黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

77話 対抗戦(7)

「……」


「……」


 氷の城壁に次々と魔法がぶつかる音。フューリの魔法によって、かなりの温度差で蒸発する溶けた水の音。


 フォックスの槍とガウェインの盾がぶつかり合う音。


 氷の横から走り抜けてくるアリッサに、短剣を両手に持ち迎え撃つために走り出す2人の足音。


 周りの観客の声援や罵倒。色々なものが入り混じった声。


 様々な音が聞こえてくるが、俺とランベルトは構え合ったまま動かない。その上どちらとも声を出さずに、相手だけを一身に見据える。


 この緊張感は久し振りだな。死にかけた戦争でも味合わなかった。あの時とは別の、一流の戦士との死合いのみに感じられる感覚だ。


 昔はミストレアさんやレーネさんが相手をしてくれる時は感じる事が出来た。どちらの覇気もぶつかり、その空間だけが別の物になって行くような感覚。


「何をしているランベルト! いつも通りさっさと倒せ!」


 ……空気読めを馬鹿野郎。せっかく良い感じに2人ともが集中力を高めていたのに、横入りしやがって。ランベルトの顔を見ると、ランベルトも残念そうな雰囲気を出している。


「行くぞ」


 ランベルトは一言だけ発して、走り出す。そういえばこいつ、教室でも話しているところを見た事がないな。人見知りなのだろうか?


 俺はそんな事を考えながら、ランベルトのハルバートを避ける。身体強化をしているおかげで、ランベルトはハルバートを片手で軽々と振り回してくる。


 右斜めからの振り下ろしを、体を逸らして避ける。ハルバートを右手で振り下ろしているランベルトは、直ぐに左手に持ち替えて、横薙ぎを払ってくる。


 剣でなんとか受け止めるが、かなりの威力だ。全部受け止めてしまうと、剣がもたないので力を逃すように後ろに跳ぶ。


 しかし、ランベルトもそれだけでは終わらない。ハルバートの穂先に魔力を集めて俺の方へ向けてくる。あの魔力の感じは……風か!


「スパイラルブレイブ!」


「ちっ!」


 ランベルトが突きを放った瞬間、ハルバートの穂先から螺旋状の風の突きが放たれる。あいつ攻撃魔法使えなかったんじゃねえのかよ、ガウェイン!


 俺は横に転がるように避ける。元いた場所の俺の胸部分に風の突きが通り過ぎる。俺はその余波で、余計に転がる。俺の横を通り過ぎ、数メートルほど進んだら消えてしまった。


 俺は膝をつきランベルトを見る。ランベルトは振り下ろすように持ちながら走ってくる。今度はハルバートの斧の刃の部分に魔力が集まっているな。あの感じは火魔法。


「バーンスラッシュ!」


 俺は腰のもう一本の剣を抜き二本ともに魔闘装をする。真正面からはじき返してやる!


「烈炎流、花火二連!」


 ハルバートの斧部分に二本の剣をぶつける。ハルバートと触れた瞬間、俺の腕にかなりの衝撃が走る。魔闘拳をしていなければ痺れていたな。


 だが俺の目的通り、ランベルトのハルバートをランベルトの頭上に打ち上げる事に成功する。上手くいけばランベルトの手から離れさせたかったが、そこは身体強化で耐えたようだ。


 だが、ランベルトの顔は驚きに染まっている。まさか押し負けるとは思わなかったのだろう。


 今度は俺が攻める番だ。俺は直ぐに態勢を立て直し、二刀の剣を構えてランベルト迫る。ランベルトは打ち上げられた衝撃で、まだ立て直せていない。


「はぁっ!」


 俺はランベルトに切りかかる。ランベルトは辛うじてハルバートで防ぐが、防戦一方だ。俺は全体的に攻撃をするが、バッチを狙うのも忘れない。


 ランベルトは、致命傷になりそうな攻撃とバッチだけは確実に守ってくる。他のかすり傷程度を無視して。このまま押し切れるだろうか? そう思った時


「きゃああ!」


 叫び声が聞こえた。声のする方を見れば、ガウェインとフォックスが戦っており、ヴィクトリアとティリシアが魔法を発動している。そしてその向こうでは、お腹を押さえながら、地面に横たわっているクララと、ゆっくりと歩くアリッサの姿があった。


「よそ見したな?」


 俺がクララの方に気を取られていると、ランベルトがハルバートで薙ぎ払ってくる。俺は右側の剣でなんとか防ぐが、よそ見をしていたツケが来たようだ。耐え切れずに吹き飛ばされる。


 だけど今はそれどころではない。俺は直ぐに態勢を立て直し、顔を上げると、ヴィクトリアたちに迫るアリッサが見える。クララはバッチを壊されたようだ。


 ティリシアは剣を抜くが、一瞬気をそらしたせいで、氷の城壁に流していた魔力が途切れる。そしてフューリの熔炎魔法がぶつかり、崩れる氷の城壁。


「これで終わり。クリムゾンメテオ」


 フューリは上空に巨大な岩を作り出す。直径で10メートルほどだろうか。表面はグツグツとマグマが溢れ出し、かなりの熱を持っている。それを放つ気か!?


 近くにいたアリッサにフォックス、ランベルトはランバルクの近くまで下がり、フューリがそれを確認すると、上空にある隕石をヴィクトリアめがけて落としてくる。


「ガウェイン! 倒れているクララを場外へ!」


「わ、わかった!」


 クララはどうやら気を失っているようで、微動だにしない。そこにこの魔法を喰らえば、怪我を負う事になるだろう。ガウェインは直ぐにクララの下に駆け寄り、クララを背負う。俺はその間にヴィクトリアたちの下まで戻る。


「ヴィクトリア、ティリシア! 2人は自分たちの周りに防御魔法を出来るだけ強固に張るんだ!」


「でも、レディウスはどうするのですか!?」


「俺はあの魔法を撃ち落とす!」


「「……はっ?」」


 後ろでヴィクトリアとティリシアの素っ頓狂な声が聞こえるが、今は気にしていられない。俺は左の剣を鞘に戻し、右手の剣だけを持って構える。


「纏・真」


 全身に魔力を限界まで張り巡らせる。ゴゴゴッ! と音を立てながら落ちてくる隕石を見ながら、集中する。ミスれば、俺たちに直撃、大怪我をするが、成功すれば、好きをつけるだろう。


 俺は右手を限界まで引き絞り、左手で的に向かって狙いを定めるように合わせる。


「旋風流奥義」


 右足も後ろに下げると、ジャリっと音がする。隕石と距離は20メートルほど……15……10……5……ここだっ!


「死突!」


 限界まで引き絞った右腕を解放する。剣の切っ先が隕石にぶつかり、隕石は爆発した。俺は爆風を背に受けながら走り出す。ヴィクトリアたちは防御魔法を発動しているので、爆発の余波を防ぐには十分だ。


 俺は敵陣に向かう。狙うはフューリだ。ランバルクでも良いのだが、ランバルクの前にはアリッサとランベルトがいる。だが、フューリは魔法を発動するために全体から一歩前に出ていた。


「えっ!?」


 爆風の中から出て来た俺を見て驚くフューリ。他のみんなが固まる中、ランベルトだけが動き出すが、もう間に合わないよ!


「せいっ!」


 俺は無防備に立ちつくすフューリ目掛けて、剣を振り下ろす。フューリのバッチは二つに割れて音を立てながら地面に落ちる。


「……お前、どうやって」


 フューリはその場で座り込み、ランベルトは悔しそうな顔をしている。これで4対4。振り出しに戻ったな。

コメント

  • ノベルバユーザー360177

    好きをつける…?隙じゃなくて…?

    0
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