思いつき短編集

かなみん

『#村を焼くなら』

「どうして…どうしてこんな事をした。」
男は吼えた炭の塊を抱きながら。
「あの村があると俺が心地よく何の気兼ねもなく生きられないからだよ。」
男は嗤った。
「仕事なので。」
男は淡々と答えた。


長閑な村だった。空気は澄み青々とした空が広がる平穏以外の言葉が見つからぬ美しい村だった。

地獄のような村だった。空気は淀み空は灰色のようだった。私たちは理不尽という言葉はこの村のためにあるのだとすら思った。

依頼されたから遂行した、ただそれだけだった。
 

俺は妹と両親の4人暮らしだった、決して裕福とは言えないがそれでもしあわせに毎日を過ごしていた。
父と俺で畑を耕し作物を育て母と妹が食事を作り
卓を囲んで笑いながら食べる。
窓から入る心地よい風に体をうたれながら全天の夜を感じて眠る。そんな毎日がずっと続くと思っていた。
地獄とは場所を指すものだと思っていた。違う、地獄は侵食するものだ。突然現れ全てを侵し奪っていく。

私は息子と母と3人暮らしだった。私は祈りを捧げる仕事をしていた。ある日田舎の村へ引っ越すことになった、布教の一環というやつだ。家と職場を兼ねる教会はもう建っているとのことだった。田舎が嫌いというわけでもなかったが別段興味を引くものでもなかった。
過去形なのはいまではすっかり田舎は私の憎悪の対象だからだ。地獄というのは場所を指すものだと思っていた。
地獄とは野生動物のようなものだ、ずっと影に潜んである日突然牙を剥く。私は夜眠れないあの日の焔が目に焼き付いて心を焦がすからだ。もう我慢の限界だ。私はあの日と同じ思いをさせてやることにした。身を焦がす灼熱の温度を釜戸の熱すら知らぬ者達に教えてやろうと。

依頼主は大司教
依頼内容は田舎にあるとある村にいる神父の排除
「いいんですか、トップがこんなところに」
「上に立つものだからこそだよ、公の組織には頼めん」
「理由はお聞きしても?」
「あの神父は以前から私のやり方に反対している、一部では賛同する声も上がっておってなここらで消しておかないとのちのち邪魔になる」
「方法の指定は?」
「バレなければなんでもよい」
「承りました、報酬は…」
「なんの為の立場だと思っておる?」
「失礼、では」
中々面倒な依頼だとは思ったが報酬があまりにも美味かったのでやる事にした。田舎の村というのは人どうしの繋がりが強い。街とは違い殺したところで隠れる場所もなければ隠れ蓑もない。どうしたものかと教会の中で考えあぐねていると神父が寄ってきた。悩みがあると神に告白すると解決するらしい。バカな、人間の問題は人間にしか解決できない。


村を焼かれた。全てを奪われた。復讐だと言われた。
教会を焼かれた。全てを奪われた。異端だと言われた。


「しかし、どうしてとは面白いことを聞く。元はお前達のせいだろう。自業自得というやつだ」
「自業自得…?」
「ああ、数年前お前達はこの村にあった教会を異物だと宣いそこに住んでいた家族ごと焼き払っただろう。あれは私の家だ、家族だ!」
「なんだよ…それ」
「ん…?あぁなるほど知らなかったのか何せ真夜中だったからなお前の親父さんもその時いたよ間違いなく」
「そんなの…そんなのってよ!!」
「あまりにも酷いか?だろうなわたしも同じ気持ちになったよお前にお前達にその気持ちを味わってほしかった!
最後にお前も殺して目的達成だ!」
「な!?」
「当たり前だろう一人残らず生きて返す気などない、ではさよならだ」

                                 ──報告及び議事録以上

「まさか村ごと焼くとはなぁ、あのとき教会に居たのは正解だったな」
「多少驚いたがまぁご苦労ほれ報酬じゃ」
「んーー確かに、んじゃまたのご利用を」
「まて!1つ聞きたいことがある」
「なんです?あぁアレをどうしたかですか?これ以上拗らせるのも面倒なんで、

2人仲良く一緒の墓に入れときました」

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