ」


 俺たちはヴィクトリアたちに見送られながら王宮を出る。トルネス王国の冒険者ギルドはここから歩いて15分ほどのところにあるらしい。昨日の内に確かめたそうだ。


「そういえば、レディウスはギルドには登録しているよな?」


「一応はしてるよ。Fランクだけど」


 俺が正直にランクを言うと、ガウェインは立ち止まってしまった。俺が振り返ってガウェインの顔を見ると、驚きの表情を浮かべている。


「そんなに驚く事か?」


「いや、悪りぃ。お前クラスの剣士だったらBとかなっていたりするからさ。つい驚いちまった」


 そう言い苦笑いをするガウェイン。仕方ないだろ。初めて行ったギルドでは裏切られて死にかけて、二度目のギルドでは、アレスの目的を達成するためにコカトリスを倒しに行っていたのだから。


 ちなみにあれはギルドを通さずに個人依頼として受けているため、ランクは上がらない。逆に上がっても困るけど。


 あれは完璧に現在のランク以上のものだったからな。通していたら依頼を受けられなかったし、通した依頼を書かれて受けていたら、剥奪もありえる。


「師匠のところで修行していた時はお金には困ってなかったし、自分で魔獣を狩ってそれを食材にしていたりしてたからな。ギルドには行ってなかったんだよ」


「……確か師匠に魔獣の住処に放り込まれたってやつ?」


「うん」


 俺が、頷くとほおを引きつらせるガウェイン。お前のその気持ちはわかるよ。実際にやった俺でも今思い返せばうわぁ〜てなるから。


 そんなたわいのない話をしながら俺とガウェインはようやく冒険者ギルドに辿り着いた。外見は俺が初めて行った冒険者ギルドより倍ぐらい大きい。王都だからか?


「さあ、入ろうぜ」


 俺はガウェインの後について行く。中の左側は6つの受付があり、従業員が働いている。反対の右側は、依頼やパーティの募集などをするための掲示板があり、多くの冒険者がそれを吟味している。奥には地下と2階に行く階段がある。地下は訓練場、2階は酒場となっているようだ。


「なんかいい依頼あるかなぁ〜。でもレディウスはFランクだからEまでしか受けられないのか」


「そうなるな」


 ギルドの規約で依頼は自分のランクの1つ上までしか受けられない。


「そういえば、ガウェインは何ランクなんた?」


「ん? 俺か? 俺はCランクだ」


 へぇ〜、Cランクか。Cランクが冒険者としての分岐点で言われるからな。まあガウェインほどの実力なら当たり前か。


 そのまま何か依頼がないか探しに行こうと思ったら、ギルドの従業員用の扉から人が出てきた。


「あれ、あいつらって……」


 ガウェインも気が付いたようだ。まあ、当たり前か。なんせ、従業員用の扉から出て来たのは、親善戦の対戦相手だったのだから。

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