黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

44話 墓参り

「メアリー様、お久しぶりです。学園に入っていた間は、ミアに任せっきりで来れなくてすみません」


 私はグレモンド男爵家の近くにある墓地で、レディウスのお母様、メアリー様のお墓にお花をお供えして、黙祷を捧げる。この領地に帰ってくるのも久し振り。ずっと学園にいたからね。


 私は1年飛び級して、先月に卒業が確定した。だから今は学園に行かなくてもいい期間になっている。3月の終わりにある卒業式には参加しないといけないけど。


「ぐすっ! メアリー様」


 隣で私と同じ様に黙祷を捧げていたミアが涙を流している。自分の親みたいな人のお墓だものね。仕方ないわ。でも女の子が鼻水垂らしていたら駄目よ? 私は懐からハンカチを取り出し、ミアに渡してあげる。


 ミアは泣きながらも受け取り、鼻に押し当ててチーと鼻をかむ。……別に良いのだけれど、なんかあれね。


 まあ、良いわ。メアリー様。私はレディウスの代わりに冒険者になって世界を回りたいと思っています。だから、見ていて下さい。メアリー様。私は腰に差してあるレディウスの剣を軽く撫でながら誓う。


「それじゃあ行こうか、ミア。お父様とお母様たちも待っているだろうし」


「ぐすっ、はい、エリシア様」


 私はミアを伴って墓地を出ようと入り口に向かう。すると珍しく人が立っていた。私はその人を見て驚いてしまった。体は漆黒のマントに覆われてわからないけど、後ろ姿は女の子。


 だけど、それより目に引くのが髪の毛の色。その女の子の髪の毛の色は黒色で、肩口で切られたボブカットになっている。その女の子は辺りをキョロキョロと見回している。私はどうしても気になって


「どうしたのかしら?」


 話しかけてしまった。女の子は「ひゃい!?」と変な声を出して、慌てて振り向く。顔立ちは整っていて可愛らしい子。


 私は思わずクスリと笑ってしまう。レディウスが生きていたら同じくらいの年齢かしら? 女の子にどうしたのか尋ねると、どうやら待ち合わせをしている様だ。……墓地の入り口を待ち合わせにするなんて変なの。


 私は一言二言その女の子と話して別れる。別れ際に綺麗な髪と言ったら喜んでくれたわ。


 久し振りに帰って来たら、黒髪の子に会うなんて変な運ね。私はそんな事を思いながら、そのまま振り向く事なく屋敷に帰っていった。まさか、再び会う事になるとはこの時は思わなかった。


 ◇◇◇


 何とか花が買えたな。まさか、花屋がこの領地で一軒しか無いとは思わなかった。しかも墓地から結構離れた所に。4年前は姉上が買ってきてくれたからな。知らなかった。


 そろそろ墓地に着くかな〜、っと見えてきた。入り口辺りで待っててって言ったのだけれど、あっ、いた。


「おーい、ロナ〜」


 俺が半年前に助けた少女、ロナに向かって手を振りながら呼ぶと、ロナはバッと俺の方を見て走ってくる。


「レディウス様〜、遅いですよ〜」


「悪い悪い。思ったより花屋が遠くてな」


 半年前、助けたばかりの頃は、あまり笑う事は無かったけど、最近は可愛らしい笑顔を見せてくれる様になった。


 俺が王都で軍に入ってから半年が経った。この半年間は国立図書館に通い軍事に関して勉強していた。だけど、これが今の死壁隊で使えるかと言えば微妙だった。せいぜい隊列ぐらいだろう。


 その他は軍がやらせてくれるわけも無いからな。それならまずは生き残るために盾の使い方なんかを勉強して、みんなで訓練をした方がマシだと思った。みんなも死にたくは無いから、一緒に練習してくれるし。


 それから、半年前に助けたクルトとロナも鍛えた。クルトは死壁隊のみんなが相手をしてくれて鍛えてくれた。俺は纏のやり方を教えるぐらいか。


 ロナには旋風流を教えている。というよりか旋風流しか上級になってないため教えられないのだ。クルトには合わなかったみたいで止めてしまったし。


 ロナは逆に自分に合ったみたいで今はまだ下級だが、日々楽しそうに訓練をしている。


 因みにクルトの武器は大剣で、ロナは短剣だ。クルトは背に2メートルほどの大剣を背負っており、この半年間鍛えたため振れるようになっている。纏もあるしな。


 ロナはスピード重視で軽い短剣を。刃渡り20センチほどの短剣を体に隠している。一回何処に隠しているか尋ねた時は、胸元を見せてきたのは焦ったが。


 後、2人は俺の1つ下で13歳だった。2人ともこの半年間、しっかりと食べて規則正しい規則正しい生活をしてきたため、成長が著しい。クルトは身長が20センチぐらい伸び160ほどになって、ロナも発育が良くなってきている。因みに俺はもうすぐ180になる。


 そして、今日は戦争前に母上の墓参りに来たわけだ。ここに帰ってくるのは4年ぶりだ。久し振りだな。ここには俺とロナだけで来た。クルトは修行で死壁隊のところに残り、その付き添いでロポも残っている。


 俺は迷わず母上のお墓の前まで行くと、そこには誰かがお花を供えてくれていた。


「誰か来たのでしょうか?」


 俺が思っていた事をロナが言ってくれる。俺は頷きながら花を供えられている横に供える。


 母上。4年間帰ってこられずに申し訳ございません。毎年帰ってくる予定だったのですが、それが出来ませんでした。俺は親不孝者です。母上から頂いた剣も見つからないまま。


 ここに来る前にレクリウムに寄って来たが、あいつらは依頼の途中で魔獣に襲われて死んでいたとギルド職員から聞いた。そのため剣の行方はわからないまま……。


 ここに来る前にあった事を考えながら1人で悔やんでいると


「レディウス様のお母様。初めまして。ロナと言います。私は半年前、レディウス様に命を救われました。レディウス様が助けて下さらなかったら、私は今頃生きていないでしょう。ありがとうございます、レディウス様のお母様。レディウス様を生んでくださって!
 私は今の生活が楽しいです。今までが嘘のように輝いていますから! これもレディウス様のおかげです。私はこの命の全てを捧げてレディウス様を助けて行きたいと思っています! これからも見守っていてください!」


 そう言い暮石に向かって頭を下げるロナ。……そんなはっきりと言われたら照れるじゃないか。俺がロナをじっと見ていると


「どうしたのですか、レディウス様?」


 と首を傾げて来る。口に出ていた事には気が付いていないのか? だけど、それがロナの偽りない気持ちだとわかると嬉しくてロナの頭を撫でる。


 ロナは慌てながらも嬉しそうに撫でられている。母上。俺にも大切な仲間が出来ました。これから命を賭けた戦いをして来ます。どうか見守っていてください。


 俺は暮石に向かい深く頭を下げる。その時はフワッと風が吹いた。3月の少し寒い時期には珍しい暖かい風。母上が応援やしてくれているのかな? ついそう思ってしまう。


「行こうか、ロナ」


「はい、レディウス様!」


 俺は暮石に背を向け歩き出す。これからの戦いに向けて。


 この2ヶ月後。アルバスト王国は東の隣国、ブリタリス王国に宣戦布告。俺たち募兵を合わせて約3万の軍でブリタリス王国に攻め込む事になった。

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