罪歌の乙女

神崎詩乃

回復と会談

 浮かんだり……沈んだり。どこかの部屋に居るらしいがこの部屋以外を認識することが出来ない。
「うぐっ」

 全身を襲う倦怠感と痛みを押さえつけて身体を起こすと急にアラームが鳴り響いた。止めようかとあたりを見渡すがそういったものは見当たらない。

「姉様、あまり無理なさらないで。」
「お寝坊さん。ようやく起きたの?気分はどう?」
「……最悪。」
「なら今後は気をつけなさい。」
「はい。」
「417、目が覚めたのですね。よかった。」
「…オルトリンデ……。おはよう。ごめんなさい。」
「……近々あなた達に新しい話が来ると思われます。内容は皇帝陛下の聖教国訪問に伴い、陛下の護衛です。」
 オルトリンデはいつもの調子で淡々と内容を告げるがその目は安堵に満ちていた。
「その話は何時?」
「来週です。メンバーは自由ですが、417と423はフェラルドの許可を得てください。」
「分かりました。では話し合って明後日には選抜しておきます。」
「お願いします。」

 416はちらりとこちらを見たがすぐに視線を逸らすと420に指示を出し始めた。

「420、全員に回線を開いて。ミーティングを行います。」
「了解です姉様。」

 416は私の隣に座るといつものように凛とした表情で話を始めた。

『皆?報告があるわ。まずは417と423が起きたわ。あと、来週皇帝陛下の護衛として何人か選抜することになったの。』

 私はどうせ選抜されることは無いだろうとベッドでうたた寝を始める。
「417、ブリーフィング中に寝ないでくれる?」
「……。ごめんなさい。」
「全く……。では皆、メンバーの構成を伝えるよ。大前提として今回は皇帝陛下の護衛。緊急時に相応の対応ができるメンバーで行くよ。まず、417。」

 まさか呼ばれると思っていなかった。
「え!?」
「緊急時に即座に陛下を確実に隔離できるのは君くらいのものでしょ」
「いや、まぁ、確かにそうだけどさ……」
「418、あなたは緊急時の医者ね。」
『はーい。』
「420はいつも通りサポートに徹して貰える?」
「了解です。」
「あとの皆はこの基地で待機していて。」
『了解。』
「417、隠れた状態で護衛について貰えないかな?」
「んあ。大丈夫。」

 来週の打ち合わせをしているとドタドタとやかましい奴が病室の扉を開ける。顔を青くさせ、呼吸が荒くなっているフェラルドである。
「大丈夫か!」
「……ノックくらいしろ馬鹿」
「へぶっ」

 顔面に最大限加減した枕を投げつけておく。心配性のフェラルドの事だ。元気な姿を見せておかねば来週の護衛を却下するだろう。
「……げ、元気そうでなにより。でも、君は魔力が暴走して一時は死にかけすらしたんだ。暫くは安静にしていないとダメだよ。」
「……わかった。」

 感覚的に魔力は既に戻っている。寧ろ以前より少し増えただろう。鉄環も元通り装着されているが前回より重量が増している気もする。
「フェラルド、鉄環に何かした?重いんだけど」
「勝手に壊したおバカさんの為に壊れにくい素材を厳選しただけだ。」
「……くっ。」

 これについては何も言えない。鉄環は魔力の制御端末でもあるのだ。前回は古くなっていたから破壊出来たが今後はそんなに簡単にはいかないだろう。

「それで?フェラルド、何しに来たの?」
「え?お見舞いに……。」
「それ以外もあるのでしょう?」
「……。420?人の心を覗くのはやめなさい。」
「即座に看破して無心になるフェラルドに言われたくないですね本当に人間ですか?貴方。」
「はぁ、やれやれ。来週皇帝陛下が聖教国に行くのは知ってるよね?その護衛の件も。」
「メンバーは先程絞ったわ。」
「ありがとう。どうせ417の名前もあるだろ?本当は安静にしていてもらいたいけど1番能力があるのも確かだし。そこは認めるよ。」
「前回の襲撃は聖教国からとみて間違いないのでしょうか?」
「あぁ。流石420。その通りさ。ここだけの話、今度宣戦布告が行われる。君たちは特別攻撃部隊として軍の指示系統から外れた独断行動部隊になるから416、隊長頑張ってね。」
「はい。」
「……。寝る。」
「417?副隊長頑張るんだよ?」
「……。」
「さて、それじゃ俺はここらでお暇するか。皆?くれぐれも身体を大事にするんだぞ?」
「はーい」

 その後、協議が重ねられ、威圧と国際的な訪問であるという意図のために装甲車が用意された。こうして、皇帝とのんびりとした旅が始まった。

「いや〜平和だね。もう少しスリルがあってもいいのだけれど。ねぇ。416、417はきちんといるのかな。心配になってくるんだけれど」
「……大丈夫ですよ。陛下。417は今装甲車の上にいます。」
「へぇ。分かるんだ。」 
「龍の眼は特殊ですからね。」
「へぇ。」
『お姉様。三時と九時方向より車が出現しました。人間が乗っています。』
「あーあ。陛下がスリルなんて求めるから……。」
「む?敵襲か?数は?」
「取り敢えず……陛下は隔離ね。」
「なっ417いつからそこに」
「今さっきだよ。ハイ。疫病神は大人しくしていてくださいね〜」
「なっ皇帝に対してのその物言い……普段は恭しいのに今日は酷くないか!?」
「普段は人の目があるけど、今回は身内しかいないから……諦めてください。陛下。」
「416までー!」

 皇帝ウィンゲーツの前に見えない壁が張られ、当人の声は他のものに聞こえない。口の動きから察するに、罵詈雑言をテキトーに言っているようだが聴こえないので全員で無視を決め込む。
「敵の数は五十。三時の方向に戦車。九時方向に装甲車。後ろに迫撃砲が複数。地面耕してこちらの動きを止めるのが目的と思われるね」
「所属は?」
『呼び掛けには応答ありません。』
「国境は既に過ぎたし、ここは空白地帯。何があっても自分で護る区域だよね?」
『えぇ。……。416お姉様……怒ってます?』
「まさか。指揮官は常に冷静に物事に当たらなくてはいけないから……ちっとも……怒ってなんか……ないよ。」
『お姉様……?三秒数えてください。』
「え?」
『はい、一、二、三。』
「え?何?どうしたの?」
『怒りの感情は三秒位で1度落ち着くそうです。今もまだ怒っていますか?』
「……。ありがとう。」
「416ー遊んでないで。もう爆撃されてるよ!」
「別に遊んでなんて……。まぁいいわ。総員、装甲車の中に退避417。防御は任せるわ」
「……わぁ……416がキレてる……」
『417お姉様。この装甲車……もちますか?』
「もつわけないじゃん。だから空間ごと固定して分離する。魔力が少し足りなくなるかもだから皇帝の捕縛を一旦解くよ。誰か押さえつけておいて。多分暴れるから。」 
 
416は装甲車から単身で外に出ると背中の一部を翼に変え飛翔した。その胸中は複雑である。皇帝の護衛という重圧。妹達の生命、それをいとも簡単に奪おうと企む有象無象。一瞬全てを思いのままにぶち壊してやろうかと思える。だが、それをしてしまうと妹達に被害が出る。
 自分たちを生み出した人間達に大して興味はないが妹たちは別である。妹を守る為ならば……。

 416は遥か高みから地べたに展開する有象無象を視認すると静かに魔力を集めた。するとオレンジ色の光球が416を中心に展開し、地面に降り注ぐ。

 ズドドドドドドドドォン。

 流星雨の様に火球が降り注ぐ。着弾と同時に大地が爆発し、兵器は一撃で粉微塵となる。ごく小規模な天変地異が起きていた。

 大地は耕され、岩は砂に。一部は高熱によりガラス化し、有象無象はその破片すら残さず消え失せた。

「あ、全部やっちゃまずかった……。敵の所属に関する情報が……。」

上空で一人反省を述べている様は先程とはまるで別人のようである。

『気にしなくていいよ416。敵機体の一部は確保してあるから。相変わらず……殲滅力が高過ぎて怖いくらいだね』
「417に言われたくないかな。でも、ありがとう。だいぶ変えちゃったけど走行に問題ある?」
『大ありだよ。交戦範囲外まで空で運んでくれる?装甲車抱えて』
「……うっ。し、仕方ないね。分かった。」

 高度を下げ竜形態に戻ると今度は装甲車を抱えて少し先まで飛んでいく。焦土と化した土地を抜けると木々が生い茂る旧街道を見つけることが出来た。

「ふぅ。」
「お疲れ。」

 労いの言葉と共に渡された水筒に口をつけると416は皇帝の心配を口にした。

「ありがと。皇帝の調子はどう?」
「ん?さっきまであたふたしてたけど今は落ち着いたみたい。」
「そう。それであとどれ位の距離なの?」
「えっと…もうすぐ。」
「この装甲車…凄いね。」
「フェラルドが作ったらしいよ。」
「そう……。まぁ、それはそれとして417、さっさと敵国に乗り込んじゃおう。またさっきのみたいなのが出てこられると困る。」
「了解。」
 装甲車が旧街道に新たな轍を刻み、土煙を上げていた。しばらく進むと徐々に木々が疎らになり、白亜の城壁が見えてきた。 
『お姉様方。見えてまいりました。』

 通称聖教国。正式名称「セルキア聖教国」。
 国教にセルキア聖教なる教えを据えた宗教国である。その内情は非人道的実験や先の侵攻等、後暗い国であり周辺諸国から敵視されやすい国である。主な産物として石灰岩が挙げられ、石工の多い国でもある。国を覆う石壁は魔術的な防御も加わり、堅牢な護りを実現しているらしい。

「おい!そこの車!止まれ!中を検めさせてもらう!」
 国の玄関とも言える門のところにいた兵士が駆け寄り、警告するも装甲車はハッチを開けることなく突き進む。

「失礼。私はウィンゲーツ・ウルムシア。君らの上司達とはアポが取れている。通して貰えないかな?」
「なっ」
(そりゃ宣戦布告予定の国の元首が押しかけてくればそうなるよ……うん。)

 内心兵士に同情しつつ鋼鉄らしき門の前で一旦停車する。
「何をしている。早く開けてくれ。」
「は、はぁ……。」
 どうやら伝令を走らせているようだ。通信機を使えばいいだろうに…。傍受を恐れたのかもしれない。
『傍受を恐れようにも顔に書いてありますけどね』
「420、私の心を読むのはやめて。」
『了解しました。お姉様。』
「因みに彼らの顔にはなんて書いてあるんだい?」
『「は?何言ってんだこいつら……でも一応万が一があっても困るしクラッツ隊長に丸投げしよう」って感じですね。』
「へぇ。クラッツ隊長……ね」

 その後数分待たされ、しばらくの話し合いの後、私達と皇帝の入国が許可された。
 大聖堂のような建物に続いている一本道を通り、装甲車を大聖堂の前に停めた。

「これはこれはようこそ。初めまして。私は
セルキア聖教国教主代理アームス・エデデンガルドでございます。」

 教主代理と名乗った小太りな男は風呂でも入っていたのかと聞きたくなるほど酷く汗ばんでいた。早速420が内心を盗み見始める。

「かの大国ウルムシアの皇帝陛下がこのような美女だったとは。羨ましいです。」
「うむ。ありがとう。今回の訪問は公式的なものだ。会議の準備はどういう流れになっている?」
「はい。この後歓迎の意を込めた晩餐会を開かせて頂き、明日、我が国の元老院を交え会議を行う流れとなっております。」
「そうか。わかった。」

 晩餐会と聞いた陛下の苦虫を噛み潰したような顔はなかなか見れるものでは無い。内心ほくそ笑みながら国のトップの会話を見ていた。
「それでは。また後ほど晩餐会でお会いしましょう。」
「……あぁ。」

 晩餐会が惨劇の始まりになる。火種は大火へと移変わろうとしていた。

「罪歌の乙女」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く