残念変態ヒロインはお好きですか? ~学校一の美少女が「性奴隷にして」と迫ってくる!~

青春一人

3.美少女に誘われるのはお好きですか?

 昼休み、それは自由だ。むしろ自由=昼休みと言ってもいい。それくらい、昼休みとは学生にとって貴重な時間なのである。
 俺も例外ではなく、スマホを片手に教室で堂々とぼっち飯を平らげる瞬間は、それはそれは至福の一時と言えよう。

 とっくに昼休みの開始を知らせるチャイムも鳴り終わっているので、さっさと昼食をとるべく四時間目の授業で使った英語の教材一式を机の中にしまう。それから顔をあげたところで、健康的な肌色をした少女が目に入った。

 ──昨日俺のちょっとした秘密を知られた、涼風朱音だ。

 彼女はいつものメンツと机を合わせて、昼食をとろうとしていたところだった。

 涼風、昨日の事まだ気にしてるんだろうか…… どうにも気になる俺はチラっと涼風の様子を伺うが、特に変わったところはなかった。や、普段の涼風を知らんのだがな。

  そんな時だった。
 ──涼風がこっちを見てきた。さらには運悪く──いや、必然なのかもしれないが、目が合ってしまう。これは気まずい。
 嫌な顔でもされるのかと思ったが、それどころか可愛げのあるウィンクをしてきた。いや、意味不明なんだけど…… ただ、無視するのもアレかと、一応会釈を返す。

 すると涼風は再び友達と何か話し始めた。あれは、昨日の一件を無かったことにしようというサインなんだろうか。……そういうことにしておこう。
 希望的観測でそう結論付け、今度こそ涼風から目線を外す。そもそも、今更気にしたところで無駄で無意味だしな。そう、気にしたら負け。

 毎日恒例のコンビニ弁当を取り出す。今日は唐揚げみたいだな。
 しかしいざ蓋を開けようとしたところで、俺の食事行為はある一人の少女の一声によって妨害されてしまう。

「ゆうっち、一緒にお昼食べよっ!」

 元気な声質で、無駄に軽々しく話しかけてきた。友達かよ。
 俺は気だるげに顔を右に向ける。涼風が側に立っていた。手には弁当箱を持っている。いつの間にこっちにやって来たんだろうか。

「えっ、はっ? いや、何言ってんの?」

「そのままの意味だよ。ゆうっちと一緒に食べたいなーって思って」

 自らの所望願望を告げながら、照れ笑いを浮かべた。

「いやいやいや、おかしいだろ。何でそんな考えに至った……」

「え~っとそれは…… 運命だねっ!」

「意味わかんねぇよ」

 運命を信じてるとかどこの恋愛脳クソ女だよ。頭ん中お花畑なの? 少女漫画なの?

「まあまあ。いいじゃんいいじゃんっ!細かいことは気ーにーしーなーいーっ!」

 やけにノリノリで催促してくる。楽しそうな満面の笑みを浮かべながら。
 ホントよく笑うな、こいつ。人生幸せそうで何より。

「俺は全然気にする。それにな、俺は一人で食べたいんだよ」

「えー……」

 二人頭の悪そうな会話を繰り広げていると、案の定周りがざわつきだす。
 そりゃそうだろう、この二人はあまりにも珍しい組み合わせだ。それも片方が学校一二を争う人気者の美少女で、相手はぼっち少年。奇異の目で見られるのも当然と言える。
 人によっては会話の内容すら聞こえたかもしれない。そうなれば、もう収拾はつかないだろう。何せ、会話だけ聞けば涼風が俺を気になっている風にも聞き取れるのだから。

 不愉快だ。俺のことが話題になることが、実に鬱陶しい。
 早く会話を終わらせることが先決だな。涼風のことだから、どうせ中々引き下がらないんだろう。なら──

「はぁ…… ったく、しゃーねーなぁ……!」

 そう言葉を零しながら、

「へっ?」

 俺は涼風の手を握り締めた。

「えっ? えっ?」

 突然の行動の前に驚きの隠せないようで、涼風は目を丸くしている。そんな彼女を俺は引っ張っていき、教室から退出する。
 こんなことをすれば後々さらに騒がれそうな気もするが…… 俺は後先を気にしない性格なんでね。

 向こうから誘ってきたとはいえ、強引に連れ出してきてしまった以上、怒ってないだろうか…… 
 心配になり、涼風のご機嫌を伺うべく右斜め後ろを振り向く。紅潮していた。赤くなっていた。
それが怒り故《ゆえ》なのか、恥ずかしさ故《ゆえ》なのか、それともそれ以外の原因があるのかは、分からないが。

 俺が振り向いたことに気づいたのか、涼風は俺の目を見つめてきて、少し微笑みかけた。
 俺達は身長差が20センチ以上あるため、涼風は必然的に上目遣いとなる。その様子は、長瀬とはまた別種の可愛さを纏っていた。
 ……ま、三次元にしては上出来なんじゃねぇの? 二次元美少女とは比べるまでもないがな!



 ♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥



 俺たちは今、屋上にある塔屋の壁にもたれながら、二人仲良く並んで座っている。や、仲は全然良くないんだけどな。

 わが校では本来屋上は開放されていないのだが、屋上と階段を繋ぐ扉の鍵が壊れており、誰でも自由に出入りできる状態となってしまっている。これは在校生ならだれでも知っている常識だ。教師側も予算が足りないのかただただ面倒なのかは知らないが、この問題を完全に放置している。

 何にせよ、俺には好都合な話だ。生徒たちの目から逃れられたし、何より晴れ渡る空が心地いい。たまには外で食事するのも悪くはないかもしれんな……

「すっごい大胆だったね……/// めっちゃキュンキュンしたよっ!」

 一方の涼風は、俺とは別のベクトルで大興奮のご様子。それはそれは火照った満面の笑みで、俺の肩を揺さぶりながら自分の気持ちを表現してくる。割と距離近いし、小ぶりだが形は良くて柔らかいおっぱい的な何かとかが色々当たってくるんだよなぁ…… えぇい、暑苦しい!

「おい、ちょっと離れろ、涼風。ご飯食べれないだろうが」

「あっ、そうだね、うん。邪魔だし厄介者だし、いらない娘《こ》だよね……///」

「や、そこまでは言ってないんだけどな」

 謎の発言をしつつも、俺の言う通り離れてくれた。ほっと一息吐く。

「それにしても、ホントにカッコよかったよ。えへへ……///」

「お、おう」

 今度は顔を少し下に向けながら照れ笑いを浮かべて、神妙に感想を述べてきた。
 何だよ、そのラブコメでしか聞いたことのないセリフ。強硬に連れ出してきたのでさぞかしお怒りになっているだろうと思っていたのだが、この反応は予想外だ。涼風は柊裕也のことが俺様系イケメン男子にでも見えてんの?

「とりあえず、涼風が俺のことをどう思ってくれようが知ったこっちゃないんだが、教室で俺に話しかけんのはやめてくれ。目立つのは俺の性分に合わん」

「あー…… 確かに迷惑だったかも、うん。ごめんね。ゆうっちの気持ちもちゃんと考えなきゃだよね…… ほんっとごめんね。……お仕置きとかされないと、許してくれなかったしする?」

 おい、途中まで素直に謝ってくれたようで感心してたのに、最後小声で何言ってんだよ。お仕置きって何? 定番のお尻ペンペンとかなの?残念ながら俺に他人を痛めつける趣味はない。

「いやいや、別に分かってくれたんならそれでいいんだ。今日は仕方なく一緒に食べるけど、もうこれっきりにしてくれよ?」

「え~…… あたしと一緒に食べるの、そんなにいや?」

「うん、嫌」

「あ、あふん……っ///」

「あ、あふ……?」

「い、いや何でもない! 何でもないから!」

「お、おう……」

 さっきのは何だったんだ? 謎の喘ぎ声的な何かを上げたようなんだが……
 まぁ、涼風にも何か色々あるんだろう。他人の心に深く踏み込んじゃいけない(戒め)

「と、とにかくだな。俺は特別涼風と食べるのが嫌とかなんじゃなくて、ガチで誰とも食べたくないんだよ。俺は大の独り好きだからな」

「あ、あたしは特別がいいな……」

「は?」

「き、気にしないで! ほら、早く食べよっ! 昼休み終わっちゃう!」

 こんなに時間を取らせたのは一体全体誰のせいだと思ってるんですかねぇ?
 第一、さっきから涼風のテンションおかし過ぎだろ。失言しまくってるぞ。

 だが、今は涼風の容態を心配している場合ではない。ホントに食べる時間なくなったら困るしな。
 俺は昼食を取るべく、弁当を手に取ろうと、手に取ろうと…… 手に、取ろうと──

「ヤベェ、弁当がない……」

「えっ、弁当ないの?」

 思わず呟いた俺の独白に対し、涼風は心配そうな表情で聞き返してきた。

「そうだ。正確には、教室に忘れてきてしまった」

 涼風やクラスメイトの方に気を取られ過ぎて、完全に弁当の方まで気が回っていなかった…… 失態である。男のドジっ子属性とか需要ないんだよなぁ……

「それは大変だね……」

「あぁ。や、ガチでどうしよ……」

 ここは普通に取りに帰るべきなんだろうが、いかんせん面倒くさい。だが、そんな愚痴を言っていてはいつまで経っても昼食を食べれない。もしくは飯抜きという選択肢もあるが、どっちもどっちなんだよな……
 そう、俺が二択に迫られていた時だった。

「じゃあさ、あたしのお弁当、食べる?」

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