黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

40話 死壁隊

「……やっと着いた」


 募兵をしているテントから歩く事30分。他の隊は王都近くにあるのに、死壁隊の兵舎は2キロも離れた廃村の中にあった。


 募兵のテントにも死壁隊用に作られたテントはあったのだが、中には誰もいなかった。近くにいた兵士に聞くと、そんな死にに行く隊にわざわざ残る奴らはいないと言われてしまった。死壁隊に選ばれた奴は、募兵を止めて帰ってしまうようだ。


 俺も一瞬止めようか考えたが、ここで止めても、参加は出来ないし、何だか逃げたみたいで嫌だったから取り敢えず兵舎まで来る事にした。


 死壁隊の兵舎というよりかは廃村なのだが、中に入ると


「おらあっ!」


 と男の叫び声が聞こえる。そして殴る音。一応人はいるようだ。あの時の受付の話だと、黒髪か前科持ちしかいないようだが。


「お前新人か?」


 中に入ってすぐの家から普通の兵士が出てきた。後ろには屈強そうな兵士と。そして俺の頭を見て黒髪かと呟きながらジロジロと見て来る。何だよ。


「この者は大丈夫だ。首輪はつけなくて良い。まあ、ここで生き残れるかはわからんが」


 こっちも何が大丈夫なのかは知らないが、多分生き残れると思うぞ。それに入っても良いのか? そう思っていると兵士たちは家に戻って行ってしまった。何だよ、全く。


 そう思うが、文句を言うわけにも行かないので、中を進もう。そう思ったが変な感じがする。魔闘眼を発動すると


「……なんだこりゃ?」


 さっき、兵士が入って行った家より内側の範囲には、魔力で薄い膜のようなのが張られていたのだ。俺が近づいて触ってもすり抜けるだけ。壁というわけでは無さそうだが……。


 取り敢えず、触っても害は無かったので通り抜ける。……うん、通り抜けても大丈夫だ。ロポも平気のようだ。なんなんだろう? そう思っていたが、それはこの膜の正体は直ぐにわかった。


「や、止めてくれぇぇぇぇ! ま、まだ死にたくねぇよ!」


「ここのリーダーである俺に逆らった罰だ。お前は死ね!」


 身長が2メートル近くある茶髪の男が、180程の金髪の男の首元を掴んで引きずっている。魔力の膜に向かって。それに中にいる男たちには首輪らしき物をつけている。そして茶髪の男が、金髪の男を膜の外へ放り投げると


 ボン!


 と爆発する音が聞こえた。……金髪の男の首輪が爆発したのだ。男の首から上が吹き飛び、男はそのまま死んでしまった。俺は再び受付の兵士の言葉を思い出す。ここは前科持ちか黒髪しかいないと。


 こいつらは前科持ちたちか。王国に捕まった奴か、募兵に来た奴でバレたかはわからないけど。それじゃあさっきの入り口でジロジロ見ていた兵士は、前科持ちかどうかを調べていたのか?


 俺は大丈夫だと言って首輪を付けられなかったが。なんでわかったのかはわからないが、ジロジロ見ていたのをみると、多分だが魔眼持ちだろう。本に時々出て来る物だ。


 相手を魅力する魅力眼や見たところを発火させる火炎眼。未来を見る事の出来る予知眼。そしてさっきの人は観察眼だろう。物の名前などを見分ける事が出来る。それで前科持ちかどうかを見分けたのだろう。


 ここは死壁隊の兵舎であり、犯罪者を隔離する場所でもあるって事か。そしてここに張っている魔力の膜から外に出ようとすれば、さっきみたいに首輪が爆発して首が飛ぶと。


 首輪を付けている者が200人ほど。付けていない者が100人ほど。どういう基準なのか? そう思っていると


「おっ、あんた新人ッスか?」


 後ろから話しかけられる。振り向くと……またイケメンか。茶髪のイケメンの男が話しかけて来た。首には首輪が付いていない。だから外を出入り出来るのか。


「ああ、そうだが」


「ならよろしくっス。俺の名前はグレッグ。あんたは?」


「俺はレディウスだ。こっちの兎が相棒のロポ。よろしく頼む」


「うはっ、兎なんか飼っている人初めて見たっスよ。レディウスは面白いッスね」


 と俺を見て笑うグレッグ。だけど俺を馬鹿にした雰囲気はなく、本当に可笑しそうに笑っている。変な奴だ。そうだ。グレッグに首輪の基準を聞いてみよう。


「いきなりなんだが、質問いいか?」


「俺に答えられる事なら良いっスよ」


「彼らの付けている首輪なんだけど、付けている人と付けていない人の基準って何なんだ?」


「ああ、それは重い罪を犯しているかどうかッスね。付けている人たちは殺人、強姦、放火なんか、人の生死が関わっていたりするような重い罪を犯している人は首輪が付いてるっス。
 付いていない人は、無銭飲食や万引きなどのまだ軽めの犯罪ッスね。因みに俺は5股したのが彼女たちにバレて、みんなに無一文にされたんっスよ。
 その上、その彼女のうちの1人の元カレが、彼女を取ったのを恨んでたらしく、ここに放り込まれたってわけ。普通に奴隷として売っても、直ぐに買い手がついてのうのうと生きるだろうから、ここで死ねってね」


 そう言い笑うグレッグ。自分の生死がかかっている割には余裕そうだが。


「まあ、これでも腕に覚えはあるっスからね。それに死んだとしてもその時はその時って言うか」


 まあ、自分でそう思っているなら俺は何も言わないが。そんな風に話していると


「てめぇ、新人かよ?」


 とさっき金髪の男を殺した茶髪の男が、後ろに他の男たちを従えて俺の下までやって来た。ニヤニヤしながら俺たちを囲む男たち。いや〜な予感。


「グゥ」


 ドンマイという風に俺の足をぽむぽむするんじゃない!

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