黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

39話 募兵

「……うぅ〜ん。……そういえば1人になったんだったな」


 俺は1人で休んでいる宿屋の部屋を見渡す。前まではライルが一緒だったし、野宿ならアレスとライネもいた。最後の方は、ミストレーネさんたちもいたからここまで静かにはならなかった。少し寂しいなと思っていると


「グゥグゥ!」


 俺のベッドの上に乗って来たロポが「俺もいるぞ!」という風に俺の足をぽむぽむしてくる。確かにその通りだ。


「そうだな。1人じゃないな」


 俺がロポの頭を撫でると、ロポも気持ちよさそうに目を細める。さあ、感傷に浸ってないで、今日の目的を果たしに行くか。


 俺は着替えて、1階に降りる。そこで朝食を食べるのだが、固い黒パンに味の薄いスープ。それに何故か干し肉という謎のメニューだった。安いところを選んだのが、失敗だったか。


 グポの野菜もお金を取られたし。その野菜も痛んでいたのか、グポがぺっと吐いているの初めて見たぞ。


 風鳴亭が愛しいな。あそこが今まで泊まった宿屋で1番良かったな。まあ、俺が高いところに泊まっていないというのもあるけど。


「どこかで野菜を買うか」


「グゥグゥ!」


 ロポも必死だな。それから宿屋を出て、俺たちは八百屋を探して、ロポが好きそうな奴を選んだ。ロポも嬉しそうに食べてたので良かった。


 八百屋のおじさんに募兵をしているところを聞いて行ってみるとそこは王都の外でやっているようだった。……まあ、街中ではしないか。魔法とか放ったら危険だしな。


 八百屋から歩く事30分。こんな事ならちゃんと確認しておくんだった。そして外に行くと、かなりのテントが張られており、騎士鎧をつけた人が沢山いる。取り敢えず、近くの兵士に尋ねてみるか。


「すみません。ここで募兵をしていると聞いたのですが」


「ん? ああ、って黒髪かよ。魔法も使えないくせに……。まあいい、壁ぐらいなれるだろう。あそこのテントに入って申請してこい」


 兵士の人はいっぱいある中の1つを指差し、そのままどっかへ行ってしまった。なんかボソリと言われたが、まあ良いだろう。


 兵士に教えてもらったテントに入ると、中では5列程列が出来、身分確認をしている。俺も後ろに続くように並ぶ。すると周りからクスクスと笑うの声が聞こえてくる。その声は


「うわっ、黒髪だぜ」


「あれは完璧壁だな」


「あんなゴロツキが集められた死壁隊なんて可哀想に」


 と色々聞こえてくる。なんだ、死壁隊って? よくわからないままに俺の番へとなった。受付の兵士も俺の髪を見て鼻で笑う。


「ボウズ、死にに来たのかよ? 黒髪なんか壁にしかならないぜ?」


「大丈夫です。これでも少しは腕に自信があるので」


 俺がそう答えると、再び鼻で笑ってくる。そろそろ殴り飛ばしくなってきたが、それをしたら軍に入らないだろうから止めておく。


 受付の兵士から身分証を出すように言われたので、ギルドカードを出す。受付の兵士はそれを見て


「ギャハハハ! こいつFランクのくせにここに来たのか!? 本当に命知らずだな! そんなに金が欲しかったのかよ!?」


 笑いだしやがった。周りにいた兵士や希望者たちもつられるように笑い出す。因みに金というのは、この募兵に参加すると、参加費が払われるのだ。お金がない家庭などは、家族の誰かを参加させたりしている。


 しかし、どいつもこいつもうるせえな。さっきから黙っていれば。そろそろ我慢の限界なのだが。


「何を騒いでいる!」


 そこに他の兵士に比べて、豪華な服を着た男が入って来た。その男が入って来たのを見た兵士たちは、みんな直立して敬礼をする。


「これはメッカーマー隊長。お疲れ様です」


「うむ。それでなんの騒ぎだ?」


「はっ、それがこの黒髪の男がですね、ギルドランクがFランクなくせに入隊したいと言うのですよ」


「Fランクだと? そんなもの子供でも荷物の配達などをしていれば上がるのに今だにFランク? おい、貴様、そんな弱い奴は求めていない。壁にすらならないだろう。とっとと帰って母親の乳でもしゃぶっていろ!」


 隊長と呼ばれた男の言葉に、再び笑いが起こるテントの中。……はぁ、我慢しようと思ったけど無理だ。そこに1人の男が寄ってくる。


「おらっ、お前のせいで後ろがつっかえてんだよ。さっさとどけよ!」


 と俺の左肩を掴んできて引っ張ろうとする。だけど俺はピクリとも動かない。まずはこいつか。右手に魔闘拳を発動し、俺の肩を掴んでいる男の手を掴み、握りしめる。するとベキベキベキと骨の砕ける感触がする。


「ぎゃぁぁあああ!」


 俺の肩を掴んだ男は、右腕を抱えるようにうずくまりながら痛みで叫ぶ。うるせえんだよ。俺は叫ぶ男を魔闘脚した右足で男を蹴り飛ばす。男は胃液を撒き散らしながらテントから吹っ飛ぶ。


 さっきまで俺を笑っていた奴らはみんな静かになってしまった。隊長とやらもだ。俺が隊長をみると、隊長はビクッと震える。ミストレアさんほどではないが、俺も殺気は放てるからな。テントの中に充満する俺の殺気で、誰も一言も話さない。


「黒髪だから何だって? Fランクだから何だって? 言ってみろよ隊長さん? 笑ってみろよ?」


 俺の殺気を全力で隊長にぶつかると、隊長はそれだけで失禁し気絶してしまった。そんなんで隊長務まるのかよ? 俺は振り返り、受付した兵士の下へ行く。


「で、結果は?」


「え?」


「募兵だよ」


「あ、はい! こちらになります!」


 さっきまで普通に話していたのに、急に敬語になって気持ち悪いぞ。俺は兵士から受け取った紙を見るとそこには『死壁隊』と書いてあった。ここって周りの奴らが嫌がった隊じゃないか。


「おい、ここって」


「ひっ! す、すみません! 黒髪や前科持ちなどはそこに配属される決まりなので」


「誰が決めたんだそんな事……」


 しかし、ここでこれ以上喚いても変わらないだろう。俺はそのままテントを出る。どうやらここ以外の場所は隊ごとにわかれているらしい。そこで集まってからそれぞれの隊の宿舎に移動するとか。


 隊は4つあるらしく、近距離武器専門の隊、遠距離武器専門の隊、魔法が得意な者ばかりの隊、そして死壁隊だ。


 後ろで、隊長を助けようとする兵士たちの叫び声を背に、俺は死壁隊のテントへと向かうのだった。

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