黒髪の王〜魔法の使えない魔剣士の成り上がり〜

やま

24話 出会ったのは

「……ふぅ、一応戻って来た事になるんだよな」


 ここは、アルバスト王国最南の領地、ケストリア子爵領にある森の中のはず。ケストリア子爵領は大平原に魔山が一番近い領地で、他の領地に比べて、冒険者や兵士が多い領地だ。


 本来ならこの森の中も魔獣がいて危ないのだけれど、逆に言えば、魔獣が多いので人もあまり入ってこなくて転移しやすいのだとか。


 この大平原に魔山を越えた向こうにディスファニア王国があるのだろう。ミストレアさんの家以外知らないけど。


 ……目を瞑るとヘレネーさんの温もりや声が思い出される。さっきまでいたのにもう寂しくなっている。俺は首を横に振って紛らわせる。


 既に日は高く登っていて、後数時間で暮れてしまうだろう。今日はこの近くにある街に向かってそこで休もう。本格的な移動は明日からになるな。


「良し、行くか」


 俺は気合を入れるために1人で呟いた。その筈なのだが


「グゥ」


 と鳴き声が聞こえて来た。しかもどこかで聞いたことあるような声だ。俺は声の聞こえた方は向くとそこには、声の主であろう真っ黒毛玉の兎が座っていた。


 俺が見たのに気付いたのか、その兎は右足を上げてふりふりと振ってくる。耳もパタパタとしている。


「な、な、なんでロポがいるだよ!?」


 俺はあまりにも驚いて、ロポに向かって指を指す。ロポとは普通にお別れをしたのに。ロポはそんな俺に御構い無しにと寄って来て背中を見せる。……背に何かを乗せていた。俺はしゃがみロポの背中を見ると


「手紙、か?」


 そう、ロポの背中には丸く丸められた手紙が括り付けられていたのだ。俺はそれを解いて手紙を広げると、それはミストレアさんからの手紙だった。


 内容はロポも行きたそうだったのでよろしく頼む。という事と、食事は野菜で良いという事ぐらいしか書かれてなかった。


「……お前も俺と来たかったのか?」


「グゥグゥ!」


 興味本位で尋ねるとロポは縦に首を振る。俺はロポの頭を撫でながら


「仕方ない奴だな。それじゃあ、これからもよろしくな?」


 とロポに話す。正直に言うと少し寂しかったからな。ロポがいたら心強い。ロポも嬉しそうに撫でられている。


 それから1人と1羽で森を抜けるために歩き出した。森の中の気配は結構静かなものだ。時折魔獣の気配がするが、俺たちには気付いていないようだ。


 そして森を歩く事1時間ほど。ようやく森を抜ける事が出来た。そして森を抜けた先には囲うように出来た大きな壁が見える。10メートルくらいはあるだろうか。あそこがケストリア子爵領の街か。


「あそこが今日の目的地だな」


「グゥ」


 ここから見えるのは見えるのだが、まだまた距離は遠そうだな。後2時間は歩かないと駄目だろう。そう思い歩き始めると、誰かが叫ぶ声が聞こえる。ロポもそれに気が付いたようで、声のする方を見る。


 その方を見ると、一台の馬車が物凄い速さで走っており、その後ろを馬に乗った男たちが追いかける。男たちはみんな汚らしい格好をして、手には剣や斧などを持っていた。盗賊の様だ。


 その盗賊の内の数名が矢を放ち、馬車へドスドスと刺さる。御者は、何とか振り切ろうとするが、やはり馬車をを引く馬より、人1人だけ乗せている馬の方が早い様だ。


 馬車は、街まで逃げたかった様だが、途中で盗賊たちに追い抜かされ馬を制止させられ止まってしまった。馬車に護衛はいない様で呆気なく捕まる御者。街の兵士たちも気が付いていない様だ。あのままじゃあ不味いな。


「ロポ。助けに入るぞ」


「ググゥ!」


 ロポは大きさを俺の腰ぐらいの大きさまで変える。俺も魔闘脚を全開にし駆け出す。


 腰に下げていた愛用の剣を抜き、馬車へと近づく。盗賊の数は全部で10人ほど。しかし、全員が馬に乗っている。それぞれが馬車を囲う様に移動し、リーダーぽい男が、御者と何かを話している。


 その盗賊の内の1人が迫る俺たちに気が付いた様だ。しかし、遅い。その盗賊に向かってロポが跳ぶ。そして左前足を振り上げ、盗賊の顔面を叩きつける。


 左から殴られた盗賊は、避ける暇もなく殴り飛ばされる。首の骨は折れている様だ。


 俺も近くにいた盗賊へ切り掛かる。盗賊は反応して斧を構えたが遅い。斧を持った右腕を切り捨て、蹴り飛ばす。腕を抑えながら呻いているが、直ぐに喉元に剣を突き立てる。


「な、なんだてめぇらは!?」


 驚きで固まっていた盗賊のリーダーぽい男が声を荒げる。御者の人は未だにポカンと口を開けている。


「通りすがりの剣士だよ!」


 俺は直ぐに盗賊のリーダーぽい男へ迫る。男は御者へ向けていた剣を構え、俺に向き直る。あの構えは


「烈炎流初級のバカノ様が貴様を切り刻んでやる!」


 と剣を振り下ろす。しかし、そんな大振り当たるわけもなく俺は軽々と避ける。こんな大振り避けて下さいと言っている様なものだ。遅いし。ミストレアさんやヘレネーさんとは大違いだ。


 何度も振ってくる盗賊の剣を避け、首を切り落とす。隙が多過ぎて手を抜いているかと思ったが、どうやら違う様だ。


 俺はそのまま別の盗賊へと切りかかり倒す。ロポの方も、手こずる事なく倒している様だ。ロポが6人、俺が4人倒した。……あっ。1人でも生かしておけば良かったな。アジトとか聞けたのに。


 まあ、良いか。主の失った馬は、その辺をぽかぽかと歩いている。一頭貰おうかな。……乗った事ないけど。


 そんな事を考えながら、周りに残りはいないか確認していると


「助けていただき有り難うございます」


 と御者の人が話しかけてくる。髪の毛は茶髪で、少しぷっくりとした体型で、肥満まではいかないけど、その一歩前というぐらいか。年は40ぐらいの男性だ。


「いえ。偶々見かけただけですから。しかし、災難でしたね。盗賊に狙われるなんて。護衛などはいなかったのですか?」


「いやはや。お恥ずかしいお話で、ここから馬車で2時間ほどの街からの移動だったので直ぐに着くだろうと、護衛は良いかと思っていたのです。まさか狙われるとは」


 それは運が悪かったな。この辺りは普段盗賊は出ないらしい。理由は近くに魔獣が住み着く森や山があるからだ。魔獣が住み着く近くに盗賊もアジトを作らないらしい。まあ、寝てるところ襲われたくは無いだろうし。だから油断していたと。


「それにしても黒髪なのに強いですなぁ。お名前を伺っても?」


「ええ。私はレディウスと言います。こっちの兎はロポ。俺の相棒です」


「グゥ」


「私はガラブギス商会でケストリア店支店長をしております、ケイマルと申します。この度は助けていただき本当にありがとうございます」


 そう頭を下げるケイマルさん。ガラブギス商会って、この国の有名な商会じゃないか。グレモンド男爵家で贔屓にしていた。それの支店長って中々偉いのではないのか。その人が護衛無しにって……。


 俺は思わず呆れたような顔を浮かべていたのだろう。ケイマルさんも頰をぽりぽりかきながら苦笑いする。


「いやぁ、今回は本当に運が悪かったですな。直ぐ近くの街だからと護衛を断ったばかりに」


 とほほ、と笑うケイマルさん。今回は隣の街に商品を受け取りに行った帰りみたいだ。直ぐ終わるだろうからと護衛を断ったみたい。


 それから死体は、ケイマルさんが火魔法を少々使えるので燃やしてもらった。馬は1頭を除いて、ケイマルさんが買い取ってくれるというので連れて行く事にした。馬車に縄で引っ張るだけだし。


 俺たちもケイマルさんについて行く事にした。目的地は一緒だし、馬の買取金を受け取らないといけないし、最近の情勢も聞きたかったから。


 そしてケイマルさんに色々な事を聞きながら、馬車に揺られる事30分ほど。ようやく目的の街へと辿り着いた。

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