黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

95話 朝の訪問者

「ふわぁ〜、よく寝たぁ〜」


 俺はベッドから体を起こし体を伸ばす。今日はさすがに学校に行かなければ。一昨日と昨日はロナたちを助けに行っていたので行けていないからな。


 昨日は、俺が国王陛下にアルノード男爵として爵位を賜ってお開きとなった。バルトの死刑は明日になるらしく、姉上たちはそれを見届けてから王都を出るようにすると国王陛下は言っていたな。


 最後に俺と会えるようにはしてくれると言っていたから、今日でも会えるかな。


 クルトに関しては、昨日今日はセプテンバーム公爵の家で治療してくれると言ってくれた。こちらも有り難かったのですぐに了承した。本当に助かる。早くても明後日には治療が終わると言っていた。


 男爵領には、俺が学園を卒業するまでは代官を派遣してくれるらしい。そこで、俺が唯一知っている文官、クリスチャン・レブナレスについて尋ねてみた。


 国王陛下は知らなかったが、レイブン将軍が知っていた。どうやらまだ牢屋にいるようだ。俺がクリスチャンさんが閉じ込められている理由を説明すると、国王陛下が直ぐに出る手配をしてくれた。これでその日のうちには出られると言う。


 俺はその人を代官にお願いした。あの牢屋に入った時に少し話しただけだったが、あの人の知識は中々だった。それが活かせるかどうかはまた別の話だが、上司の悪事を見つけ出す手腕はさすがだと思うし、優秀なのだろう。


 国王陛下もクリスチャンさんが大丈夫な人物が調べてから送ってくれるそうだ。有難い。俺も一回ぐらいは領地に行っておいてほしいそうだ。そのうち行こうか。


 トルネス王国との親善戦は予定通り行うそうだ。だから4日後の出発までに準備をしておかないといけない。この3日間は本当に忙しかったからな。何とか用意しなければ。


 話し合いが終わった後はセプテンバーム公爵が村まで馬車を手配してくれた。ブランカはセプテンバーム公爵に返した。返したのだが、セプテンバーム公爵が、爵位を賜ったお祝いに譲ってくれると言ってくれた。


 俺自身もブランカを気に入っていたからその申し出は有り難かったので直ぐに返事をした。俺が男爵領に行くまでは、セプテンバーム公爵の屋敷で預かっていてくれるそうだ。助かる。


 村に帰って来る頃にはもう日は暮れていた。村に帰ると、ガラナに家まで引っ張られた。中にはマリアナさん、フランさん、ロナが席に座っており、机の上には豪華な食事が並んでいた。


 どうしたのか尋ねると、ロナたちが助かったお祝いにフランさんがお金を出して食材を買って来てくれたそうだ。何だか申し訳ないので、俺も払うと言ったが、何故か固辞された。


 俺に対するお礼も込めているそうで、払ってもらうのは申し訳ないと逆に謝られたほど。俺は国王陛下から爵位と一緒に金貨も貰ったから懐が暖かいのだが、そう言うことなら頂くとしよう。


 みんなで楽しく夕食を終えた後は、フランさんはガラナのところで泊めてくれるそうなので、俺とロナは家に帰った。


 それから体を洗ってから眠ろうとベッドに入ったのだが、ロナが部屋にやって来たのだ。


 俺たちが住む家は小さいのだが、家族で住めるようになっており、食事をみんなですることが出来る部屋が玄関にあり、一回は台所と部屋が一つ。この部屋はクルトが使っている。


 ロポは玄関付近に加護を置いて、中に布を敷いて上げるとそこで寝ている。番犬ならぬ番兎だな。


 それから二階が付いており、ここには俺が一つ部屋を使い、ロナも一つ部屋を使っている。本当なら自分の部屋で寝るはずなのだが、昨日に限ってはどうしても一緒に寝たいと言って来たのだ。


 まあ、俺も断る理由もなかったので、直ぐに了承したら、ロナは嬉しそうに布団の中へと入って来て、俺にピタリと引っ付く。


 何でも、ロナは俺の温もりが好きだそうだ。それからロナのご所望で、頭を撫でてほしいと言うので、頭を撫でて上げると、いつの間にか眠ってしまっていた。


 まあ、色々と怖いも思いもしただろうし、疲れただろうから仕方ないか。俺も可愛いロナの寝顔を見ながら眠りについた。


 そして今は、そんなロナの隣で目を覚ましたと言うわけだ。ロナは相変わらずぐっすりと眠っている。可愛い寝顔をしながら。


 俺はそんなロナを見ていたら、好奇心を抑えきれずに、ロナの柔らかそうな頰をつついてみると


「……ふへへぇ〜……」


 と、嬉しそうに笑った。可愛い。ロナの俺に対する気持ちはわかっているつもりだ。俺もロナは大切な存在になっている。でも、ロナの事をヘレネーさんが認めるかはまた別の話だからなぁ。


 一夫多妻は認められているとしても、女性の中には許してくれる人とくれない人がいるという。ヘレネーさんが認めてくれるかどうか……。俺次第だな。


 そんなヘレネーさんとも、離れてもう1年が経つのか。あまりにこの1年が濃いかったのでもっと長く感じる。早く会いたいなぁ、と、そんな事を考えていたら


「……むぅ……」


 ロナに脇腹を捻られた。地味に痛いんだけど。もしかして目を覚ましたか? と思い見ても眠っているみたいだ。なんだ? 俺が他の女の人を考えていたのがわかったのかな?


 試しにロナの事を考えてみる。ロナ可愛い。ロナ可愛い。ロナ可愛い。すると


「……えへへぇ〜……」


 と笑う。次にヘレネーさんの事を考えてみる。ヘレネーさん可愛い。ヘレネーさん可愛い。ヘレネーさん可愛……痛い痛い! 脇腹を捻るなって! 絶対起きているよな、これ!? だけど、なんだ頰をつついても目を覚まさない……謎過ぎる。


 ……はぁ、学園に行く準備をするか。俺はベッドから起きて、顔を洗い、服を着替える。それから俺の分とロナの分の料理を準備していたら、玄関の扉が叩かれる。 


 ……こんな朝早くに誰だ? ロポは顔を上げて扉の方を見るが直ぐに寝転がるので、大丈夫だとは思うが。もしかしてクルトが早く帰って来たのだろうか? そう思いながら扉を開けると、そこには


「……おはよう、レディウス」


「……姉上」


 姉上が立っていたのだった。

「黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く