黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

104話 謎の女の子

「お嬢様〜、あまりお土を触っては駄目ですよぉ〜。おててが汚れちゃいますからぁ〜」


「やっ。ありしゃん、みりゅ」


 俺が庭でダンゲンさんから貰った黒剣を振ろうと思ってやって来たのだが、どうやら先客がいたようだ。


 金髪の女の子はピンク色のフリルがあしらった可愛らしいドレスを着ている。見た目は3歳ほど。すでに将来綺麗になると思えるほどの可愛らしさを持っている。


 まだ歩き始めたばかりなのか足取りは覚束ないが、見えるものが全て新鮮なのだろう。ちょこちょこと歩き回っては、色々触ったりしている。今は、しゃがみこんで花壇の土を弄っている。


 その隣では、侍女服を着た少女が同じようにしゃがんでいる。少女は茶髪のおさげをしており、年齢は9歳くらいだろう。


 周りを見てみるが、他に付き添いがいない。遠くから兵士が見ているからか? 俺が兵士の方を見ると、兵士も俺と目が合う。そして頷く。いや、なんだよ。


 因みに、俺たちアルバスト組は腕に腕章を付けている。これが無ければ、不審者と間違わられるらしい。アルバスト王国でいうバッチみたいなものだな。


 俺が顔を戻すと、金髪の女の子と目が合った。付き添いの侍女の少女は俺の髪を見て「ふぇっ!?」と驚いている。


「……」


「……」


 ……物凄く見てくる。金髪の女の子は俺の顔に穴が空くんじゃないのか? と思うぐらい見てくる。全く目を離さない。その後ろで侍女の少女は俺と金髪の女の子を交互に見ておろおろとしている。


 じーーーー


 じーーーーーー


 じーーーーーーーーぃっ


「そ、そろそろ何か話しましょうよぉ〜」


 金髪の女の子の後ろでおろおろとしていた侍女の少女が、雰囲気に負けたのか涙目になっていた。少し可哀想になってきたので、俺から動くとしよう。


「これは失礼いたしました。お二人の邪魔をしてしまいまして。私は失礼しますので」


 俺はそう言って離れようとすると、何故か金髪の女の子は俺に向かって走って来た。しかし、まだ歩き始めたばかりで覚束ない少女は、当然走る事にも慣れておらず


「ああっ、お嬢様!」


 地面に躓いて前に倒れ込んでくる。俺は直ぐに前に出て、金髪の女の子がこける前に体を抱き上げる。ふぅ、危なかった。周りの兵士達からもほっ、という溜息が聞こえたような気がした。


 女の子は俺に抱き上げられたまま、きょとんとして、円らな瞳でまた俺をじっと見てくる。あまり物怖じしない性格なのかな?


 俺がそんな事を思いながら女の子を降ろす。俺は片膝をついて女の子を降ろしたので、女の子より少し上から見下ろす。すると、女の子は何を思ったのか、俺の髪に触れて来た。


 さわさわ、がしっ! さわさわ、がしっ!


 と、何度か触れると引っ張り、何度か触れると引っ張りを繰り返す。その光景を見た侍女の少女が


「み、見知らぬ人の髪を引っ張っては駄目ですよぉ〜!」


 と、言うが、金髪の女の子は無視だ。侍女の少女は再び涙目。侍女の少女が少し可哀想になって来た。


 そして、女の子の手は髪の毛から俺の顔へと移る。どうやら、俺の傷が気になるようだ。俺の左目の傷をぺたぺた触ると、今度は何故か俺の頰を引っ張ってくる。


 まだ小さい女の子の力だから全く痛くはないのだが……そろそろ侍女の少女が限界だからやめてあげて欲しい。


 そんな事を思っていたら、ようやく


「ベアトリーチェ〜。スザンヌ〜、どこなの〜?」


 と、呼ぶ声がする。その声が聞こえた2人は、パッと声のする方を振り返り走っていった。どうやらお迎えが来たようだ。しかし、俺の髪と顔をあんなに触ってどうしたのだろうか?


 まあ、良いか。多分会う事は無いだろうし。う〜ん、戻るか。剣を振ろうかと思ったが、あの女の子たちと出会ってなんだか和んでしまったから、振る気分じゃなくなってしまった。


 図書室で本でも読もう。


 ◇◇◇


「ちょっと、ベアトリーチェ? 一体どこに行くのよ?」


「んっ!」


 いったいどうしたのかしら? 久し振りにお父様が来たから、私の息子と娘を会わせようと思って呼びに来たのだけど、ベアトリーチェは私の顔を見るなり、どこかへ連れて行こうと手を引っ張るし。


「ベアトリーチェ。早くおじいちゃんに会いにいきましょ?」


「んん」


 ……まさか首を横に振るとは思わなかったわ。でも、それも仕方ないかしらね。お父様とベアトリーチェが最後に会ったのは2年前の親善戦の時だし。あの時はベアトリーチェはまだ生まれて間もない時だったから覚えてないわよね。


 それに、ヴィクトリアも来ているみたいだから、私の子供たちを早く見せてあげたいのだけど。


「……ん?」


 ベアトリーチェはようやく歩くのをやめて立ち止まった。そういえば、兵士からスザンヌと2人で庭で遊んでいるって報告があったわね。庭で何か見つけたのかしら?


「……ん? ……ん?」


 ベアトリーチェは何かを、いや、誰かを探すように首を横に振る。ここに誰かいたのかしら? でも、誰もいないわね。


 ベアトリーチェは数歩歩いては、立ち止まって、また別の方向を向けば数歩歩く。それを繰り返しながら誰かを探す。


「スザンヌ。ベアトリーチェは一体誰を探しているの?」


「は、はい。お嬢様はここで出会った男の人を探しているのだと思います」


「男の人?」


 スザンヌの言葉に私に付いている侍女たちが騒つく。


「その男は危険ではなかったの?」


「えっ? あ、はい、大丈夫だと思います。左腕に腕章を付けていましたから。それに兵士さんたちも何も言いませんでしたし」


 腕章といえば、アルバストから親善戦で来ている人たちが付けていたわね。それならアルバストの関係者かしら?


「おかしゃま。いない……」


 見つからないとわかったのだろう。ベアトリーチェはとぼとぼと私のところまで戻って来た。私はそんなベアトリーチェを抱き上げて


「ベアトリーチェ。お母さんが探しておいてあげるから、今からおじいちゃんに会いに行きましょ?」


「……ん」


 ベアトリーチェは渋々ながら頷いてくれた。私は侍女の1人にスザンヌから特徴を聞いて探すように言っておく。腕章を付けているならすぐに見つかると思うけど。


フローゼ・・・・様。そろそろ」


「ええ、行きましょう。さあ、ベアトリーチェ。おじいちゃんに会いに行きましょうね」


「ん」


 さてと。早く戻ってお父様に会わせなきゃ。それにヴィクトリアからバカ弟の話も聞かないといけないしね。

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