黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

97話 エリシアと……(2)

「さて、どこに行こうかしら? レディウス?」


「どこに行きましょうかね?」


「まあ、どこでもいいわ。さあ、エスコートお願いね?」


 そう言い俺の腕を自分の腕に巻きつける様に組んでくる姉上。ハタから見れば確実に恋人同士と思われる格好になっている。


 家を出てから馬車に揺られて10分ほど。王都に着いた俺たち。さて、ここからどうしようかと悩んでいたら姉上にそんな事を言われる。


 ……エスコートかぁ〜。俺、そういうの得意じゃないんだよな。前にロナの服を見繕うために回った時も、ロナに引っ張られるまま服屋を見て回って、何故かロナが俺の服を選ぶという謎な状態になったりしたしな。


「やっぱり俺がエスコートしなきゃダメ? あまりそういうところ知らないのだけど……」


「ダメ」


 姉上に一応尋ねてみたが、笑顔で即答された。仕方ない。腹をくくるか。


「……わかりましたよ、エリシア。頑張ってエスコートしますよ」


「ふふふ、楽しみにしているわよ、レディウス」


 そしてデートが始まった。まず向かったのは雑貨屋だ。雑貨屋で色々な小物などを見ていく。その中で気が付いたのが、どうやら姉上は小動物が好きらしい。


 さっきから、動物の絵柄が描かれた食器や猫や犬の置物に目を引かれている。そういえば、さっきの家にいた時もロポと楽しそうに触れ合っていたな。


「あね……エリシアは動物が好きなのか?」


「ええ、大好きよ。さっきのロポちゃんだっけ? あの子もふわふわもさもさで可愛かったわね」


 そう言って、動物の置物を見ていく姉上。姉上は置物を手に持って、どれが可愛いとか、これはかっこいいとか色々と話をしながら見ていく。


 その次は服屋だ。服屋では姉上が選んだ服を、何故か俺が着ていくという、前にロナと来たときを思い出させる様な状態になった。


 だけど、俺が着替える様子を見て楽しそうに笑っている姉上を見たら、やめさせる様な事は言えなかったので、俺は延々と姉上が持って来た服を着ては脱いで、着ては脱いでと繰り返していた。まあ、それで姉上が喜んでくれるなら良しとしよう。


 俺の着せ替えが終えると、次は姉上の番だった。姉上が自分が良いと思った服を選んで着替えて、俺に良いかどうか確認してくるのだ。語彙が少な過ぎてあまり上手く褒めることが出来なかった。


 姉上はとても綺麗なので、どの服を着ても似合ってしまう。店員の女性も、姉上が着替える度に感嘆の声を出す。


 かなりの数を試着したのだが、結局買ったのは3着ほど。俺が払うと言っても、あまり持っていても運ぶのに大変だから良いという。しかもその3着も、店員さんオススメや、高価な物ではなくて、俺が似合っていると言った服の内の3着だった。


 もっと良いやつとかあったのにその服で良いのか尋ねて見たら、この服が良いと言われたので、俺はそれ以上は何も言わなかった。


 その頃には丁度昼時のいい時間帯になっていたので、俺と姉上は昼食を食べに行くことになった。この辺りには、姉上が学園に通っていた頃によく来た店があるらしく、そこへ行く事になった。


「いらっしゃ……あれ、エリシアちゃんじゃないかい。久し振りだねぇ!」


 その店の名前は「小麦亭」という名前の店で、中に入ると恰幅の良いおばさんが姉上に対して親しげに話しかける。


「お久しぶりです、マーガリンおばさん。2人大丈夫かしら?」


「ああ、丁度2人席が空いているよ……おや、見ない顔だねぇ? 誰だい?」


「彼はレディウス。私の腹違いの弟になるわ」


「初めまして、レディウスと言います」


「これは丁寧にありがとうね。私はマーガリン。この店の女将だよ。この店は私と旦那でやっていてね、エリシアちゃんの弟ならいつでも歓迎するよ」


 そう言い、俺の背中をバシバシ叩いてくるマーガリンさん。俺とエリシアは苦笑いするしかなかった。何でも、昔マーガリンさんがスリにあった時に姉上が助けたらしい。それからこの店の味に惚れた姉上が、たまに通う様になってからの仲と言う。


 マーガリンさんに2人席まで案内されてから、姉上のオススメを注文して、姉上と2人で料理を待っていたら


「おう、そこの姉ちゃん。俺らのところで楽しくお話しない?」


 と、隣の席に座る20代後半ぐらいの男が、姉上に話しかけて来た。その席には他に3人男がいて、全員が何かしらの武器を持っている。格好からして冒険者だろう。


 こんな真っ昼間から酒飲んでやがる。話しかけて来た男も、顔を赤く染めて楽しそうに笑ってやがる。こいつも酔ってやがるな。


「いえ、私には連れがいますので」


「おいおい、そんな寂しい事を言うなよぉ〜。そんな野郎より俺たちといた方が楽しいからよぉ〜」


 姉上は俺がいるので断ろうとしたが、男は聞く耳を持たない。その上他に2人の男も、はじめに話しかけて来た男に合わせて、話しかけて来る始末だ。


 後、もう1人の男はと言うと、俺の方を見て顔を真っ青にしていた。そして、仲間の男たちへ俺が誰なのかを教えている。


 どうやら、倍率がかなり高かった対抗戦の決勝戦のチケットを手に入れる事が出来た人らしく、俺が出ていた決勝戦を観ていて、俺の顔を知っていたみたいだ。


 だけど、酒を飲んでいて酔っている男たちは、酔いのせいで気が強くなっている様で、全員が立ち上がり、俺たちの元へとやって来る。まあ、そのうちの1人は一生懸命、仲間を止めようとして、立ち上がったのだが。


「何だよ、お前ビビってんのかよ? どうせ、学園の優勝て言ったって、ガキの遊びみたいなもんだろ? そんなところで優勝した奴に、日々実践で鍛えられている俺たちに叶うかよ! ほら嬢ちゃん。早く来いよ」


 酔っ払った男は、忠告する男の話には一切耳を傾けずに、姉上に触れようとした……が、触れる前に俺が男の手を掴む。


「おい、ガキ。てめぇ、痛い目を見たくなかったら手を離しやがれ!」


 そう言って、俺の手から離れようと男は暴れるが、俺は魔闘拳をしているので、そう簡単には離れない。逆に俺が、握っている力を入れていく。


 男も、全く微動だにしないどころか、逆に痛くなって来た腕を見て、顔色は青くなり冷や汗を流す。こんなもんかな。


 俺は顔色は青くしている男の手を離すと、男は尻餅をつく。そのまま、握られていた右腕をさすりながら俺を見上げて来る。


 その時に俺は、殺気を飛ばしながら


「汚い手で、エリシアに触れるなよ」


 と、脅しておいた。男たち4人ともに殺気を飛ばしたので、4人ともに顔面蒼白になり、お金だけ置いて、店を出て行ってしまった。


 俺は男たちが出ていくのを見送ってから、座って姉上を見てみると、姉上は俺見ながらニヤニヤとしていた。


「……なんですか?」


「いえ。レディウスは本当な強くなったなぁ〜、と思ってね」


 そう言い俺の顔を見ながら微笑む姉上。俺は少し居心地が悪かったので


「そりゃあ、昔に比べたら少しぐらいは強くなったとは思いますよ。それ相応の努力はして来たつもりですから」


「ふふ。レディウスは昔から強かったわよ。確かに力とかは無かったけど、他の誰よりも心は強かったわ」


 昔を思い出しながら懐かしそうに語る姉上。改めてそう言われると恥ずかしいな。


 それから程なくして、姉上のオススメの料理が運ばれる。しかもなんと、あの酔っ払いを追い払ったお礼に食事代をタダにしてくれた。


 あの男たちは今までも何度か客に迷惑をかけていたらしく、マーガリンさんも困っていたらしい。いくら言っても聞かないし、いくらマーガリンさんでも、冒険者には勝てないので、強く言えなかったそうだ。


 それから、姉上といろいろ話をしながら、昼食を食べ終えて、小麦亭を後にする。マーガリンさんにまた来てね、と言われた時の姉上の悲しそうな顔が忘れられなかった。


 それから、再び色々な店を物色して行って、気が付けば夕方だった。


「あら? もうこんな時間だったのね。レディウス。最後に行きたいところがあるのだけれど、良いかしら?」


「ん? 構わないけど」


 俺が了承をすると、姉上に腕を引っ張られる。一体どこに連れていくつもりなのだろうか? 表通りの店と店の間の細い道を抜けて、入り組んだ道に入り、歩く事10分ほど。俺が連れてこられたのは、4階建ての店だった。しかし、ただの店では無かった。


「……姉上。ここって……」
  
「呼び方が戻っているわよ。さあ行きましょう!」


 姉上は俺を引っ張っていこうとするが、この店って……うおっ、姉上身体強化使ってやがる!? 俺はその店に入らないように何とか踏ん張って見せたが、姉上にはかなわなかった。


 いや、本当の本気でやれば勝ったのだろうが、姉上に本気を出す訳にもいかずに、連れてこられてしまった。その場所は


「……姉上、どうして連れ込み宿なんかに入ったのですか?」


 そう、姉上に連れて来られたのは連れ込み宿だった。男と女が、あんな事やこんな事をする場所だ。俺は姉上に尋ねるが、姉上は俺の言葉を無視して、服を脱ごうとする。さすがにそれは力づくでも止める!


「姉上! やめてください! どうしてこんな事をするのですか! もしかしてバルトの助命とかですか? もしそうならバルトの運命はかわりません。既に国王陛下の命は下ったのですから。ですから……」


「違うわよ」


「えっ?」


「私があなたをここまで連れて来た理由は、そんな事じゃないわ。それにバルトに関しては私も許せないもの。身をもって償うべきだわ」


 そう言って振り返った姉上は、服を脱いであり、姉上の綺麗な肌を隠すのは既に下着だけだった。俺は慌てて視線を逸らす。そのまま姉上を見ていたら、深い谷魔をじっと見てしまうからだ。


「そ、それならどうしてここに?」


「そんなの決まっているじゃない。彼氏とのデートの最後にする事といったらこれしかないでしょ?」


「で、でも、これはそういう振りですよね。だからそこまでしなくて良いと思いますよ?」


 俺がそう言うと、姉上は悲しそうな顔をして俺を見てくる。


「振りで、弟とデートをしたりする訳ないじゃない。本当に思ってなかったら」


「えっ? それってどう言う……むぐっ!」


 俺は姉上の言葉の真意を尋ねようと思ったら、気が付けば姉上の綺麗な顔が目の前にあって、俺の口は姉上の口によって塞がれてしまった。


 そのとき姉上が抱きついて来たため、そのまま後ろへ倒れると、そこにはベッドが。


 姉上はそんな事、気にした様子もなく、俺の口を貪るように熱い口づけをしてくる。俺はベッドの上に倒れているため、俺の体の上に跨ぐようにして。そして、呼吸が苦しくなったのか、ようやく口を話す姉上の顔は熱に浮かされた様にとろんとしていた。


「はぁ……はぁ……れでぃうすぅ」


「あ、姉上、ど、どうしてこんな事を?」


 正直に言うと、俺もここまでされればさすがに気がつく。姉上が俺の事をどう思っているか。だけど、聞かずにはいられなかった。


「……そんなの決まっているじゃない。レディウスの事が好きだからよ」


 そう言って、俺の事を見つめる姉上の目から涙が溢れる。


「あなたが死んだかもしれないって聞いた時、私の目の前は真っ暗になったわ。もう二度とあなたに会えないと思ったら、悲しくて涙が止まらなかったもの。その時に初めて気が付いたの。ああ、私はレディウスの事が好きなんだって」


「姉上……」


「……それから生きているとわかってとても嬉しかった。その後にあなたと話せて、涙が出るほど喜んだわ。でも、その時は既に王子と婚約していたから、あなたにこの思いを伝えることは出来なかった」


「……」


「でも、昨日の事で婚約は解消された代わりに、またあなたと離れ離れにならなければいけないと思ったら、もう我慢が出来なかった。だから、今日は絶対にここに来ようと思っていたの」


「そ、それは一体どう言う……」


「……私はレディウスの子供が欲しい。出来なくてもいい。レディウスとの思い出があるだけで、私は辛く感じる事なく生きていく事が出来る」


 そう言う姉上の目は真剣だった。そこまで、俺の事を思ってくれていたんだな。それなのに俺は姉上に心配ばかりかけていて、全くダメな弟だな。俺は姉上の腕を掴む。


「れ、レディウス?」


 困惑する姉上……エリシアの腕をそのまま引っ張って、ベットに寝転がす。エリシアはびっくりしながらも、ベットに寝転がり俺を見上げてくる。その上に俺が跨る。さっきとは逆だな。


「れ、れでぃ……うむっ! あむっ……あぁん!」


「ぷはぁ……エリシア。今日は1日俺の彼女だったよな? 昔から優しくて、強くて、ずっと尊敬して来た大好きな姉上……エリシアにそんな事を言われたら我慢出来ないじゃないか」


「で、でも、さっきは反対的だったのに、ど、どうして?」


「そんなもの、急にあんな事をされたら、何か考えがあるのかとか疑ってしまうに決まっているだろ? でも、エリシアの気持ちを聞いて変わった。エリシア、今日は俺の女だ」


 さっきのエリシアの言葉を思い出す。俺の事を本当に好きだと思っていなかったら、彼氏なんかに誘うわけがないって。ああ、本当にその通りだ。俺もエリシアの事を思っていなかったら、この役を受けなかっただろう。


 周りからすれば俺は最低な事をしている。その場の流れに身を任せているのもわかっている。だけど、俺は姉上を、エリシアを1人の女性として今から愛す。


「覚悟しろよ、姉上。俺、我慢出来ないからな」


「うん、来てレディウス。愛してる」


 涙を浮かべながらも笑みも一緒に浮かべ俺に向かって手を伸ばしてくるエリシア。俺はそんな彼女に抱き着く。


 その日は、俺とエリシアは姉弟ではなくて、1人の男と女として夜が更けるまで愛し合った。温もりを忘れない様にしっかりと……。

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