黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

49話 停戦

「うぅっ……こ、ここ、は?」


 目を開けてみると知らない天井があった。体を動かそうにもあちこち痛みが走り、体を動かすのが億劫になる。しかし、周りを確認したかったので、何とか起き上がろうとすると


「れ、レディウス様! 起きられたのですね!?」


 どこからとも無く声がする。声のする方を見ると、この部屋の入り口からロナが走ってくる。足下にはロポもいる。


 そして涙を流しながら俺に抱きついてくるロナ。っぅ! 体中に痛みが走るが、何とか我慢する。ロナには心配かけてしまったようだからな。


「ごめんなロナ。心配かけてしまって」


「いえっ! いえっ! こうして目を覚まして下さっただけでも私は嬉しいです!」


 そう言いながら頭をグリグリと押し付けてくるロナ。普段はピシッとしているが、こうして2人っきりになるとこんな風に甘えてくる事がある。


 ……お腹部分に柔らかいものが当たっている。この半年でかなり成長したからな。しかし、このままでは意識してしまうので、泣く泣くロナを引き離す。


 ロナが悲しそうな表情を浮かべてくるので、それを誤魔化すように俺が寝ていた間の事を尋ねる。


 俺はどうやら1週間近く眠っていたらしい。あちこちが重傷で熱も出ていたらしく結構危険だったとロナは言う。


 ポーションも使ったりしたのだが、1人に使える量は限られているし、治癒魔法師も魔力量が限られている。怪我人は俺だけではないしな。


 それから戦争は現在停戦状態らしい。なんでも、俺たちが奇襲を受けた山、ニート山が、アルバスト軍の放った魔法で山火事になり、大惨事になったらしく、ブリタリス王国はその鎮火に見舞われ戦争どころでは無いと言う。


 アルバスト軍がその隙に、近隣の村や街を占拠。これ以上はまずいと思ったブリタリス王国は停戦を要求。アルバスト軍がそれを了承し停戦した。


 そして今俺たちがいるのが、ニート山から少し離れた街にあるパルムと言う街だ。人口3千人程の街で、ここで待機しているみたいだ。さすがにアルバスト軍全員が入る事が出来なかったので、怪我人だけの様だが。


 俺が眠っていた間の事をロナから色々と聞いていると、突然扉が叩かれる音がする。ロナが扉を開くと


「目が覚めたかな?」


 と入り口から見知らぬ男が護衛を連れて入って来た。茶髪の偉丈夫だ。見た目は30代程で、身に付けている鎧や雰囲気からしてこの人が。


「私の名前はケイネス・トラノフだ。今回の軍の指揮を受け持っている」


 やはりケイネス将軍だったか。ロナはベッドの側に立って、ロポは俺の足の上に乗ってゴロゴロし始めた。


「申し訳ありません。このような状態でお出迎えして」


「何、構わんよ。君には色々と恩があるからね」


「恩、ですか?」


「ああ。君のおかげでバラバラになった軍も何とか立て直すことが出来た。あのままでは被害がかなり出ていたからね」


 話を聞くと、あの奇襲で1千人近くはやられたらしい。まあまあの被害だろう。それ以上にブリタリス軍には被害が出たそうだが。それが件の山火事だ。


 奇襲をかけたブリタリス兵はアルバスト軍が放った魔法と山火事に巻き込まれ殆どが亡くなり、山火事を止めようとするブリタリス軍に後ろから奇襲したりして数を減らしていったとケイネス将軍は笑いながら言う。恐いなおい。


「でも、そんな事をどうして俺に? ただの一般兵ですよ?」


「何を言っているだい。道幅が狭かったからと言ってもあれ程の人数を止める能力。黒髪でも侮れない程の力を持っている君を優遇しないわけないよ。まあ、これは軍人である私の考えだがね」


 そう言うケイネス将軍。そこまで評価してもらえるのは有難い。この街では終戦に向けての話し合いが行われているらしく、それが終わるまでは待機だそうだ。


 ケイネス将軍の予想だと、ニート山までの割譲で話が決まるだろうと言う。それまでの街は全て抑えたらしいから。


「それじゃあ、お大事に」


 ケイネス将軍はそう言って出て行ってしまった。そしてケイネス将軍が出て行ったのを確認すると、ロナがベッドに腰をかけてくる。


「どうしたんだ、ロナ?」


「いえ、レディウス様の温もりを感じているんです。えへへ、暖かいです」


 ロナは俺の腕を抱き締めそんな事を言う。変な奴だなぁ。そう思ったが、可愛らしいので俺はロナの頭を撫でてあげる。その日はロナとロポと部屋でゆっくりと過ごすのだった。


 その日から1ヶ月後。ようやく停戦が決まり俺たちは帰る事になった。俺もこの最初の1週間ほどで歩くのには苦にならないぐらいまでは回復して、それからは普通に剣が振れるまで戻った。


「いや〜、すごい活躍っスねレディウスは」


「ああ、兵士たちの間ではお前の話で持ちきりだぞ」


 死壁隊の奴らと帰る準備をしていたら、グレッグとガラナがそんな事を言ってくる。どう言う事だ?


「だって、レディウスだけで隊長クラスを2人倒して、その上奇襲された時に1人で殿を務めてみんなを救ったって話が、みんなで話題になっているッスよ」


 へぇ〜、そんな話が出ているのか。しかし、それはそれで恥ずかしいな。ロナは当然です! と胸を張って嬉しそうだし、クルトはさすがだぜ! と喜んでいるし。


 そんな風に、みんなでワイワイ話しながら俺たちは帰る準備をして、アルバスト王国へ帰路に着くのだった。


◇◇◇


「くそっ! どいつもこいつも俺を舐めやがって!」


「おい、ウィリアム。荒れるのもそこまでにしておけよ。外に聞こえるぞ?」


「……グラモア。お前は悔しくないのか? 俺たちも死ぬ思いをしたのに、あんな目に遭ったのは俺たちのせいだと兵士たちは言っているんだぞ!」


「……まあ、間違いではないからな」


「なんだと!」


「まあ、落ち着いて下さい、ウィリアム。そんなもの言わせておけば良いんです。そんな評価、今後の行動で幾らでも変わるのですから。それより『俺』になっていますよ」


「ゴホン! それもそうだな。今回は運が悪かっただけだ。それに戻ったらエリシアに会えるしな」

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