黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

48話 アルバスト・ブリタリス戦争(4)

 この細い山道の中だ。一度に攻めてくるとすれば10人ほど。それが何度も続くだけ。そう考えれば少しは楽かな? 森を利用して回り込もうとしてくる奴にも気をつけなければ。


 俺は後ろにいるロナを庇うように立つ。そのまた後ろからクルトが大剣を構えて走って来やがった。他の奴らと逃げれば良かったのに、あの馬鹿は。しかし、そんな事を考える間も無くブリタリス兵が迫ってくる。


「殺せぇぇえ!」


「ちっ! ロナ! クルト! 下がっていろ!」


 俺は迫り来るブリタリス兵を切り殺す。一太刀で5人の首が飛ぶ。倒れた兵士の後ろから新たに槍を突き出してくる兵士。


 槍を剣で切り落とし、唖然とする兵士たちを切っていく。纏・真。コカトリスとの戦いの時に出来た技だ。技といっても体全体の魔力を限界まで発動しただけだけどな。だけど


「せいっ!」


 魔闘装で剣の刀身を伸ばしたため敵をまとめて切り殺し、魔闘拳をした左手で敵の剣や槍を防ぐ。魔闘眼した目で相手の動きを予測し、魔闘脚した足で素早く動く。


「な、なんだこいつはっ!?」


「ちっ、こいつなかなか強いぞ!」


 ブリタリス兵は怒声を撒き散らしながら、次々と襲い掛かってくる。俺たちは少しずつだが下がりながら敵を切る。


「死ね!」


 槍を突き出してくるのを避けそれを掴み引っ張る。男は引っ張られ出て来たところを剣で切る。奪った槍をその隣にいた兵士に投げ突き刺す。


 投げると同時に走り出していた俺は、槍を避けて2人首を切り落とす。


「せいやぁ!」


 剣で切りかかったきたのを弾き腹を搔き切る。兵士は零れ落ちる臓物を掬うように倒れていく。


 俺はそのまま隣にいた兵士に切り掛かり、剣を奪い、それを別の兵士に投げる。剣が顔に突き刺さった兵士はその勢いで首が飛ぶ。


 これで30人ぐらいはやったか? 俺がニヤリと笑いながらブリタリス兵たちを見てやると、ブリタリス兵たちは一歩下がる。


 よし、少しでもビビってくれれば逃げれる確率が高くなる。そんな時


「何故こんなところで止まっておるのだ貴様たちは!?」


 ブリタリス兵の後ろから馬に乗った兵士がやってくる。他の兵士に比べて煌びやかな鎧を着ている。隊長クラスなのか?


「ロン隊長。こ、こいつが強くて中々……」


「たった1人に足止めされて、それでも貴様らはブリタリス兵か!? こんなところで時間をかけよって! 儂が叩き潰してやるわ!」


 そのロンとか呼ばれた隊長は肩に担いでいた大槌を構える。そして馬を走らせてくる。こんなやつと真正面から相手するだけ無駄だ。俺は


「風切」


 斬撃を放つ。放つ相手はロン……では無くて


「ヒヒィン!?」


 ロンが乗る馬だ。ロンが乗っていた馬は、突然の足の痛みに驚き、走っている途中に転倒してしまう。もちろん、馬の背に乗っていたロンもだ。


 ロンは背中を強く打ち付けたようで咳き込んでいる。俺は直様駆け寄り


「ま……」


「待たねえよ」


 剣を振り下ろす。ロンの首は音がしたかもと思うぐらい呆気なく飛んでいった。その姿を呆然と見ているブリタリス兵たち。今がチャンスか。


「ロナ、クルト、走れ!」


 俺は直ぐに振り向き武器を構えながらも、俺を見ていたロナたちに叫ぶ。ロナたちも俺の意図に気が付いたのか走り出す。それから少しして正気を取り戻したブリタリス兵は、怒りを露わにして俺たちを追いかけてくる。


「くっ、やあ!」


「どらぁっ!」


 ブリタリス兵はほとんどが俺が相手をしているが、その横を通り過ぎてロナたちに襲いかかっていく奴もいる。2人は助け合いながらも何とか倒していくが、2人の体力も限界だ。そこに


「撃てぇ!」


 ブリタリス兵の指揮官らしき男が何かの指示を出す。そしてビュン! と風邪を切る音。目に映るのは俺目掛けて放たれた数十本の矢だ。


 今までの俺なら数本は切り落とせたけど残りは刺さっていただろう。だけど纏・真を使っている今なら


「はぁあ!」


 俺の体に刺さりそうな矢だけを剣で切り落とし、擦りそうな矢は魔鎧で逸らす。魔力で矢先を少し逸らすだけで矢は刺さらない。


 だけど、中々難しいなこれ。数本ミスって掠ってしまった。明水流矢流。そのままだが明水流は本当に難しい。


「ば、馬鹿な……」


「矢が当たらないなんて……」


 その事に再び茫然とするブリタリス兵。よしよし、また逃げるチャンスだ! 俺たちは再び走り出す。そこからはもう必死だった。


 矢が放たれれば矢流で逸らし、攻めてくれば立ち止まり敵兵を殺していく。もちろん、俺も無傷とはいかない。時間が経つにつれて身体中傷は増え、魔力もかなり減って来た。


 敵兵は全部で200人ほどは殺しただろうか。この狭い山道でなければ囲まれて終わっていたな。


「くそっ! こんなガキどもに! 魔法を放てぇ!」


 指揮官らしき男が再び指示を出す。今までは本軍用に温存していた魔法を俺たちに向かって放つ。様々な種類の魔法が俺たちに降り注ぐ。これはやばいぞ!


「クルト! 腰の剣を貸せ!」


 俺は大剣が無くなった時用にクルトの腰に下げさせていた剣を受け取る。鞘から剣を抜き両手持ちにする。ロナとクルトを俺の直ぐ後ろに走らせながら来させる。そして俺は


「はぁぁぁぁあ!」


 俺たちに当たるであろう魔法だけを切っていく。それはもう一心不乱に。特にロナとクルトに降りかかる魔法を。俺は致命傷になるものだけ。


 しかし、肩に風の刃が擦り怯んでしまった。その隙にロナたちに魔法が迫る。俺は直ぐにロナたちと魔法の間に入り込み魔法を切るがかなりの数だ。一度ずれると、少しずつ間に合わなくなってくる。


 左肩に火の球がぶつかり剣を落とす。左肩が火傷をしていてヒリヒリと痛いがそんな事を考えている暇がない。風の刃が脇腹を切り、水の玉が腹に当たる。石の礫が足に刺さり、光の矢が体に刺さる。


 纏をしているため致命傷にはなっていないが、それでも痛いものは痛い。魔法が止んだ頃には身体中傷まみれになってしまった。


「はぁ、はぁ」


「レディウス様!?」


「兄貴!?」


 後ろでロナたちが叫ぶが、痛みで意識が朦朧とし何を言っているかわからない。


「な、なんて奴だ……」


「あれだけの魔法を防ぐなんて……」


 火の球が直撃した左手はダランと垂れて、立っているのもやっとな俺を見て、畏怖の表情を浮かべるブリタリス兵たち。俺はまだ力の入る右腕をあげ、持っている剣の切っ先をブリタリス兵に向ける。そして


「来いよ、ブリタリス兵ども。ぶった切ってやる」


 俺のその言葉に再び一歩下がるブリタリス兵たち。そんな強がりな事を言っても結構限界なんだけどな。しかし、俺も天から見放されてなかった。何故なら


「レディウスを助けろぉぉお!!!」


「「「うぉぉぉおおお!!!」」」


 逃げたと思っていたアルバスト兵が戻って来たからだ。しかも戻って来たのは死壁隊だ。なんで戻って来た? 俺が尋ねる前に近くまで来たガラナが俺を担ぎ出した。


「さっさと引くぞ!」


 他の死壁隊は俺たちを守るように槍を構えながら立つ。あれはアルバスト軍から取って来たな。全員で100人にも満たない死壁隊だが、この山道ではそれでも耐える事が出来た。そして俺たちが何とか山道から抜けると


「全員左右に分れろ!」


 とグレッグが叫ぶ。俺はガラナに担がれているのでそのままで、山道から左右に分かれると


「魔兵隊、放てぇ!」


 ケイネス将軍が指示を出し魔法が放たれる。その数は数千にも及ぶ。魔兵隊をかなりの人数投入したのか?


「レディウスが時間を稼いでくれたお陰で、逃げ惑うアルバスト軍をケイネス将軍がまとめてくれて、立て直す事が出来た。お前のおかげだぞ!」


 興奮した様子でそう言うガラナ。かなりの魔法、しかも火の魔法を中心に放たれた事により、ニート山で山火事が発生。かなりのブリタリス兵が焼かれる事になった。


 俺はそれを見る事なく気を失ってしまったが。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品