黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜
47話 アルバスト・ブリタリス戦争(3)
「敵をのさせるな! 傷ついた奴は後ろに下がれ! 周りの奴は空いた穴を埋めろ!」
くそっ! 山に囲まれた細い道。両側の森から魔法を放ってくるブリタリス兵。その事に逃げ惑うアルバスト兵は格好の的となっている。俺たちは殿として追ってくるブリタリス兵と対峙する。
死んで行く兵士はみんな見捨てて。生き残った死壁隊もどんどんと数を減って100を切っているだろう。
何故こうなったか。それはここ最近の快進撃のせいだ。俺たちはアルバスト王国軍がブリタリス王国軍と戦争を初めて今日で5日目になる。
初日の戦い以降、アルバスト王国軍が全戦全勝した。当たれば敵は引いて、追えば逃げてと、明らかに誘っている雰囲気はあった。
しかし、その事に気分を良くしたウィリアム王子が、第1軍を率いて攻める事になったのだ。後で聞いた話だが、将軍のケイネス将軍は止めたらしい。ケイネス将軍も誘われているだろうから、弱点になる王子が前に出てはいけないと。
しかし、ウィリアム王子はこれに反発。士気の高い今、攻めてしまえばかなりの数を減らせるといい話を聞かなかったらしい。
他の将軍、隊長格たちも、王子にそこまで言われたら逆らう事は出来なくなる。名目上はウィリアム王子が大将だからだ。
そして辿り着いたのがニート山。標高はあまり高くなく、道もある程度ではあるが整備されていた。
ここから、ブリタリスへの道のりは2通りあり、1つ目は、山を回るルート。山を回るだけなのでそれ程危なくは無いし、広い道なので軍も通りやすい。ただ、山を回るので日数が1週間ほどかかってしまう。
もう1つのルートは山の整備された道を通るルートだ。道は普通なのだが、軍が通ろうと思ったら少し狭い。それに周りは森なので、隠れられると見つけづらい。魔獣もいるし。ただ、日数がかからない。普通に進めば3日で抜けられるだろう。
そして、ウィリアム王子が選んだのが、この早く抜けられる山道ルートだ。これにはケイネス将軍も反発した。何故なら明らかに誘われているからだ。
ニート山の道を軍が進めば、隊列が伸びてしまう。そこを奇襲されれば、かなりの被害が出るとウィリアム王子に何度進言しても、ウィリアム王子は早く攻めなければ、ブリタリス軍が体制を立て直してしまうと聞かなかった。
ウィリアム王子の言葉に、未来の騎士団長のグラモアに未来の宰相のフェリエンスも同調する。明らかに調子に乗っている。
この事に不安を覚えたケイネス将軍は、それなら第1軍からでは無く、他の軍から進めるべきだと。先頭に第1軍が立つ必要は無いと。個人の俺たちからしたらふざけるなと言いたいところだが、軍としては正しい判断だ。
だけど、残念な事にウィリアム王子はそれを認めなかった。自分が率いる軍が敵を倒さないと意味が無いと。そして将軍命令で進み出してしまった。
こうなればケイネス将軍は何も言えなくなる。せめてものと、他の隊から兵を集めてウィリアム王子の周りに守りを固める事にしたらしい。そして盾役の死壁隊もそこに組み込まれた。
そしてその結果が、予想通り起きたブリタリス軍の奇襲だ。ケイネス将軍が口を酸っぱくして言ったはずなのに、ウィリアム王子は何も対策しておらず、慌てるばかり。ケイネス将軍が指示してようやく逃げる準備が出来たのだ。
そしてそのための時間稼ぎを今俺たちがさせられている。普通の撤退戦よりかなり不利な状況で。だけどまあ、俺たちも奇襲は予測出来ていたので、慌てずにはいたのだが。それは死壁隊の中でのみ。他の兵士たちはそうではない。
そのせいで逃げ惑う兵士たち。隊列は崩れて、兵士たちは逃げようとぶつかり罵倒が飛び、そして矢や魔法に撃たれる。
そこに左右の森から隠れていた兵士たちが攻めてくる。数なんてもうわからない。俺たちも必死だからな。
「死ね!」
「ちっ!」
剣を避けて背中を切る。倒れる敵兵を見る間も無く新たに攻めてくる。振りかざしてくる剣を受け、敵兵を蹴り、首を搔き切る。
ロナとクルトも無事だが疲労が激しい。早く2人を逃がしてやらないと。グレッグたちも何とか耐えているがこのままでは囲まれてしまう。逃げ道が無くなれば終わりだ。
「ガラナ! 他の奴らを率いて早く逃げろ! このままだと退路が塞がれる!」
俺はガラナに向かい叫ぶ。ガラナはそれに頷き周りの兵士たちを連れ逃げ始める。俺たちもそれに続いて逃げるが、後ろから迫る兵士。飛んでくる矢や魔法に撃たれて死んで行くアルバスト兵たち。
「きゃあ!」
「ロナ!!」
あまりの疲労と、地面に転がる死体に躓いてこけてしまったロナ。俺とクルトは振り向いて叫ぶが、後ろにはかなりの数のブリタリス兵が迫ってくる。そしてロナに降りかかる剣。俺は気がついたら走っていた。
「あっ」
「させるかぁぁぁあ!」
そしてロナに切りかかる剣を弾き、その兵士と周りをまとめて切る。横から突き出してくる槍を魔闘拳した左手で掴み、奪い取り他の兵士は突き刺す。
「旋風流奥義、死突!」
弓を引くように右手を引き、一気に突きを放つ。神速の突きに突き刺された兵士は、胸に穴を開け死に絶える。それだけには収まらず、突きの衝撃が後ろの兵士たちにも突き進む。
「レ、レディウスさまぁ」
ロナは涙目になりながら俺の背を守るように武器を構える。
「ロナ。何としてでも逃げるぞ。絶対に生き抜いてやる」
幸か不幸か、山の中だ。地理はわからないが幾らでも逃げようはある。それにこの細い道だから、今ブリタリス兵たちは俺たちの前で止まっている。これで少しはアルバスト兵の逃げる時間も稼げるだろう。
「纏・真」
絶対に生き残ってやる。
くそっ! 山に囲まれた細い道。両側の森から魔法を放ってくるブリタリス兵。その事に逃げ惑うアルバスト兵は格好の的となっている。俺たちは殿として追ってくるブリタリス兵と対峙する。
死んで行く兵士はみんな見捨てて。生き残った死壁隊もどんどんと数を減って100を切っているだろう。
何故こうなったか。それはここ最近の快進撃のせいだ。俺たちはアルバスト王国軍がブリタリス王国軍と戦争を初めて今日で5日目になる。
初日の戦い以降、アルバスト王国軍が全戦全勝した。当たれば敵は引いて、追えば逃げてと、明らかに誘っている雰囲気はあった。
しかし、その事に気分を良くしたウィリアム王子が、第1軍を率いて攻める事になったのだ。後で聞いた話だが、将軍のケイネス将軍は止めたらしい。ケイネス将軍も誘われているだろうから、弱点になる王子が前に出てはいけないと。
しかし、ウィリアム王子はこれに反発。士気の高い今、攻めてしまえばかなりの数を減らせるといい話を聞かなかったらしい。
他の将軍、隊長格たちも、王子にそこまで言われたら逆らう事は出来なくなる。名目上はウィリアム王子が大将だからだ。
そして辿り着いたのがニート山。標高はあまり高くなく、道もある程度ではあるが整備されていた。
ここから、ブリタリスへの道のりは2通りあり、1つ目は、山を回るルート。山を回るだけなのでそれ程危なくは無いし、広い道なので軍も通りやすい。ただ、山を回るので日数が1週間ほどかかってしまう。
もう1つのルートは山の整備された道を通るルートだ。道は普通なのだが、軍が通ろうと思ったら少し狭い。それに周りは森なので、隠れられると見つけづらい。魔獣もいるし。ただ、日数がかからない。普通に進めば3日で抜けられるだろう。
そして、ウィリアム王子が選んだのが、この早く抜けられる山道ルートだ。これにはケイネス将軍も反発した。何故なら明らかに誘われているからだ。
ニート山の道を軍が進めば、隊列が伸びてしまう。そこを奇襲されれば、かなりの被害が出るとウィリアム王子に何度進言しても、ウィリアム王子は早く攻めなければ、ブリタリス軍が体制を立て直してしまうと聞かなかった。
ウィリアム王子の言葉に、未来の騎士団長のグラモアに未来の宰相のフェリエンスも同調する。明らかに調子に乗っている。
この事に不安を覚えたケイネス将軍は、それなら第1軍からでは無く、他の軍から進めるべきだと。先頭に第1軍が立つ必要は無いと。個人の俺たちからしたらふざけるなと言いたいところだが、軍としては正しい判断だ。
だけど、残念な事にウィリアム王子はそれを認めなかった。自分が率いる軍が敵を倒さないと意味が無いと。そして将軍命令で進み出してしまった。
こうなればケイネス将軍は何も言えなくなる。せめてものと、他の隊から兵を集めてウィリアム王子の周りに守りを固める事にしたらしい。そして盾役の死壁隊もそこに組み込まれた。
そしてその結果が、予想通り起きたブリタリス軍の奇襲だ。ケイネス将軍が口を酸っぱくして言ったはずなのに、ウィリアム王子は何も対策しておらず、慌てるばかり。ケイネス将軍が指示してようやく逃げる準備が出来たのだ。
そしてそのための時間稼ぎを今俺たちがさせられている。普通の撤退戦よりかなり不利な状況で。だけどまあ、俺たちも奇襲は予測出来ていたので、慌てずにはいたのだが。それは死壁隊の中でのみ。他の兵士たちはそうではない。
そのせいで逃げ惑う兵士たち。隊列は崩れて、兵士たちは逃げようとぶつかり罵倒が飛び、そして矢や魔法に撃たれる。
そこに左右の森から隠れていた兵士たちが攻めてくる。数なんてもうわからない。俺たちも必死だからな。
「死ね!」
「ちっ!」
剣を避けて背中を切る。倒れる敵兵を見る間も無く新たに攻めてくる。振りかざしてくる剣を受け、敵兵を蹴り、首を搔き切る。
ロナとクルトも無事だが疲労が激しい。早く2人を逃がしてやらないと。グレッグたちも何とか耐えているがこのままでは囲まれてしまう。逃げ道が無くなれば終わりだ。
「ガラナ! 他の奴らを率いて早く逃げろ! このままだと退路が塞がれる!」
俺はガラナに向かい叫ぶ。ガラナはそれに頷き周りの兵士たちを連れ逃げ始める。俺たちもそれに続いて逃げるが、後ろから迫る兵士。飛んでくる矢や魔法に撃たれて死んで行くアルバスト兵たち。
「きゃあ!」
「ロナ!!」
あまりの疲労と、地面に転がる死体に躓いてこけてしまったロナ。俺とクルトは振り向いて叫ぶが、後ろにはかなりの数のブリタリス兵が迫ってくる。そしてロナに降りかかる剣。俺は気がついたら走っていた。
「あっ」
「させるかぁぁぁあ!」
そしてロナに切りかかる剣を弾き、その兵士と周りをまとめて切る。横から突き出してくる槍を魔闘拳した左手で掴み、奪い取り他の兵士は突き刺す。
「旋風流奥義、死突!」
弓を引くように右手を引き、一気に突きを放つ。神速の突きに突き刺された兵士は、胸に穴を開け死に絶える。それだけには収まらず、突きの衝撃が後ろの兵士たちにも突き進む。
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ロナは涙目になりながら俺の背を守るように武器を構える。
「ロナ。何としてでも逃げるぞ。絶対に生き抜いてやる」
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